防災評論 第82号
山口明の「防災・安全 ~国・地方の動き~」
防災評論家 山口 明氏の執筆による、「防災・安全 ~国・地方の動き~」を掲載致します。防災対策を中心に、防災士の皆様や防災・安全に関心を持たれている方々のために、最新の国・地方の動きをタイムリーにお知らせすることにより、防災士はじめ防災関係者の方々の自己啓発や業務遂行にお役立てて頂こうとするものです。今後の「防災・安全 ~国・地方の動き~」にご期待下さい。
防災評論(第82号)【平成29年5月号】
【目次】
〔政治行政の動向概観〕
〔個別の動き〕
01、山岳ヘリ救助 有料に(埼玉県)
02、民泊、許可営業は16%(厚生労働省・自由民主党)
03、被災地の小中学校8%減(地方公共団体)
04、ため池耐震化に新制度(農林水産省)
05、さまよう自主避難者(福島県関連自治体)
06、旧耐震基準物件 震度6強24%倒壊も(国土交通省)
07、長野ヘリ墜落 山岳救助打撃大きく(長野県・地方公共団体)
08、救急車要請判断 スマホで(消防庁)
09、防潮堤 津波警報に連動(岩手県・宮城県)
10、広域避難 最大145万世帯(東大)
11、泊原発近くの地盤隆起 地震が要因「否定できず」(原子力規制委)
12、緊急事態条項訴え(衆院憲法審)
13、いじめ防止、基本方針改定(文部科学省)
14、重力値40年ぶり改定(国土地理院)
15、救急車の出動最多(消防庁)
16、「温泉マーク」併存決定(経済産業省)
17、大震法見直し 取りまとめ延期(内閣府)
18、子育て支援 災害時も(荒川区)
19、冬山全面禁止を検討(栃木県教委〈関連〉内閣府)
20、災害時水道提供 東村山市と協定(西武鉄道)
〔政治行政の動向概観〕
最近教育を巡る醜聞とも言える事態が相次いでいる。国の将来を担う人材を育てることを使命とする教育分野での“揺らぎ”は懸念すべき傾向ではあるが、冷静に観察する態度も一方では必要である。
終盤の国会を賑わしている森友学園問題と加計学園問題。状況は異なるがいずれも政治が開校手続きに深く関与しているのではないかとの疑惑である。政権トップと主義主張や交遊で親密な関係のある者が惹起した事件ではあるが、それが法に抵触するような事件であるどうかとは別問題であり、本来ならば当事者が説明責任を尽くして物事を国民の前に公開すべきところだが、実際はそうなっていないところに問題をかえって深刻化させている根源がある。
防災の世界でも同様で、静岡県を中心に「いつ発生してもおかしくない」東海地震のみに対処するため、1978年に制定された大規模地震対策特別措置法(大震法)が制定後39年を迎え、南海トラフのほかの震源域で発生する東南海、南海両地震との発生周期差がほとんど無くなったことから、内閣府では大震法の廃止も含めた見直し作業を進めている。しかし、この問題が提起されてから2年以上も経ち、内閣府が見直し期限としていた今年3月末にも結論が出ず、延々と小田原評定が続いている。何が結論を長引かせているのかはっきりしないにも係わらず、明日にも南海トラフ全域を震源とする巨大地震が発生するとの説もあり、日本を襲う代表的なこの大災害へのしっかりとした方針が定められないまま揺らいでいる。少なくとも当局や関係者は結論を出すのが遅れている合理的な説明を果たすべきである。
森友、加計両問題とも背後に学園経営者の利得が蠢いていることは疑いない。大震法を巡る不透明な議論の中にそれと類似の事象は無いと確信するが、そのような疑惑が続く中では先手を打った政策対応が求められる。防災の世界に教育界が抱えるようなスキャンダルを持ち込ませないためにも正しい判断が求められる。
〔個別の動き〕
1、山岳ヘリ救助 有料に(埼玉県)
埼玉県は防災ヘリコプターによる山岳救助を事実上、有料化する制度を導入する。安易な救助要請に歯止めをかける狙いで、自治体として全国初の事例となりそうだ。
防災ヘリの運航に関する条例を改正し、県内で登山中に遭難した人を県の防災ヘリコプターで救助した場合に、燃料費分の5万円程度を徴収する。民間ヘリは救助に数十万円かかるというが、約1時間飛行した場合の燃料費を基に算定した。林業に従事する人などは対象から除く。
埼玉県では2010年、秩父市の山中で県防災ヘリが遭難者を救助中に墜落し、乗員5人が死亡した事故があった。その際、有料化が検討されたが、航空運送事業の許可が必要になるなどの法的課題があり見送った。今回は経費の一部を運賃ではなく地方自治法上の「手数料」とすることなどで解決した。
2、民泊、許可営業は16%(厚生労働省・自由民主党)
住宅を宿泊施設として活用する「民泊」について、厚生労働省が全国の約1万5千物件を調査したところ、営業許可を得ていることが確認できたのは16.5%にとどまることが分かった。少なくとも約30%が無許可営業だった。
同省によると、昨年10~12月、インターネット上の民泊仲介サイトで紹介されている物件から全国の1万5,127件を抽出して調査。営業許可を得ていたのは2,505件(16.5%)で、4,624件(30.6%)は無許可だった。残りの7,998件(52.9%)は詳細な住所の情報がなく、物件の特定ができないなどの理由で許可の有無を確認できていない。
また、1泊当たりの平均宿泊料金は、許可を得ている物件が1万6,571円だったのに対し、無許可物件は7,659円と半額以下だった。
厚労省は、無許可営業の罰則を大幅に引き上げる旅館業法改正案を国会提出する。
また、自民党は、国土交通部会などの会合で、住宅に旅行者を有料で泊める民泊を解禁するための住宅宿泊事業法案(民泊新法)を了承した。民泊を普及させ訪日観光客拡大を狙うものだが、営業日数について年間180日を上限とし、自治体が条例で日数を制限できるようにする内容で決着。法案の見直し規定も施行後5年から3年に短縮し、自民党を支持する旅館・ホテル業界に配慮した。
3、被災地の小中学校8%減(地方公共団体)
東日本大震災で大きな被害が出た岩手、宮城、福島3県内の42市町村で、小中学校の数が震災直後から70校減少したことが分かった。減少率は8.8%で、全国の5.6%を上回る。震災による住民の転出で児童・生徒数の減少が加速し、統廃合が進んだ。地域コミュニティーの中核や防災拠点が不足する恐れがある。
42市町村は、津波被害に遭った沿岸部と東京電力福島第1原子力発電所事故の避難区域となった自治体。2011年度と2016年度の公立小中学校の数を集計した。
2011年度は計797校だったが、統廃合や閉校で2016年度は計727校になった。県別では、調査対象が12市町村の岩手で、15.6%に当たる27校が減った。15市町の宮城は6.3%の25校、15市町村の福島は8.0%の18校がそれぞれ減少した。
4、ため池耐震化に新制度(農林水産省)
政府は全国のため池の耐震化を加速させる新たな制度を作る。東日本大震災で福島県のため池が決壊して8人が死亡する惨事が発生したことを教訓に、国や都道府県が必要と判断すれば、農家の同意や農家の費用負担なしに対策工事を行えるよう改める。土地改良法改正案の今国会中の成立を目指す。
ため池は農業用水を確保するために人工的に造られたもので、全国に約20万か所ある。農林水産省によると、決壊した場合、下流の住宅などに大きな被害をもたらす恐れのある「防災重点ため池」のうち、昨年3月末時点で把握している分だけでも全国の1,837か所で耐震構造上、問題があった。
しかし、現在の制度では、ため池の水を使う農家の3分の2の同意と申請がなければ耐震化工事に着手できない。昨年4月の熊本地震でひび割れなどの被害を受けたため池を抱える熊本県も補修を進めているが、同意を取り付けるのに時間がかかる。自治体によっては農家が工事費の一部負担を求められる場合もあり、農家による申請の足かせとなっている。
法改正案には、耐震性が不足していると判断されたため池について、農家の同意なしに耐震化工事を進めやすくする規定を盛り込んだ。農家に費用負担を求める場合に限り、農家の同意を条件とする。工事では、ため池の水を抜くため、季節によって農業生産への影響が避けられない。農家の同意を不要としても、丁寧な説明は欠かせない。
5、さまよう自主避難者(福島県関連自治体)
避難指示区域以外から退避した「自主避難者」は3月末、災害救助法に基づく住宅の無償提供が打ち切られる。「新しい住まいが決まらない」。そんな相談が相次いでいる。
福島県によると、2月17日現在、福島第1原発事故の自主避難者は約1万2,200世帯。県が戸別訪問した結果、9割超の約1万1,300世帯は4月以降の住居が「決まった」と答えたものの、250世帯は「未定」だった。県は住居確保に向けた支援策を説明するため今後も戸別訪問を重ねるという。
県によると、自主避難者のうち県外に避難している人は今年2月時点で3万9,598人。大震災1年後の2012年3月の約6万2,700人から減ってきているが、なお4万人近い。
災害救助法に基づく仮設・借り上げ住宅の無償提供は政府が実質的に負担してきた。だが2015年6月に放射線量が非常に高い「帰還困難区域」を除いた区域の避難指示を2017年3月までに解除する方針を提示。同時に無償提供も一律延長が廃止となり、自主避難者への支援は各自治体で異なる。
6、旧耐震基準物件 震度6強24%倒壊も(国土交通省)
災害に対するもろさを露呈した東日本大震災から6年。自治体が公表を始めた旧耐震基準の大規模建築物の診断によると、震度6強以上の地震で24%に倒壊の恐れがあることが分かった。東京都内では緊急物資を輸送する幹線道路沿いに立つ3千棟の建築物が、倒壊して道を塞ぐ可能性がある。
2013年施行の改正耐震改修促進法で、1981年5月以前の旧耐震基準で建てられた不特定多数の人が集まる施設に耐震診断を義務づけた。自治体は耐震基準に満たない施設の名称を公表し始めている。
発表済みの25県の調査結果を独自集計した。約2千件のうち、東日本大震災級の震度6強以上の地震で倒壊する危険性が「高い」建物が14%、危険性が「ある」が10%にのぼった。東京都や大阪府の公表はこれからだ。
施設名が公表され、営業の休止を決断せざるをえない例も相次いでいる。
該当する施設を年度内に公表予定の神奈川県では、富士屋ホテル(箱根町)が耐震改修のため2018年4月から約2年間休業すると発表した。改修方針を定めないままに対象リストに記載されれば、不安を招く可能性もあったためだ。
改正法は、耐震診断や改修に取り組むよう施設側の背中を押す効果があった。同時に、災害時に被害を及ぼしかねない建物が身近にあるという事実を住民につきつけている。
東京では別の調査で、リスクの高い建物が多く存在することが分かった。都は2011年、災害時に緊急車両が通る「特定緊急輸送道路」を指定し、沿道の建築物の耐震診断を義務化した。2016年末段階で総延長1千キロメートルの沿道に立つ約1万8千棟のうち16%にあたる3千棟超が耐震基準を満たしていない。倒壊すれば道路を塞ぎ、消防車や支援物資を運ぶ車両が通行できない。
特定緊急輸送道路に指定された新宿通り沿いで店舗を営むビルオーナーは頭を抱える。築45年のビルは旧耐震基準で建てられ、建て替えか耐震補強が必要だ。建て替えなら建築費やテナントへの立ち退き料を含め3億円が、耐震改修でも5千万円はかかるという。都は補助制度を設けているが、建物の所有者が工事に踏み切れないままでは倒壊の可能性はつきまとう。
郊外の住宅地にも大きな被害につながりかねない要素が潜む。東日本大震災で東北を中心に起きた地滑りのうち約9割を占めたとされる「大規模盛り土造成地」。谷や沢を埋めて宅地などにした土地で、国はその場所を調査・公表するよう自治体に促している。
国土交通省によると、2016年7月時点で全国の自治体のうち43%が公表した。東京都内の自治体が公表率100%、神奈川県や埼玉県も80%を超えるが、千葉県は7.4%。地価下落や風評被害を恐れて公表に否定的な自治体もあり、足並みがそろわない。2016年4月の地震で多くの地滑りが起きた熊本県は0%だった。過去の災害では造成宅地で狙い撃ちされたように被害が出ている。早急に調査すべきだとの指摘もある。
7、長野ヘリ墜落 山岳救助打撃大きく(長野県・地方公共団体)
長野県の消防防災ヘリコプターが墜落、搭乗員9人全員が死亡した事故が発生。県警は残された映像を手掛かりに原因解明を急ぐ。人命救助の要を失った長野県は今後の救助態勢が整わず、活動に影響が出ている。
2013年1月時点で、全国のパイロット約千人のうち40代以上が約8割と高齢化が進む。気流や風が常に変わる山岳地帯で長時間ホバリングし続けるには、相当な訓練が必要である。
年300件近くの山岳遭難が起きる長野県だが、後任のパイロットや機体のめどは立っていない。救助要請には当面、県警や応援協定を結ぶ他県が保有するヘリで対応する方針で、民間事業者への委託も検討している。
8、救急車要請判断 スマホで(消防庁)
消防庁は、けがや病気の症状で緊急度を判定するサイトを開発した。スマートフォンなどでアクセスし、案内に従って病状や痛みの部位、強さなどを選んでいくと、救急車を呼ぶ必要があるかの目安を教えてくれる仕組み。子どもの急な高熱など対応を迷うようなケースで参考にしてもらい、出動件数が増え続ける救急車が重症者を効率よく搬送できるようにするのが狙い。
サイト名は「Q助(きゅうすけ)」で、消防庁のホームページからたどれるようにする。まず「反応がない」「声が出せない」など命に関わる恐れのある症状から聞き、該当しない場合は、痛みのある部位や強さを問う設問などに進む。その結果、緊急性が高いと判断されれば「今すぐ救急車を呼びましょう」、それ以外は「緊急ではないが医療機関を受診した方がよい」「様子を見て」といったメッセージが表示される。
判定後、自身で出向く場合に、病院を探せるよう各地の医療機関を紹介する厚生労働省のサイト情報を掲載する。このほか各自治体の消防本部がこのサイトを基に、地元の医療機関をのせた救急受診ガイドに作り替えて運用することもできるようにする。
9、防潮堤 津波警報に連動(岩手県・宮城県)
東日本大震災の津波で大きな被害を受けた岩手県や宮城県は津波警報に連動し、防潮堤の水門を自動閉鎖するシステムを導入する。震災時に津波が川を遡るのを防ぐために、水門を操作しようと防潮堤に向かった消防団員らが犠牲になった。深夜や早朝に地震が起きても水門を自動化によって迅速に閉鎖し、浸水や人的被害を抑える。
岩手県のシステムは消防庁から津波警報などのデータ「全国瞬時警報システム(Jアラート)」を衛星回線で受信し、防潮堤の水門や陸上開口部に取り付けた自動装置へ閉鎖信号を即座に送る。地震発生から9分以内に県内の約220か所の防潮堤を全て閉鎖できる。
現在は閉鎖装置を各地に設置中で、2019年度の完了を見込む。総事業費は68億円。
宮城県は県庁と閉鎖装置を回線で結び、気象庁の津波警報などに基づく閉鎖信号を送る。県内約300か所の水門などが対象。
高い防潮堤を建設しても、河川の水門や漁港などに通じる陸上開口部は平時には開けておく必要がある。水門などを閉鎖する際は防潮堤付近で手動操作したり、遠隔操作する場合も作業員が閉鎖スイッチを入れたりする必要があるケースが大半だった。岩手、宮城県両県は津波を防げる高さの防潮堤の建設と自動閉鎖システムの導入を並行して進め、将来の大津波に備える。
10、広域避難 最大145万世帯(東大)
マグニチュード(M)9級の南海トラフ巨大地震が発生した場合、住んでいる自治体を離れて広域避難を迫られる世帯は、最大で約145万6千世帯に上るとの試算を、東大のチームがまとめた。東日本大震災では同じ自治体内も含めて約33万世帯が転居したが、それを上回る恐れがある。
チームは人的被害が多くなると推測される東海地方が大きく被災するケースを想定。政府の被害想定や各地の賃貸住宅の空き家数などを基に、避難世帯の数や動きをシミュレーションした。
その結果、親戚や知人宅に避難できる世帯と、同じ自治体内で空いている賃貸に入居可能な世帯などを除き、太平洋沿岸部を中心に246市区町村の約145万6千世帯が広域避難を余儀なくされると推計した。
他の都道府県への流出数では、愛知が約22万7千世帯、静岡が約18万8千世帯で、三重県伊勢市や和歌山県串本町など沿岸部の30市区町村は世帯が半減した。一方、転入先となるのは被災が少なく賃貸住宅が多い都市部で、福岡県は約15万5千世帯、神奈川県は約11万6千世帯となった。
11、泊原発近くの地盤隆起 地震が要因「否定できず」(原子力規制委)
原子力規制委員会は、北海道電力泊原子力発電所(北海道泊村)が立地する積丹半島西岸にある地盤の隆起について「地震による可能性が否定できない」と判断し、付近の海底に活断層が存在することを前提に安全審査を進める方針を示した。北電に対し、地震の影響を再検討するよう求めた。
北電は地震ではなく、波の浸食などによってできたと主張していた。
想定される最大級の地震の揺れが大きくなり、追加の耐震補強が必要になる可能性もある。北電は1~3号機の再稼働を目指しているが、審査は長引きそうだ。
審査会合で規制委は、積丹半島西岸や過去に地震で隆起したことが分かっているほかの地域の地形データなどを提示。これまでに実施した現地調査なども併せて分析し、海底活断層を想定すべきだと結論づけた。
2013年7月の審査申請以来、積丹半島西岸の隆起について議論が続いていた。
12、緊急事態条項訴え(衆院憲法審)
衆院憲法審査会は、「参政権の保障をめぐる諸問題」をテーマに議論を再開した。首相の解散権のあり方や、大災害時に国会議員の任期延長を認める緊急事態条項をめぐり与野党6会派が見解を表明。自民党は、自然災害により被災地で選挙が執行できない例を挙げ「国会議員の任期延長などの手当てを憲法上行うことは必須だ」と訴えた。
13、いじめ防止、基本方針改定(文部科学省)
文部科学省は、東日本大震災で被災したり、東京電力福島第1原発事故で避難したりした子どもに対するいじめの未然防止・早期発見に取り組むことなどを盛り込んだ、新たな国のいじめ防止対策の基本方針を決定し、全国の教育委員会などに通知した。基本方針改定は初めて。心身の被害が大きい「重大事態」の調査結果は「公表することが望ましい」とする指針も通知した。
基本方針では、各地で震災に関するいじめが発覚したことを受け、被災した子どもが心身に受けた影響や慣れない環境への不安感を教職員が十分に理解し、心のケアを適切に行うと明記した。
いじめが「解消された」と判断できる要件も提示。加害行為がやんだ状態が相当の期間続き、被害者が心身の苦痛を感じていないと認められる場合とし、相当の期間は「少なくとも3か月を目安とする」とした。再発の可能性を踏まえ、被害者と加害者を日常的に観察する必要性にも言及した。
重大事態を巡っては、教委が第三者委員会による調査結果を公表しないケースも多いが、今回の通知では「特段の支障がなければ公表することが望ましい」と指摘。被害者と保護者への事前報告も必要だとした。
重大事態の具体例として、複数人から金銭を要求されて総額1万円を渡したケースなどを挙げた。
14、重力値40年ぶり改定(国土地理院)
国土地理院は、国内各地200か所以上の地上で、どの位の重力が働いているかを示した重力値を40年ぶりに改訂したと発表した。東日本大震災や熊本地震などで起きた地殻変動による変化も反映した。
計量機器などの校正や活断層調査に使われる。最も変化の大きい新潟県の佐渡市では新データを使うことで60キロの人の体重が0.006グラム軽くなるという。
地理院によると、重力の大きさは場所によって異なり、地球の中心からの距離が遠い標高の高い場所や、低緯度地域で小さくなる。
このため同じ1キロの物でも北海道よりも沖縄のほうがわずかに軽くなるといい、同じ重さを示すように各地の重力値を使って計量機器は校正されてきた。
地理院は2002年から2016年までに行った観測結果を踏まえた約260か所のデータを公表。東北地方では東日本大震災を起こした巨大地震で地盤が沈んだ影響で、重力が大きくなった。九州では熊本地震で動いた断層を挟んで大きくなったり、小さくなったりした場所があった。
佐渡市をはじめ全国的には重力が小さくなる場所が多かった。地理院は「重力計の精度が高くなり、正確な値を測定できるようになったため」と説明している。
15、救急車の出動最多(消防庁)
2016年の救急車出動は621万82件で、搬送者は562万889人に上ることが、消防庁が発表した速報値で分かった。件数、搬送者ともに前年から2.6%増え、7年連続で過去最多を更新した。高齢化に伴う急病への対応が原因。熊本、鳥取は大地震で自然災害関連の出動も急増した。
消防庁は、緊急性の低い転院搬送では救急車を利用しないよう呼び掛けているが、効果は限られている。担当者は「隊員はさほど増えておらず、過重な負担を抱えている」と指摘。けがや病気の際に救急車を呼ぶべきかどうかが分かるサイトの活用を自治体に求めていく方針だ。
搬送者のうち、65歳以上は前年から10万7,223人増え、全体の57.1%を占めた。出動理由別の搬送者は急病の64.2%が最多で、けがなどの一般負傷が15.1%、交通事故が8.5%と続いた。搬送された人の49.2%は、入院が不要な軽症者だった。出動件数は福島、静岡、滋賀、香川を除く43都道府県で前年より増えた。増加率は熊本県の7.9%が最も高く、沖縄5.8%、奈良5.4%と続いた。
自然災害による搬送者は658人。大きな地震のあった鳥取、熊本、台風10号で被災した岩手は増加が目立った。消防庁は、出動理由が急病となっている中にも、避難生活のストレスに伴う病状悪化などが含まれているとみている。
16、「温泉マーク」併存決定(経済産業省)
経済産業省は、東京五輪・パラリンピックに向け、外国人にも理解されやすい案内用の図記号を検討する委員会を開き、「温泉マーク」について国際規格と併存する最終案を決定した。
一方、駐車場、手荷物受取所、救護所、乗り継ぎ、ベビーケアルームの5つの図記号は、アンケート結果などから判断し変更する案を決定。現行の図記号は2年の移行期間を経て、国内規格でなくなる。
17、大震法見直し 取りまとめ延期(内閣府)
東海地震に備えた大規模地震対策特別措置法(大震法)の抜本的な見直しを話し合う中央防災会議の有識者会議は、当初予定していた3月末までの報告取りまとめを見送ることで一致した。東海、東南海、南海の3地震が連動して起きる南海トラフ巨大地震を想定し、大震法を拡大適用するための課題を巡って議論が続いているため。
丁寧に議論を進めており、2017年度内の取りまとめを予定するとしている。(巻頭参照)
18、子育て支援 災害時も(荒川区)
東京都荒川区は、図書館や子どもの遊び場、託児室などを備えた複合施設を開館する。災害時には帰宅困難者を受け入れるほか、乳幼児専用の避難所として活用できる。
新施設「ゆいの森あらかわ」は区の図書館の建て替えを機に複合施設として整備した。地上5階、地下1階建て。延べ床面積は1万900平方メートルで、総事業費は約90億円。新しい図書館は60万冊を所蔵し、壁に絵本の表紙を飾ったホールで、映画上映会や講演会を開催できる。
災害時に備え、倉庫には乳幼児が食べやすい非常食や紙おむつを備えた。子連れの避難生活の負担を軽減するために、乳幼児専用の避難所として利用できる。
19、冬山全面禁止を検討(栃木県教委〈関連〉内閣府)
雪崩事故を受け栃木県教育委員会は、高校生の冬山登山全面禁止のほか、これまで審査の対象外だった講習会を審査対象にして安全性を事前にチェックするなど、新たな事故防止対策の検討を始めることを決めた。
高校生の冬山登山について、栃木県では11~2月を冬山とし、県高校体育連盟の登山専門部委員らで構成する審査会が登山計画を審議。装備や行程などを確認して問題がなければ許可していた。
登山講習会は冬山登山の審査会メンバーらが所属する高体連登山専門部が主催していることなどから、審査は不要とされていたが、事故を機に見直しを検討するとしている。
危険な場所に行かないことを前提としており、遭難時に位置を特定するビーコン(電波受発信器)の携行も求めておらず、死亡した高校生らも持っていなかった。
また、栃木県那須町の雪崩事故を受けた政府の関係省庁会議が開かれ、防災担当相は「自治体と緊密に連携し、警戒態勢の強化や危険な場所の巡視など政府一体となって雪崩事故の防止に取り組んでほしい」と指示した。
会合では今後の気象状況を確認し、住民や登山者への注意喚起を早い段階で行うことなど事故防止策について協議。内閣府は自治体に対し、雪崩事故の救援活動を迅速に行うため関係機関の連絡先の点検などを求める通知を出した。
20、災害時水道提供 東村山市と協定(西武鉄道)
西武鉄道は、東京都東村山市と西武園ゆうえんち(埼玉県所沢市)の専用水道の使用に関する協定を結んだ。同社は昨年、休止中だった古井戸を改修し、地下水を膜でろ過するシステムを導入した。大規模災害時などに同園から距離が近い同市に飲料水として提供する。
古井戸(深さ185メートル)はかつて、園内の池への給水に使っていた。地下水を飲料水として活用できるよう、同社は昨年3月に細菌類を除去する「地下水膜ろ過システム」を導入した。浄化能力は1日当たり480トンで、同16万人分の給水を賄えるとしている。
協定にはこのほか、園内の駐車場2か所(収容台数は計約400台)を物資を一時的に保管したり、車中泊希望者の駐車場所として使用したりできる項目も盛り込んだ。
[防災短信]
01、にぎわい戻れ!新商店街
~南三陸町で移転開業 仮設商店街には100万人以上来訪~ 2017年3月13日付
日本経済新聞(夕刊)
02、消防の女性「セクハラ」28%、「パワハラ」は男性の17%
~消防庁調べ 閉鎖的な環境が原因~ 2017年3月30日付 日本経済新聞(夕刊)
03、富岡―竜田 10月再開
~常磐線、2か月前倒し~ 2017年3月11日付 日本経済新聞(夕刊)
04、教訓生かせ 各地で訓練
~大震災から6年 東京都水道救援隊が発足~ 2017年3月11日付 日本経済新聞(夕刊)
05、地域の防災 学生が支え
~大阪成蹊大 愛知淑徳大~ 2017年3月22日付 日本経済新聞
06、除染下請け巡り口利き
~環境省職員(逮捕)元請業者に~ 2017年3月03日付 日本経済新聞
07、長野県ヘリ墜落、県庁捜索
~長野県警 業務上過失致死容疑~ 2017年3月26日付 日本経済新聞
08、大川小校舎 現状保存へ
~石巻市 2019年度までに環境整備~ 2017年3月29日付 日本経済新聞
09、診療所院長 不起訴へ
~福岡地裁 10人死亡火災過失責任問えず~ 2017年3月09日付 日本経済新聞(夕刊)
10、高台移転 高齢者に負担
~岩手県、宮城県 防災集団移転事業~ 2017年3月06日付 読売新聞
11、地下鉄が洪水被害増幅
~大阪市 淀川決壊時の避難見直し~ 2017年3月01日付 日本経済新聞
12、「セブン&アイ」、「イオン」指定公共機関に
~内閣府、経産省 震災時の物資拠点に~ 2017年3月05日付 日本経済新聞
13、研究者3.11の悔しさバネ
~京大、和歌山大、兵庫県立大、東北大、香川大 津波防災「次」に挑む~
2017年3月06日付 日本経済新聞
14、帰宅困難者に霞が関開放
~内閣府など受け入れ訓練~ 2017年3月09日付 日本経済新聞(夕刊)
15、「被災時の計画ある」45%
~災害拠点病院、策定に遅れ~ 2017年3月07日付 日本経済新聞
16、浜岡原発事故時の避難先 県外349市区町村に
~静岡県広域避難計画~ 2017年3月15日付 日本経済新聞
17、被災寺院 復旧未だ4割
~東日本大震災被災3県~ 2017年3月15日付 日本経済新聞
18、不明者の捜索縮小
~福島県警 2017年4月から~ 2017年3月15日付 日本経済新聞
19、被災状況 AIが見抜く
~SNSや避難所の声を分析 情報通信研究機構~ 2017年3月16日付 日本経済新聞
20、言葉の壁乗り越え安全確保
~六本木ヒルズ IT使い多言語対応~ 2017年3月04日付 日本経済新聞
【参考文献】
1、 | 2017年3月02日付 | 日本経済新聞 |
2、 | 2017年3月02日付 | 日本経済新聞(夕刊) |
3、 | 2017年3月03日付 | 日本経済新聞 |
4、 | 2017年3月06日付 | 読売新聞 |
5、 | 2017年3月09日付 | 日本経済新聞 |
6、 | 2017年3月12日付 | 日本経済新聞 |
7、 | 2017年3月13日付 | 日本経済新聞 |
8、 | 2017年3月13日付 | 日本経済新聞(夕刊) |
9、 | 2017年3月13日付 | 日本経済新聞(夕刊) |
10、 | 2017年3月15日付 | 日本経済新聞 |
11、 | 2017年3月16日付 | 日本経済新聞 |
12、 | 2017年3月16日付 | 日本経済新聞(夕刊) |
13、 | 2017年3月17日付 | 日本経済新聞 |
14、 | 2017年3月17日付 | 日本経済新聞 |
15、 | 2017年3月22日付 | 日本経済新聞(夕刊) |
16、 | 2017年3月23日付 | 日本経済新聞 |
17、 | 2017年3月25日付 | 日本経済新聞 |
18、 | 2017年3月29日付 | 日本経済新聞 |
19、 | 2017年3月29日付 | 日本経済新聞 |
20、 | 2017年3月31日付 | 日本経済新聞 |
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