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防災評論 第9号

 山口明の「防災・安全 ~国・地方の動き~」

防災評論家 山口 明氏の執筆による、「防災・安全 ~国・地方の動き~」を掲載致します。防災対策を中心に、防災士の皆様や防災・安全に関心を持たれている方々のために、最新の国・地方の動きをタイムリーにお知らせすることにより、防災士はじめ防災関係者の方々の自己啓発や業務遂行にお役立てて頂こうとするものです。今後の「防災・安全 ~国・地方の動き~」にご期待下さい。

 

第9号 

 

〔政治行政の動向概観〕

 9月1日(平成22〔2010〕年)の防災の日には、恒例の政府主催の総合防災訓練を始め、各地で防災士も加わって多彩な防災訓練が行われた。今回の政府防災訓練では、防災担当大臣の指示もあり、初めて東海、東南海及び南海の海溝型巨大3地震が同時に発生したという想定のもとで実施された。ただ、政府及び地方自治体において、今のところ3地震が同時発生した場合の被害状況については想定されていなく、またその場合の対応体制についても定まっていないことから、言わば手探りの状態での訓練となったが、本来災害というものは予期せぬときに突発するものであり、きれいに整ったシナリオ通りに「訓練」を実施しさえすれば事足りるというものではない。その意味からも今回の大臣指示には一定の評価がなされよう。なお、当日は菅首相が現職の内閣総理大臣としてこの訓練の指揮を執ったが、折りしも事実上の内閣総理大臣を決める民主党代表選挙の投票を14日に控えていたため、中途半端なタイミングの感を否めなかった。
 昨年の9月1日も、総選挙での敗北と辞任が確定し、15日後に政権交代を控えた自民党の麻生首相が、法制上の現職内閣総理大臣として指揮を執っていた。また、次代の鳩山首相は、一度も「9・1訓練」を経験しない内閣総理大臣となった。訓練の実効性確保と、国政トップの危機管理能力向上を図る見地から、「9月1日厳守」という現在の訓練日程を再考すべき政治情勢にあるのではなかろうか。
 一方、9月7日には、沖縄県尖閣列島沖の我が国領海で、中国漁船と海上保安庁の巡視船とが衝突し、中国人船長が公務執行妨害で逮捕されたものの、中国からの強い抗議で13日にこれを釈放し、挙句の果てには謝罪と賠償を請求されるという事件があった。中国は、GNPにおいて世界第2位になろうとする経済力と、拡張する軍事力を背景に、東・南両シナ海で膨張政策を展開している。中国は、ASEAN諸国との間にも、これまでに何回も事件を引き起こしている。尖閣事件に対する様々な評価はあろうが、日本政府に事件発生後の中国の出方を洞察できる危機管理能力が不足していたことは否めない。中国という大国に民間出身の大使を充てるなどの外交人事や安全保障体制に問題はないのか、万一の武力攻撃突発という事態は本当に起こり得ないのか、などのすべての危機管理面での点検が必要であろう。
 今年の夏は記録づくめの異常気象となり、100年ぶりの猛暑ということで3桁の人々が熱中症で亡くなった。一部には、救急搬送体制の見直しや住宅改善を模索する動きもあるが、「暑いときに熱中症になるのは仕方がない」という受け止め方が一般的である。しかし、死者・傷病者の数からみて今年の猛暑は既に「災害」のレヴェルに達している。災害予防・応急対策、復旧という3つのベクトルをもとに、もう一度猛暑対策を総合的に再構築して、それを今後の地球温暖化(気象変動)の抑止に活用するべきではないか。防災士においても、そのようなマインドを身に付けることが求められる。

 

〔個別の動き〕

1、熱中症による搬送状況(総務省消防庁)

 「政治行政の動向概観」でも触れたように、今年(平成22〔2010〕年)は、熱中症患者が数多く発生した。

 ここでは、今年6月と7月における、気象の状況と、熱中症患者の救急搬送の状況とについて概説する。

(1)6月の気象の状況

 月の前半は、梅雨前線が日本の南海上に停滞し、本州付近が移動性高気圧に覆われたため、北日本から西日本にかけての範囲においては晴れの日が多く、沖縄から奄美にかけての地域においては曇りや雨の日が多かった。

 気温については、月の初旬においては、寒気の影響により全国的に低くなったが、その後は上昇し、北日本から西日本にかけての範囲において「月平均気温」は高値を記録した。特に、この時期としては著しく暖かい空気に覆われた北日本では、26日に「猛暑日」を記録したほか、釧路では年を通じての日当たりの最高気温値を更新した。これらについては、北海道における熱中症による救急搬送人員が、他の地域におけるそれよりも多くなっていることを裏付ける要因となり得よう。

(2)6月の搬送の状況

 当月中に全国で救急搬送された熱中症患者は2,276人だった。

 まず、救急搬送された熱中症患者を年齢区分ごとに分類すると次のようになる。

 

表―1

年齢区分

人員(人)

比率(%)

高齢者(65歳以上)

972

42.7

成人(18歳以上65歳未満)

963

42.3

未成年(7歳以上18歳未満)

286

12.6

その他

55

2.4

2,276

100.0

 

続いて、搬送先の医療機関での初診時に医師によって判定された傷病等の程度ごとに分類すると次のようになる。

表―2

傷病等程度

人員(人)

比率(%)

軽症

1,418

62.3

中症

684

30.1

重症

75

3.3

死亡

4

0.2

その他

95

4.1

2,276

100.0

〔註〕

軽症:入院を必要としないケース

中症:軽症または重症以外のケース

重症:3週間以上の入院加療を必要とするもの以上のケース

死亡:医師による初診の時点で死亡が確認されたケース

 

(3)7月の気象の状況

 月の上旬は、梅雨前線が本州付近から本州の南に位置することが多く、全国的に曇りや雨の日が多かった。中旬になると、梅雨前線は本州付近から日本海まで北上し、東・西日本では大雨を記録したが、中旬の終盤からは日本付近で太平洋高気圧が優勢となったため、東日本以西では晴れの日が多くなり、東日本を中心に日当たりの最高気温が35℃以上になる猛暑日を記録するなど、各地で厳しい暑さが続いた。このような気象の状況が、7月中旬終盤から下旬にかけての時期に、救急搬送される熱中症患者の増加をもたらした要因を成している、と考えられる。

 

(4)7月の搬送の状況

 当月中に全国で救急搬送された熱中症患者は17,750人だった。これは、平成21〔2009〕年7月中に全国で救急搬送された熱中症患者5,294人の3.35倍に、また平成20〔2008〕年7月中に全国で救急搬送された熱中症患者12,747人の1.4倍に、それぞれなっている。  救急搬送された熱中症患者を年齢区分ごとに分類すると次のようになる。

 

表―3

年齢区分

人員(人)

比率(%)

高齢者(65歳以上)

8,634

48.6

成人(18歳以上65歳未満)

6,835

38.5

未成年(7歳以上18歳未満)

2,087

11.8

その他

194

1.1

17,750

100.0

 搬送先の医療機関での初診時に医師によって判定された傷病等の程度ごとに分類すると次のようになる。

表―4

傷病等程度

人員(人)

比率(%)

軽症

9,812

55.3

中症

6,538

36.8

重症

749

4.2

死亡

95

0.5

その他

556

3.2

17,750

100.0

〔註1

軽症:入院を必要としないケース

中症:軽症または重症以外のケース

重症:3週間以上の入院加療を必要とするもの以上のケース

死亡:医師による初診の時点で死亡が確認されたケース

〔註2

初診時における死亡は、平成212009〕年よりも0.3ポイント、平成202008〕年よりも

0.2ポイント、それぞれ増加している。

 

 都道府県別に人口10万人当たりで救急搬送された熱中症患者の数をみると、愛知県が最も多く23.0人で、次いで群馬県が22.9人となり、その次が埼玉県で21.0人となっている。

 

 

2、「新しい公共」概算要求(内閣府)

 防災士事業にも関係が深い「新しい公共」については、6月4日(平成22〔2010〕年)に取り纏められた「円卓会議の提案と政府の対応」や、6月18日に閣議において決定した「新成長戦略」に基き、各省において予算概算要求にこれを盛り込むべく検討が行われている。

 内閣府においても、予算措置に当たり、「新しい公共支援事業」を特別枠として設定し、これに関わる約100億円を概算要求した。

 この「新しい公共支援事業」は、3年間の時限措置として、都道府県に基金を設置し、それを通じてNPOなどの「新しい公共」の担い手達の活動を資金面からも支援しようとするものである。

 この基金は、従来の基金とは異なり、次のような諸点について「新しい公共」らしさを打ち出すことを目指している。

①<協働>基金の運用に当たっては、行政関係者のみならず、民間人も加わった「委員会」が、正に官民協働により行うこと。官による「ばらまき」という形態にはしないこと。また、基金の運用に当たっては、各地域の日本防災士会支部をNPO法人化する必要があると思われる。

②<公開>対象の選定から、事業の執行、成果の把握に至るまでの過程を、フルオープンの状態で実施すること。例えば、上記の「委員会」の議事を、インターネット上で完全中継する、など。

③<後援>3年後には、各担い手達が、自ら寄付を集め、自ら仕事を遂行できるように、行政はあくまでもそれまでの手助けに徹する、ということ。

 予算積算上は、1つの都道府県当たり平均2億円とし、雇用やそのほかの需要の創出もあると見込んでいる。

 この基金の成立に向けて、日本防災士会やその支部による働きかけが期待される。

 

 

3、津波情報観測点の増設(気象庁)

  気象庁は、平成22〔2010〕年7月1日に、津波の観測値を発表する地点を、従来の173か所から183か所に増やした。これにより、すべての津波予報区に関わる津波観測値を発表することが可能になった。
 また、気象庁では、沿岸の津波観測点で潮位データをリアルタイムで観測しているので、津波警報や津波注意報の発令時には速やかに津波の実況を知らせることができるし、その実況に基いて津波警報や津波注意報を変更したり解除したりする判断を行っている。
 このたび、新たに、7か所の沿岸津波観測点と、3か所のGPS波浪計から採取されたデータを活用できることとなった。これにより、66の津波予報区のうち、これまで津波観測点がなかった2つの予報区についても津波の実況監視が可能になり、またその2つの予報区からの観測情報の発信も可能になった。
 また、GPS波浪計は沖合いに設置してあり、沿岸到達以前の津波の実相を観測する場面で有用となろう。

 

表―5 新たに津波観測値を発表する地点(沿岸の観測点)

 

表―6 新たに津波観測値を発表する地点(GPS波浪計)

 

(参考)気象庁ホームページ

「津波情報で観測値を発表する地点が増えます」

 

 

 

4、緊急地震速報の訓練予告(内閣府、気象庁)

  内閣府と気象庁では、12月1日(平成22〔2010〕年)に、緊急地震速報に関わる全国的な訓練を実施する。その詳細は次の通りである。

(1)実施日:平成22〔2010〕年12月1日(水曜日)

(2)訓練の内容

①気象庁が、午前10時15分頃、訓練用の緊急地震速報(以下「訓練報」と表記する)を配信する。

②訓練に協力する民間の緊急地震速報の配信事業者は、気象庁から配信された訓練報を、家庭や民間企業等に設置された緊急地震速報受信端末に配信する。

③家庭や民間企業等の訓練参加者は、受信された訓練報に従って、机の下に隠れるなど、身の安全を確保するための行動を採る。身の安全を確保するための行動については、以下の気象庁ホームページに詳しく書いてあるので参考にされたい。

http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/EEW/kaisetsu/index.html

④国の機関や地方公共団体においても、同様に訓練を実施する。

⑤訓練に協力する配信事業者や訓練に参加する機関については、当該行政機関から通知される。

(3)訓練報によらない訓練

受信端末の訓練用の鳴動機能を使ったり、気象庁ホームページにある訓練キットを以下からダウンロードしパソコンにインストールしたりすることで、上記の訓練報を使わなくても訓練を行うことができる。

http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/EEW/kaisetsu/usage/index.html

 防災士におかれては是非かかる訓練に参加するよう薦める。

(参考)内閣府、気象庁 記者発表資料

「12月1日は緊急地震速報の訓練を行いましょう」

 

 

 

5、携帯サイトでの潮位状況の提供(海上保安庁)

 海上保安庁は、6月16 日(平成22〔2010〕年)から、全国87か所で観測したリアルタイムの潮位情報を携帯サイトからグラフで提供している。

http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/keitai/tide/index.html

 これまで、海上保安庁では全国の験潮所で観測している潮位情報をインターネットにより、リアルタイムで公開してきた。これに加えて、6月16日からは携帯サイトでも潮位情報を閲覧できるようになった。いつでも、どこでも、誰でも、気軽に、全国のリアルタイム潮位(過去6時間又は2時間の潮位変化)をグラフで確認できるようになった。

 高潮警報などの安全情報として、また潮干狩りや釣りなどのマリンレジャーに関わる人々への支援情報として幅広く利用できる。

 防災士も、この情報の収集と活用の方法については習熟しておきたい。

(1)提供地点

  地図―1の通り。

(2)情報コンテンツ

  各地点における潮位の図画情報や数値情報をリアルタイムで発信する。

①グラフ情報について

  最近6時間内、または2時間内の潮位の観測値と推算値のグラフを表示する。観測値は赤色線、推算値は青色線で表示する。

②数値情報について

   最近6時間内の毎正時の推算値と観測値を表示する。潮位の基準は海図の水深基準と同じ。

③更新時間について

  数値情報は1時間毎、グラフ情報は10分毎に更新する。

 

地図―1 潮位情報位置図

 (参考)海上保安庁ホームページ
「携帯サイトで全国の『今の潮位』がわかります」

 

6、身近な物品の事故(総務省消防庁、製品評価技術基盤機構)

 最近、身近なところにある製品などに関わる事故や欠陥が相次いで報告されている。以前にも社会問題となったパロマ社製の瞬間湯沸し機の場合のような悲惨で重大な事故に繋がることがないよう、身の周りの事故や欠陥の発生を未然に防ぎたい。

 

(1)扇風機・換気扇

 扇風機や換気扇が発火したり破損したりする製品事故は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に平成21〔2009〕年度までの6年間に報告されたものでも、合わせて236件ある。

 これらの中では経年劣化による事故が4割以上を占め、事故が齎した死傷者も15人に上る。

 同機構の担当者は、「叩くと動くような古い扇風機には気をつけて」と話している。

 同機構では、平成21〔2009〕年度中に、扇風機や換気扇による事故について47件の報告を受けた。これは、平成20〔2008〕年度よりも7件多い。

 同機構には、平成16〔2004〕年度から平成21〔2009〕年度までの6年間に、扇風機に関わる事故については161件、換気扇に関わる事故については75件が報告された。

 かかる236件の中でも、平成16〔2004〕年度から平成20〔2008〕年度までの5年間に報告された189件についてみれば、10年以上の長期使用による経年劣化を原因とする事故は、その44%に当たる84件あった。

 

(2)エアコン

 また、製品評価技術基盤機構(NITE)によれば、エアコンの本体や室外機から発煙したり出火したりするトラブルは、平成22〔2010〕年4月以降、全国で30件発生している。

 これらのトラブルについては機器の経年劣化が主な原因とみられることから、同機構では、ユーザーに対して使用に際しては注意するよう呼び掛けている。今のところ怪我人は発生していない模様である。

 更に、同機構によれば、かかる30件のうち、火災などの重大事故に繋がったケースは20件に及ぶ。これらうちの11件については、使用開始以来10年以上を経過した製品が齎した事故であった。

 

(3)防災ずきん

 大地震や火災などが発生した際に、主に小・中学校などで使われる子供用防災ずきんの主要16製品中の4製品が、「燃えにくい」などと表示してあるにも拘らず、実際には着火から数分程度で消失してしまうことが、9月1日(平成22〔2010〕年)、国民生活センターの調査によって判明した。

 防災の日である9月1日に調査結果を公表した同センターは、「防災ずきんの購入に際しては、日本防災協会の認定品であるかどうかを目安にして欲しい」と注意を呼び掛けている。

 同センターが、今年(平成22〔2010〕年)6月から8月に掛けての時期に、インターネットやスーパーなどで販売されている価格3,000円以下の主要16製品(日本防災協会の認定品8製品、非認定品8製品)を対象に、防災性能テストを行った。その結果、火を付けたあとの燃焼が続き、着火後2分から4分を経過すると完全に焼失してしまうものを4製品確認した。これらの4製品は、いずれも日本防災協会の認定を受けていない製品だった。

 日本防災協会によれば、同協会が認定する子供用防災ずきんの流通量は年間30万個数程度である。個々の製品について同協会の認定を受けるかどうかはメーカーの任意であり、認定を受けないずきんでも販売は可能だとのことである。

 同センターでは、「未認定の製品には安全性が必ずしも高いとは言えない製品もある」からと、メーカー側に誤解を招く表示を改善するとともに、メーカー側にはさらに高性能の製品を開発するよう要望した。

 

(4)消火器

 平成21〔2009〕年9月15日、大阪市内の屋外駐車上において、老朽化した消火器が破裂し、子供が重症を負うという事故が発生し、その後も各地で同様の事故が4件発生した。

 老朽化消火器による危害を防止する観点から、消火器のライフサイクルに沿って再点検を行うとともに、過去の事故に関する情報を収集し分析したところ、事故に関わる主な因果関係として次の2点を突き止めた。

①消火器の破裂事故による人的被害は、保守管理が不十分であったことにより、経年に伴う腐食が進んだものを操作したり廃棄処理したりする際に発生することが多いこと。

②放射操作時に本体容器を急激に加圧する「加圧式」(国内生産量の約8割を占める)の方が、常時圧力が蓄えられている「蓄圧式」よりも人的被害を齎す危険性が相対的に高いこと。

 総務省消防庁では、従来から消火器メーカーや消防機関などからの広報啓発等が行われてきているにも拘らず、同様の事故の発生が散見される状況に鑑み、よりユーザーの実状に則した対応に転換を図ることが必要である、と述べている。

 加圧式消火器と蓄圧式消火器の違いについては、以下の電子ブックを参照されたい。

 

『UGMニュース』2010年7月号

 

 

 

 

 

7、司法の動き(名古屋高等裁判所、神戸地方裁判所)

 (1)東海豪雨訴訟判決(平成22〔2010〕8月31日)

 平成12〔2000〕年9月に発生した東海豪雨により新川の堤防が決壊して水害を被ったのは、国と愛知県の河川管理に問題があったからだとして、流域の愛知県旧西枇杷島町(現清須市)と名古屋市西区の住民21人が、総額8,400万円の支払いを求めた国家賠償請求訴訟の控訴審判決が、8月31日(平成22〔2010〕年)に名古屋高等裁判所において言い渡された。

 中村直文裁判長は、「国と県の河川管理に落ち度があったとは言えない」、と述べ、住民側が敗訴した1審で名古屋地方裁判所から宣告された判決を支持し、住民側からの訴訟を棄却した。

 東海豪雨では、増量した、国が管理する庄内川の水が、洗堰と呼ばれる堤防が低くなった部分から、愛知県が管理する新川へ流れ、新川の左岸の堤防が決壊した。

 控訴審では、国が、昭和50〔1975〕年に、洗堰を将来的に閉鎖する庄内川改修計画を策定していたにも拘らず、東海豪雨時に未閉鎖だった点について、行政側の管理責任を問えるかが最重要の争点となっていた。

 住民側が、庄内川と新川は別河川であり、国が洗堰を堤防としての安全性を欠いたまま放置していたことが問題だと訴えたのに対し、中村裁判長は、庄内川と新川を同一水系と認定し、住民側の主張を退けた。

 更に、中村裁判長は、「河川管理には制約があり、未改修、改修不十分な河川は過度的な安全性で足りる」と、行政責任を限定的に解釈した大東水害(大阪府)訴訟の最高裁判決(昭和59〔1984〕年)を「本件にも適用できる」として、「国の河川改修計画に格別不合理な点はなかった」と認めた。

 全国の水害訴訟では、大東水害訴訟における最高裁判決に沿って、行政責任を限定解釈した判決が続いている。

 従って、水害については何よりも予防が重要であり、防災士が果たす役割もその部分にあると言えよう。

 

(2)佐用町水害提訴(平成22〔2010〕年8月10日)

 兵庫県佐用町で平成21〔2009〕年8月に発生した豪雨水害(死者18人、行方不明者2人)に際して、作用町の避難勧告発令の遅れが被害の拡大をもたらしたとの見地から、死者・行方不明者5人の遺族が、8月10日(平成22〔2010〕年)に、佐用町に対して合わせて約3億円の損害賠償を求める訴訟を、神戸地方裁判所に対して提起した。

 水害を巡って避難勧告の是非を争う訴訟は極めて異例で、訴状によると、平成21〔2009〕年8月9日20時頃、佐用町域を流れる佐用川の水位が避難勧告を発令すべき基準となる3メートルに達したが、佐用町が避難勧告を発令したのは21時20分頃だったとされている。

 裁判の行方が注目される。

 

 

8、国の経済対策と防災(財務省、首相官邸)

 デフレ脱却、成長回復をめざす政府の経済対策(平成22〔2010〕年8月30日発表「経済対策の基本方針について」)の中に耐震化・ゲリラ豪雨対策が入った。防災対策が経済活性化のためにも重要であることの証しである。

「経済対策の基本方針について」の要旨(一部)

   Ⅱ.対策の骨格

   (4)耐震化・ゲリラ豪雨対策等の地域の防災対策

  ◇国民生活の安全に直結する耐震化・ゲリラ豪雨対策等緊急防災対策 を講ずる。

  <具体的な施策>

   ・病院等の耐震化対策

   ・ゲリラ豪雨対策等緊急防災対策

 

 

9、地方の動き~防災連携(大阪府他)

(1)行政と住民との連携

 日本経済新聞社は、全国の人口10万人以上の市区を対象に、「防災行政における市民との連携度」に関する調査を行った。調査のポイントは、①行政による住民向けの「啓発・訓練」、②行政と住民との「情報共有」、③住民に対する「組織支援・その他」、の3項目である。

 調査の結果に基いて算定された「防災に関する行政と市民との連携度の順位」によれば、第1位は東京都渋谷区であった。そのほか、大規模地震の発生が想定される静岡県内の自治体や愛知県内の自治体、並びに最近20年以内に実際に地震災害を受けた神戸市などもランキングの上位に並んだ。ランキングの詳細については、表―7を参照されたい。

 渋谷区では、平成7〔1995〕年に発生した阪神大震災によって壊滅した被災地の惨状を目の当たりに見て衝撃を受けた当時の区長が主導して、その翌年に全国の自治体に先駆けて独自の防災条例を制定した。渋谷区は、一人暮らしの高齢者や、仕事を持つ母親が増加する状況を踏まえて、災害時の対応に危機感を持つ区民の協力も得て、避難所の整備や自主防災組織の育成などを進めてきたことがプラスに評価されて、前記の調査ポイントの3項目に亘って高い点を得た。

 災害発生時の被害を最小限に抑えるためには、市民の協力を欠かすことはできない。その意味では、これらのデータをもとに、ランキング上位の自治体において、より積極的に防災士を養成して行くことが求められる。

 

表―7 防災に関する行政と市民との連携度の順位 (75点満点)

順位

市区(都道府県)

総合得点

1

渋谷区(東京都)

73

2

松江市(島根県)

62

3

磐田市(静岡県)

61

4

岡崎市(愛知県)

60

5

新潟市(新潟市)

59

6

足立区(東京都)

58

6

川崎市(神奈川県)

58

8

沼津市(静岡県)

57

8

堺市(大阪府)

57

10

豊橋市(愛知県)

56

10

神戸市(兵庫県)

56

出典:『日本経済新聞』平成22〔2010〕年9月5日

 

(2)関西広域連合

 関西の自治体、経済界が検討してきた広域行政組織「関西広域連合」が、平成22〔2010〕年12月にも発足する見通しとなった。関西広域連合には7府県が参加し、当面、防災や観光などの広域事業に取り組むことになる。

 8月(平成22〔2010〕年)末に大阪市内で開催された関西広域連合の設立準備会合において、関西経済連合会の下妻博会長(住友金属工業会長)は、「関西から『国のかたち』を変える大きなスタートができる」と力を込めて述べた。

 今回、地方自治法上のこの関西広域連合に参加するのは、大阪、兵庫、京都、滋賀、和歌山の5府県である。奈良県は、「屋上屋を架す」との理由のもとに参加を見送った。関西に隣接する鳥取、徳島両県は一部の分野について参加する。

 8月に開催された準備会合では規約案を承認し、参加する7府県は、9月から10月かけて各定例議会に関連議案を一斉に提出した。関西広域連合は、順調に進めば、総務大臣の許可を得て12月にも発足する。

 関西広域連合は、東南海・南海地震に備え、府県間の相互応援や救援物資の共同備蓄を検討する一方、新型インフルエンザ対策についても共同で立案する。一部府県が導入しているドクターヘリを連合に移管し、エリア内に効率的に配置し、運航する。

 

【参考文献】

・『日本経済新聞』平成22〔2010〕年6月17日夕刊

・『日本経済新聞』平成22〔2010〕年8月9日

・『日本経済新聞』平成22〔2010〕年8月11日

・『日本経済新聞』平成22〔2010〕年9月2日

・『日本経済新聞』平成22〔2010〕年9月5日

・『日本経済新聞』平成22〔2010〕年9月15日夕刊

 

 

 

 

山口明の防災評論 一覧

ナンバー年月題名
第82号平成29年5月号山岳ヘリ救助 有料に(埼玉県)他
第81号平成29年4月号被災地の活動で20個人・団体顕彰(復興庁)他
第80号平成29年3月号家屋被害認定 兵庫に学べ(兵庫県)他
第79号平成29年2月号噴火警戒レベル低くても対策(内閣府)他
第78号平成29年1月号普及急げ 救急相談電話(消防庁)他
第77号平成28年12月号「海抜ゼロ」避難計画検討へ(中央防災会議)他
第76号平成28年11月号全国17火山の避難計画を策定へ(内閣府)他
第75号平成28年10月号「東海」南西側にひずみ蓄積(海上保安庁)他
第74号平成28年9月号震度6弱以上30年以内の確率 南海トラフ沿い上昇(文部科学省)他
第73号平成28年8月号熊本地震 九州で文化財被害300件超(文化庁)他
第72号平成28年7月号危険踏切58か所 初指定(国土交通省)他
第71号平成28年6月号災害時の業務継続計画 市区の66%未整備(地方公共団体)他
第70号平成28年5月号長周期地震動の「階級4」を国内初観測 震度6強の余震で(気象庁)他
第69号平成28年4月号帰宅困難者対策進まず(地方公共団体)他
第68号平成28年3月号市民標的テロ対策強化(警察庁)他
第67号平成28年2月号火山3割が携帯通信に「不安」(気象庁)他
第66号平成28年1月号火山列島ニッポン、活動期に(京都大学・気象庁)他
第65号平成27年12月号水害被災地に物資提供 都内自治体、連携の輪(東京都)他
第64号平成27年11月号震災避難20万人以下に(復興庁)他
第63号平成27年10月号マンション管理組合を防災組織と位置づけ(総務省)他
第62号平成27年9月号「6強で倒壊」814棟(文部科学省)他
第61号平成27年8月号復興事業4分類 一部地元負担へ(復興庁)他
第60号平成27年7月号救急隊、外国語で対応へ(消防庁)他
第59号平成27年6月号医療拠点 8割近く耐震化(厚生労働省)他
第58号平成27年5月号学校に避難 ルール課題(文部科学省)他
第57号平成27年4月号「使い捨て」観測衛星(内閣府、文部科学省、防衛省)他
第56号平成27年3月号高潮マップ8割超が「未作成」(国土交通省)他
第55号平成27年2月号住宅用火災警報器の設置率79.6%(総務省消防庁)他
第54号平成27年1月号被災者に家賃給付を(内閣府)他
第53号平成26年12月号緊急避難場所 指定31%(読売新聞社)他
第52号平成26年11月号被災地に職員「応援計画」都道府県66%作らず(総務省)他
第51号平成26年10月号救急車と救命士、病院常駐で威力(消防庁)他
第50号平成26年9月号政府が国土強靭化計画東京一極集中を脱却(内閣府)他
第49号平成26年8月号違法貸しルーム、火災防止へ(国土交通省、消防庁)他
第48号平成26年7月号避難勧告、自治体向け新指針決定(内閣府・消防庁)他
第47号平成26年6月号倒壊家屋5割減目標(内閣府)他
第46号平成26年5月号防災リーダー育成支援(内閣府)他
第45号平成26年4月号橋・トンネル点検義務に(国土交通省)他
第44号平成26年3月号首都直下型地震「死者23000人」(中央防災会議)他
第43号平成26年2月号復興予算、22%が未使用(会計検査院)他
第42号平成26年1月号地震時「危険」23区に集中(東京都)他
第41号平成25年12月号火災避難にエレベーター(東京消防庁)他
第40号平成25年11月号局地豪雨が激増(東京は昨年の3倍)(ウェザーニュース)他
第39号平成25年10月号津波予報、民間へ開放(気象庁)他
第38号平成25年9月号東海地震予知「困難」(内閣府調査部会)他
第37号平成25年8月号災害弱者名簿の掲載率(地方公共団体)他
第36号平成25年7月号水、食料備蓄学校の「3割」(文部科学省)他
第35号平成25年6月号南海トラフM8以上「60~70%」(地震調査委員会)他
第34号平成25年5月号「被災者の自殺者対策」(警察庁、地方公共団体)他
第33号「南海トラフ海底調査へ(文部科学省)」他
第32号「津波「巨大」すぐに避難を~新警報7日開始~(気象庁)」他
第31号「救急搬送の増加(総務省消防庁)」他
第30号「平成25〔2013〕年度予算の概算要求(防災・安全) 」他
第29号「災害関連死66歳以上9割(復興庁)」他
第28号「南海トラフ」集団移転対策、「首都直下」地方に拠点(中央防災会議)」他
第27号「災害対策基本法の改正~災害時 国・都道府県の役割強化(内閣府)」他
第26号「南海トラフ巨大地震の評価(内閣府)他
第25号「防災士養成数5万人を突破、小・中学校教職員に防災士資格取得義務化(日本防災士機構、松山市)他
第24号「首都直下型地震の発生確率(地震調査委員会)他
第23号「津波警報 表現に切迫性(気象庁)他
第22号「津波防災地域づくり法」が成立(国土交通省)他
第21号「東日本大震災関連第3次補正予算(内閣、財務相)他
第20号「台風12号の被害と避難勧告(地方公共団体)他
第19号「原発の津波対策とコスト(原子力安全委員会、原子力委員会)他
第18号「復興構想会議の答申(内閣官房)」他
第17号「東日本大震災関連専門調査会設置(中央防災会議)」他
第16号「震災関連第1次補正予算の成立(首相官邸)」他
第15号「震災復興関連の補正予算(財務省他)」他
第14号「原子力災害に関する正確な情報把握と行動(首相官邸。文部科学省)」他
第13号「大雪による死者、13道県で81人に(総務省消防庁)」他
第12号「東海地震観測情報」の新たな名称等(気象庁)」他
第11号「新しい公共」に関するNPO優遇税制(財務省、国税庁、地方公共団体)」他
第10号「猛暑による熱中症死者の激増(総務省消防庁)」他
第9号「熱中症による搬送状況(総務省消防庁)」他
第8号「グループホームの防災対策(総務省消防庁、国土交通省、厚生労働省)他
第7号「消防団の充実強化対策(総務省消防庁)」他
第6号「大気中の二酸化炭素濃度について(気象庁)」他
第5号「水防月間(国土交通省)」他
第4号「新しい公共」・NPO法人への寄付(内閣官房)」他
第3号「新しい公共」の具体化(内閣官房)」他
第2号「消防職員の団結権(総務省消防庁)」他
第1号「平成22年度消防庁予算(総務省消防庁)」他
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