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防災評論(第101号)

山口明の防災評論(第101号)【2018年12月号】

山口明氏による最新の防災動向に関する評論です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。
防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、異常現象発生時の対応<南海トラフ地震>

〈解説〉
 南海トラフ巨大地震とは本州の東海沖から九州の東海岸に沿って海底に延びるトラフ(溝になっている海底地形)で起きる巨大地震。トラフは日本列島側のユーラシアプレートに対し海側のフィリピン海プレートが沈み込む境界線に位置しており、過去の歴史においても蓄積ひずみが解放されることによる大地震が約100~200年の周期で発生している。
 トラフは東から東海、東南海、南海の三つのゾーンに分けられ、一部のゾーンから地震が発生すると、他のゾーンでも連続して発生する危険性が高いことが過去の発生例で実証される。これまでにその実績はないものの、一部の学説・研究ではその場合東日本大震災に匹敵する最大M9クラスの巨大地震が発生するという見方も示されている。
 国では巨大地震発生の場合、最大で死者30万人超、経済的損失は220兆以上の被害想定を出しており、もしこれが現実のものとなった場合は日本国そのものの存亡危機に関わる事態となることが憂慮される。

〈関連記事〉
南海トラフ地震 避難報告書 企業活動制約は見送り

 政府の中央防災会議は十一日、南海トラフ巨大地震に関し東西に長い震源域の半分でマグニチュード(M)8級の地震が起きる「半割れケース」の際、残り半分の沿岸住民にも政府が一斉避難を呼び掛けるとした報告書をまとめた。企業の活動を一律に制約することは見送った。政府は報告書に基づく防災計画の策定を自治体に促すため、来年度にも指針を定める方針だ。
 報告書は、残り半分で連動した地震が起きない場合もあるため、企業活動に関し「著しく制限することは望ましくない」と強調。設備点検といった地震への備えを再確認しながら、事業を続けることを原則とした。
 ただ、多数の人が出入りする病院や百貨店、劇場、鉄道などの事業者は関係省庁と協議の上、個別に防災対応を検討する必要性も訴えた。
 気象庁は、巨大地震の前兆と疑われる異常現象を観測した場合に「臨時情報」を公表し、国民に周知する運用を昨年十一月に開始。だが、情報発信後の防災対応は定まっていなかった。
 同会議は、異常現象として「半割れ」のほか、規模が一回り小さいM7級が起きる「一部割れ」、住民が揺れを感じない程度の地殻変動が起こる「ゆっくりすべり」の三ケースを想定。このうち、地震が連動する可能性が高い半割れへの対応を重視した。

2018年12月12日付 東京新聞



2、台風の将来予想<頻発する台風・豪雨災害>

〈解説〉
 台風は熱帯低気圧の大型化したものであり、具体的にはその定義は風速により決まる。熱低の中心風速17.2メートル/秒を超えるものが台風とされる。台風の大きさとか強さとかが気象情報でも頻繁に流れるが、まず「大きさ」と「強さ」とは関係がまったくないということが重要である。気象庁によると大型の台風とは風速15メートル以上/秒以上の半径が500キロメートル以上のものをいい、強い台風とは最大風速が33メートル/秒(0.4ノット)以上のものをいう。特に最近よく聞かれるようになった“猛烈”な台風とは最大風速が54メートル(105ノット)以上もの威力を持つ強い台風を指す(その大きさとは関係がない。)なおこれらは気象庁の定める日本独自の基準であり、米国では日本でいう「強さ」に応じ、カテゴリーとして5階級に分類されている。最大のカテゴリー5は最大風速が69.4メートル以上と定められている(正確には最大風速に加え中心気圧も加味している。)
 日本の気象予報ではよく「大型で強い台風」などと、あたかも型の方が重大であるかのような言い方が通用しているが、台風の脅威はその型ではなく強さにあるということに留意したい。

〈関連情報〉
「台風の大きさと強さ」気象庁ホームページより



3、2025年までの改修難しく<耐震改修実施の義務>

〈解説〉
 一定の強さの地震発生に際して倒壊しない建築物を造ることを定める基準(建築基準法)を耐震基準という。1978年に発生した宮城県沖地震を教訓として1981年6月以降施工されている「新耐震基準」による建築物の場合、劣化や損傷が極端に放置されすぎない限り震度5強程度の地震でも倒壊・崩落する恐れはないとされ、新耐震基準適用後の大地震災害によってその効果は一定程度確保されている。
 一方、東日本大震災を直接の教訓として2013年改正耐震改修法が施行され(原法は阪神・淡路大震災を契機に1995年制定)、新耐震基準前に建てられた大規模建築物について、さらなる耐震化を促す目的で耐震診断の実施とその結果報告を義務付け、その建築物の存在する地方公共団体(自治体)にその結果公表を行うことが定められた。
 (対象大規模建築物については別表参照。)
 国土交通省はこれら対象物について重点的に耐震化に取り組み2025年を目途に耐震性不足を解消することを目指している。

〈関連情報〉
住宅の耐震化の進捗状況

国土交通省ホームページより

http://www.mlit.go.jp/common/001018219.pdf
国土交通省 耐震改修促進法における規制対象一覧



4、土砂災害危険地 どうすれば危険回避のメッセージが響く?<土砂災害防止法>

〈解説〉
 土砂災害防止法は正式名称を「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」といい、1999年の広島・呉大規模土砂災害の教訓をもとに2000年に制定された。その名称が示すようにこの法律の主眼は土砂災害警戒区域などを事前に調査・指定し、もって未然に土砂災害の被害を食い止めようとするところにある。
 この法律に基づき都道府県は渓流や斜面など土砂災害被害を受けやすい区域の地形、地盤、土地利用状況を調べ、知事は土砂災害警戒区域などを指定することになっている。
 このうち「土砂災害特別警戒区域」は通称レッドゾーンと呼ばれ、著しい危険地域として特定の開発行為に対する許可制のほか建築物の構造規制がかかり、既存構造建築物については状況に応じ移転勧告が行われるなど、極めて規制力の強い区域である。一般の「土砂災害警戒区域」(通称イエローゾーン)は、急傾斜地の崩壊などが発生した場合に住民らの安全が脅かされるおそれがある区域であり、危険の周知や警戒避難体制の整備が行われる。
 だが、この法律が施行されたにも係わらず当の広島等では2014年に再び大規模な土砂災害に見舞われ死者74人を出す惨事となった。さらに2018年には西日本豪雨が広島を含む広範囲な地域が襲われ、土砂災害だけではないが200人を超す犠牲者が出た。これら繰り返す悲劇の背景にはこの法律による区域指定が市町村や住民の指定反発により遅々として進まないことが挙げられる。

〈関連情報〉
「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」第2回の報告資料によると、土砂災害による死者のうち、約9割が土砂災害警戒区域内等で発生。人的被害発生箇所における土砂災害警戒区域の指定状況について、全体の死者数のうち、94名(42箇所)は土砂災害警戒区域内等で被災している。(平成30年8月15日現在)

平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)参考資料より引用

〈関連情報〉土砂災害警戒区域・特別警戒区域

国土交通省ホームページより



5、自然災害、インフラを襲う<2018年災害実相>

〈解説〉
 気象庁発表の2018年6~8月の天候取りまとめによると、東日本地域の平均気温は1946年の統計開始以来最高に達した。日本上空で太平洋高気圧に加え大陸からのチベット高気圧も重なって「二層高気圧」が形成され、晴天続きでフェーン現象も頻発した。東日本における平均気温は平年のプラス1.7度と異常値を示し(通常はどんなに高くても平年の0.5~1度位のプラス、7月29日には埼玉県熊谷市で国内史上最高値となる41.1度を記録、全国の気温観測地点927のうち、202世帯で過去最高を更新した。熱中症(5~9月)については、これも過去最多の95,000人が緊急搬送され、死者も160人(過去二番目)と、決して疾病上の例外事案とはいえない緊迫した状況が続いている。
 気象庁では西日本豪雨も含め異常気象が発生していると分析、特異は大気の流れ(偏西風の異常蛇行など)が大規模な異常気象を起こし、それが大災害に結びつくと指摘しているが、背景には地球温暖化があると認めている。実行ある対策が地球規模でなかなか打ち出せない地球温暖化、今後も激しい気象変動により大災害が頻発するとみておいた方が良いようだ。

〈関連記事〉
 6月の大阪北部地震、7月の西日本豪雨、9月の北海道地震……。2018年は日本列島の各地で豪雨や地震などの自然災害が発生し「災害大国日本」に住んでいる現実を改めて思い知らされた。南海トラフ巨大地震や首都直下型地震などに備えるため、災害に脆弱な重要インフラ(社会資本)の再点検を進めるとともに、住民が日ごろの備えに努め「減災」につなげることが急務になっている。
 18年に相次いだ自然災害では様々な脆弱性が浮かび上がった。都市直下型地震の影響の大きさを見せつけたのは6月の大阪北部地震だった。6月18日午前7時58分ごろ、大阪府北部を震源とする最大震度6弱の地震が起き、6人が死亡した。平日の通勤通学の時間帯で都市機能がマヒし、一時は鉄道や道路などの交通網が広域で寸断され、多くの人々の移動が長時間阻まれた。(中略)
 200人超が死亡し「平成最悪の豪雨被害」となった7月の西日本豪雨では広い範囲で長時間にわたり雨が降り、各地で河川の氾濫や土砂崩れが発生した。岡山、広島、愛媛の3県の被害が大きく、岡山県倉敷市の真備町地区では増水した水が川を逆流する「バックウオーター現象」で堤防が次々と決壊した。問題は犠牲者の大半が自宅で被災したことだった。(後略)

(2018年12月30日付 日本経済新聞)



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