防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第100号)

山口明の防災評論(第100号)【2018年11月号】

山口明氏による最新の防災動向に関する評論です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。
防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、〈北海道胆振東部地震〉国内初の電力供給ブラックアウト

〈解説〉
 9月6日に発生した北海道胆振東部地震(最大震度7、死者41人)によって、北海道全域が停電する「ブラックアウト」が起きた。すでに指摘されているように北海道の電力需要の約半分を担っている苫東厚真火力発電所が緊急停止したためだ。
 電気は貯めておくことができないため、常に需要と供給のバランスを保つようにしている。今回の地震のように供給する側がダメージを受けて、需給のバランスが大きく崩れ、需要が供給を大きく上廻ると過負荷となって周波数が低下する。周波数の低下が停電を招くのである。(電力の周波数は東日本で50Hz、西日本で60Hz。中部電力管内は混合)
 苫東厚真火力発電所を除く他の発電所でも設備への負荷やトラブルを避けるための安全機能が作動し、供給を次々と遮断。そのため北海道全域に停電がひろがり、約295万戸に影響が及ぶ結果となった。

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緊急停止・孤立背景に

 北海道を襲った地震の影響で、道内のほぼ全域で停電する「ブラックアウト」が国内で初めて発生した。北海道電力の電力需要の半分をまかなっていた火力発電所の緊急停止が引き金となった。電力網は需要と供給のバランスが崩れると電気の周波数が乱れ、発電機や供給先の工場設備などの故障につながる。日本の電力網が抱える弱点は再生可能エネルギーの普及の足かせにもなっている。
 地震発生当時、道内の電力需要は約310万キロワットだった。このほぼ半分を震源に近い苫東厚真火力発電所(厚真町)の1号機(出力35万キロワット)と2号機(出力60万キロワット)、4号機(同70万キロワット)を稼働させてまかなっていた。地震直後に2、4号機が緊急停止。供給量のほぼ4割が一気に失われた。需要が供給を大きく上回り、50ヘルツに保たれていた周波数が急激に下がった。
 北電は一部の大口顧客や地域への電力供給を止めた。東日本大震災の発生時、東京電力は供給力が急減したが、このやり方でブラックアウトを免れたとされる。
 北電はさらに、北海道と本州をつなぐ送電線「北本連系線」を通じて東北電力などから供給を受け、バランスの回復を試みた。いったんは持ち直したようにみえたが、周波数の急落を防ぐことができなかった。各地の発電所は周波数低下による故障を防ぐため、次々と自動停止。停電は道内に広がった。(後略)
(2018年9月21日付 日本経済新聞)



2、〈西日本豪雨〉被災者生活再建支援法の仕組み

〈解説〉
 自然災害で住んでいた家が全壊または大規模半壊した世帯には、被災者生活再建支援法により、最大300万円の支援金が支給される。
 所管する内閣府では、この法律は家を再建するための法律ではなく、あくまでも住宅という固定資産に着目した被災者の救済であり、もって地域の復興に資するものであると説明しているが、実態としては被災した家屋の再建上大きな支援ツールとなっている。防災士として欠かすことのできない知識の1つである。
 この法律は阪神・淡路大震災を契機として1998年に制定された。当時の支援の対象は全壊世帯のみで、年収制限などもあったが、その後の改正で対象は大規模半壊にも広がり、年収制限などもなくなった。

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自然災害に公的支援

 (前略)ここでいう自然災害とは、地震や津波、暴風、豪雨、豪雪、洪水、噴火などをさします。2016年の新潟県糸魚川市の大火も強風による災害として対象とされています。
 原則として市区町村なら10世帯以上、都道府県では100世帯以上の住宅が全壊するなど、地域全体の災害規模が一定を超えると、都道府県が被災者生活再建支援制度を適用します。今回の西日本豪雨では10府県80市町村が適用になっています(23日現在)。
 全壊、大規模半壊は住宅の被害の程度をさします。大規模半壊は住宅の構造上、主要な部分を含め大規模補修をしなければ住めないような被害をいいます。西日本豪雨のような水災では浸水が1階天井に達していれば全壊、床上1メートルの浸水は大規模半壊となります。それに満たない床上浸水は半壊とされます。
 全壊は100万円、大規模半壊は50万円の基礎支援金が支給されますが、半壊には支給はありません。その後、住宅を再建したり購入したりすると200万円、補修だと100万円、民間の賃貸住宅に入居した場合は50万円が加算支援金として支給されます。
 支援金の申請には全壊、大規模半壊などの被害状況を示す「罹災(りさい)証明書」が必要です。証明書は市区町村が交付します。申請期限は基礎支援金が災害発生日から13か月、加算支援金は37か月以内です。罹災証明書は義援金の受け取りや税の減免などを受ける際にも必要になりますし、自治体によっては被災者生活再建支援制度の対象でない半壊以下の世帯にも独自の支援策を実施することが多く、受け取っておくといいでしょう。
 (2018年7月28日付 毎日新聞)



3、〈耐震改修促進法〉1,700棟が「震度6強」で倒壊の恐れ

〈解説〉
 耐震改修促進法は、阪神・淡路大震災を教訓として1995年に制定された。当初は1981年以前に建てられた病院、学校等の多くの人々が利用する建物(特定建築物)に対し、耐震診断や改修に努めることが法の目的であったが、2011年の東日本大震災を契機にこれら特定建築物の耐震性の重要性がさらに認識されたため、2013年に大幅な改正が行われた。
 それは主に次の3点である。
①耐震診断及び耐震改修の努力義務の対象となる建物の範囲を旧耐震基準による全ての建物に拡大する
②特定建築物のうち不特定多数が利用する大規模施設や避難弱者が利用する建物などに対して耐震診断の義務化とその結果を公表する
③耐震性に関する表示制度を創設する
 国土交通省の集計によれば、2013年の耐震改修促進法改正で耐震診断が義務化されたデパート、病院などの大規模施設約1万600棟のうち、16%に当たる約1,700棟が震度6強以上の地震で倒壊する恐れがあることが判明したという。同省では、改修や建て替えを促し、2025年をめどに耐震不足の解消をめざすこととしている。

〈関連記事〉
 同改正法(注:改正耐震改修促進法)では、多くの人が利用する店舗や病院、旅館、混雑に配慮が必要な老人ホームや学校などのうち、一定規模以上の建物に耐震診断を義務付けています。報告を受けた自治体が結果を公表する仕組みで、これまでに東京都の一部と和歌山県を除いて、公表が終わっています。
 同省の集計結果によれば、約1,000棟(9%)は倒壊の「危険性が高い」、約700棟(7%)は「危険性がある」とされました。自治体に報告がなかった建物も約100棟(1%)ありました。改正法では、耐震改修が努力義務にとどまり、国や自治体から補助を受けられるケースでも、大きな費用負担が生じます。大規模な商業施設などの場合、テナント業者との調整や休業中の従業員への補償も必要となり、対策の足かせとなっています。場合によっては老舗旅館が廃業に追い込まれるなど、地方経済の活性化にとって難しい問題も生じています。
  (UGMニュース7月号)



4、〈大阪北部地震〉災害時の出社・帰宅判断

〈解説〉
 首都直下地震発生時の課題のひとつである帰宅困難者対策の推進に向けて、東京都は帰宅困難者対策条例を2012年3月に制定、2013年4月から施行した。この概要は次の通りである。
①事業者に従業者の一斉帰宅の抑制と、従業者の3日分の食料などの備蓄について努力義務
②駅、集客施設などにおける利用者保護、学校などにおける児童・生徒などの安全確保の努力義務
③都と事業者などが連携協力して、安否情報の確認、災害関連情報などの提供のための基盤整備など
④都立施設や都の関連施設を一時滞在施設として指定するとともに、一時滞在施設の確保に向けて国、区市町村、事業者に対して協力を求め、帰宅困難者を受け入れる体制の整備
⑤代替輸送手段や災害時帰宅支援ステーションを確保するとともに、災害関連情報などを提供するなど、安全かつ円滑な帰宅の支援
 この条例は帰宅困難者対策として1つのモデルを示すものであるが、「帰宅」しか念頭にないことが課題となる。2018年6月に発生した大阪北部地震では発生時間が午前8時ごろであったところから、出社する際に交通機関がストップ、何時間もかけて通勤する人の行列ができた。このことから、今後「出勤」についても1つの目安、基準が求められる。防災士もこの点を中心に自らの職場でよく話し合って解決策を探っていくとともに、企業のBCP(事業継続計画)にも反映させたい。

〈関連記事〉
 大阪府が府内の企業を対象に災害時の対応を調査したところ、6割超が従業員の出社や帰宅を判断する基準を設けていないことが分かった。6月に府北部で震度6弱を記録した地震では交通機関の運行停止が長引き、帰宅困難者が続出した。府は調査結果を受け、企業の出社や帰宅に関する時間帯別のガイドラインを新たに設ける方針だ。
 調査は関西経済連合会の加盟企業など5千社が対象で、8月1~20日に2,184社の回答を得た。8月31日に開いた南海トラフ地震対応強化策検討委員会で調査結果を公表した。
 調査によると、災害時に従業員の出社、帰宅の基準について「決まっていない」と答えた企業が65.2%にあたる1,423社あった。 6月の地震で従業員の出社状況を尋ねたところ、「一部を自宅待機」が55.5%で最も多く、「自己判断に任せた」が19.1%で続いた。帰宅状況では「いつもより早め」が45.0%、「いつも通り」が27.4%、「自己判断に任せた」が15.5%の順だった。
(2018年9月02日付 日本経済新聞)



5、〈南海トラフ地震〉臨時情報の限界

〈解説〉
南海トラフ沿いで巨大地震が発生する可能性が高まったとされる場合には、以下の通り「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」(臨時情報)が出されることとなっている。

【南海トラフ地震に関連する情報(臨時)】
以下のいずれかに該当する場合に発表。
○南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、その現象が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連するかどうか調査を開始した場合、または調査を継続している場合。
○観測された現象を調査した結果、南海トラフ沿いの大規模な地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったと評価された場合。
○南海トラフ沿いの大規模な地震発生の可能性が相対的に高まった状態ではなくなったと評価された場合。
(以上、気象庁ホームページより)
 このほど中央防災会議作業部会において「臨時情報」が出た場合の防災行動について報告書がまとめられた。(12月11日)
 報告書では臨時情報が出される場合として3つのケースを想定し、それぞれの場合の防災対応を示している。
ケース1:M8クラスの「半割れケース」
    震源域の東半分または西半分でM8クラスの地震が起こった場合、割れていない方の住民は1週間程度の避難を行う(津波避難が
    明らかに間に合わない地域のすべての住民、間に合わない可能性のある地域の高齢者など)。
ケース2:震源域やその周辺でM7クラスの地震が起こる「一部割れケース」
    避難場所の確認、家具固定など日頃からの備えの再確認、必要に応じた自主避難を行う。
ケース3:プレート境界がゆっくりずれ動く「ゆっくりすべりケース」
    日頃の備えを確認する。
 問題は「半割れのケース」で、多くの住民が一週間程度避難することの難しさである。公共交通機関はどうするのか、危険物等を扱う企業や工場でただちに防災対策を実施することは当然として、その他の企業、流通、飲食業等はどうするのか。課題は山積していると言えよう。

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被災地以外も1週間「警戒」

 政府の中央防災会議の作業部会は、巨大地震発生の恐れがある南海トラフ震源域で、異常現象が起きた場合の対応方針の骨子案を公表した。震源域の一部で地震が起きた場合、被災しなかった他地域も「自主避難」などの警戒対応を一斉に開始し、1週間程度続けることを明記。避難先の事前確保など住民や企業の「自助」も重視した。(中略)
 骨子案は臨時情報を出すケースについて、①南海トラフ震源域の東側か西側の半分でマグニチュード(M)8級の揺れが襲う「半割れ」②震源域の一部で巨大地震の前震と疑われるM7級の揺れを観測する「一部割れ」③住民が揺れを感じないプレート境界面で地殻変動が起きる「ゆっくりすべり」――の3つを想定した。
 「半割れ」の場合、地震発生後の避難では津波や土石流から逃げ切れない地域で住民全員が事前に避難する。その他の地域では自主避難や警戒レベルの引き上げで対応し、通常の社会活動をできるだけ維持する。「一部割れ」では必要に応じて自主避難する。
 半割れでも一部割れでも「1週間程度の対応」を続け、状況に応じて警戒度を下げる。「ゆっくりすべり」の場合は期間を定めず「警戒レベルを上げる」とした。(後略)
(2018年11月14日付 日本経済新聞)



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