防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第106号)

山口明の防災評論(第106号)【2019年5月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、空き家問題と防災<相続登記の義務化へ>

〈解説〉
 少子高齢化や東京への一極集中傾向の加速化等により空き家問題は深刻の一途をたどっている。国の統計でも現在ある空き家の数は820万戸にのぼっている。民間シンクタンクの想定では2023年には1,300万戸に達するとされている。2030年代にはおそらく2,000万戸を超えてるだろうといわれ、現在十数パーセント台の空き家率はその時点で30パーセントに近付く。3~4戸に1戸は空き家というスポンジ国家に日本は変貌してゆく。
 空き家の増加は単なる私有財産の毀損や治安・近隣関係の悪化といった次元に止まらず、空き家の老朽化により豪雨や地震などの自然災害による倒壊などによる復旧障害、不審火やゴミの着火、ショート発生による火災の頻発化など防災に対する多大なインパクトを与える。また空き家即「所有者不明不動産」とはならないものの、その多くが当該予備軍となり、自然災害後の復旧・復興の際当該土地・家屋の権利関係が不明確となって復旧・復興事業の大きな障害となることは東日本大震災時の教訓から明らかである。
 所有者不明不動産は主に相続時に発生する。不動産の所有者が死亡した場合相続人が決まらなかったり、決まっても相続登記(名義変更)しなかったりする例が横行している。一昔前までは親の残した不動産は子の宝であったが、今や特に地方部の過疎集落などではそれを相続することが重荷、やっかい者となりつつある。だからカネと手間のかかる相続登記をしてまで権利を保全するインセンティブが弱まり、いきなり手続きを放置する例が増加している。
 これらを背景として法務省は民法など所有者不明不動産対策に関する関係法令の改正を目指すとする方針を明らかにした。具体的には次の方針が柱となる。
(1)相続登記の義務化
 現在は任意となっている名義変更を義務化する。不履行の者に対して罰則を課す。さらにそれでも義務履行が困難な場合は法務局が職権で変更登記することも検討する(マイナンバー活用による自治体からの死亡情報入手などによる。)
(2)所有権放棄の容認
 土地など財産権の保障は資本主義社会の根幹であるところから現行民法ではこの放棄は認められていないが、災害や事故など管理上危険状態となった土地等を中心に申出により権利放棄を認める。
(3)遺産分割協議期間の制限
 相続人にとって魅力のない空き家はどの財産は財産分割協議が長年にわたって懈怠(けたい)してしまうが、これまで期間制限がなかった3~10年の間に協議終了を義務付ける。
(4)相続財産管理人制度の見直し
 現行では様々な制度のある管理人制度を使いやすくする。
 今回の法務省方針は、空き家や所有不明不動産の激増が日本の国土、社会にとって許容できない水準に達しているという危機感に根差している。特に防災・安全に係る問題であるという意識は強くなっており、今後防災士が関与する重要分野となる可能性を秘めるテーマといえよう。



出典 国土交通省「空き家の現状と課題」より引用


2、復興庁の存続<内閣府の外局化の方向>

〈解説〉
 2011年3月の東日本大震災発生を受け、2012年2月に政府の独立省庁として復興庁が設置された。法律により復興は10年と定められており、2021年3月に現在の復興庁は廃止される。政府内での存続、復興問題について協議が続いていたが、3月の政府復興推進会議において復興庁の後継組織を内閣府の外局として存続させ、引き続き担当閣僚も置くことが決定された。東日本大震災で特に被災が甚大であった3県のうち福島を除き宮城、岩手の2県の復興事業は2020年度で一応ピリオドが打たれる見込みだが、3県からは「国が責任を持つ復興体制を確保してほしい。」との要望が寄せられていた。
 政府の防災行政組織はかねてよりかなり複雑であり、大震災前から例えば日本版FEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)のような一元的組織を作れという意見はあったが、各省の業務領域が入り組んでいることから定常的業務量の確保が出来るのかという疑問もあり、立ち消えになっていた。
 今回復興庁が東日本大震災以外の災害復興も担い、現在のところ災害予防と応急対策しか担当していない内閣府に対し防災と同じ枠に入るということは、この問題の解決策の一歩となり得る。災害対策基本法にいう防災対応サイクル(予防→応急対応→復旧・復興)を政府内で一応完結させる方途としても期待できる。しかし、新行政組織の設計内容次第では、既存行政との二重化を生む危険性もはらむ。2020年法改正に向け防災界としては大きな関心を払ってゆくべき重要課題である。


出典 内閣官房内閣広報室「復興を支える国の組織、制度」より引用

3、土砂災害防止法と財産評価<レッドゾーンについて評価減導入>

〈解説〉
 2000年に当時の広島大水害を教訓に制定された通称「土砂災害防止法」(正式名:土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)の中核は土砂災害の恐れのある地域(土砂災害警戒区域)を都道府県が指定することにより、未然に土砂災害から人の命や財産を守るための規制を行うことにある。区域指定は二種類あり、なかでも特別警戒区域(レッドゾーン)は土砂の災害により建物が損壊し人命に著しい被害が及ぶ恐れのある区域をいい、この区域内では特定の開発行為が許可制となったり、建物の構造規制や移転勧告を受けたりして土地利用に厳しい制限がかかっている。このため国税庁はレッドゾーン内にある宅地について評価を見直し、宅地の総面積に占めるレッドゾーンの面積割合に応じ新たに「特別警戒区域補正率」(別表)を導入して評価を減額する旨の通達を発出した。2019年1月1日以降の土地評価(相続や贈与のとき用いる評価)から適用されている。つまり、別表の通りレッドゾーンが宅地に一定地積以上存在すると、その宅地全体について減額補正が行われるという制度である。
 2014年の広島を再び襲った豪雨災害では土砂災害防止法の制定教訓が生かされず、レッドゾーンや後述のイエローゾーンの指定が進んでいなかったことが大惨事を呼び起こす大きな原因となった。指定が進まなかった理由として、対象区域の住民らから指定されると地価が下がるという懸念の声が強かったことが挙げられている。したがってただ一方的に規制強化を目指すだけでは限界があり、一方で関係者を納得させるための刺激策(インセンティブ)も必要である。今回の税制上の措置は遅きに失したとはいえ、この方向での取組みとしての一定の前進である。
 なお、レッドゾーンに比較して土砂災害への安全性があるとされるイエローゾーン(土砂災害警戒区域)については税当局は建築制限がないため土地の取引価格に影響せず、減額補正は必要ないとの見解であるが、税上には全く減額の余地がない訳ではない。個別の判断において、①付近にある宅地に比べて利用価値が著しく劣り、②そのことが取引価額に影響を及ぼし、③国税庁の路線価に当該事由が反映されていないなどの条件が整う場合、価格の減額が認められることが多い。この分野は税理士や不動産鑑定士が所掌するものと思いがちだが、地域の安全を守る防災士にとってもいろいろアドバイスができる内容力もある。防災士自らの活動領域を広げる意味からもぜひ関心を持ってもらいたいものである。


特別警戒区域補正率(別表)






出典 国税庁「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」より引用



出典 国土交通省「土砂災害防止法の概要」より引用


4、豪雪道路対策強化<防災基本計画修正>

〈解説〉
 国や地方自治体等が災害予防のため策定する防災計画には、「防災基本計画」、「防災業務計画」、「地域防災計画」及び「地区防災計画」の四種類があるが、なかでも国全体の防災対策のあり方、その指針を示すのが中央防災会議(議長 内閣総理大臣)の策定する「防災基本計画」で、他の防災計画はこの基本計画の修正に応じてその内容を見直することとされる。
 日本列島では今期(2018年11月~2019年3月)は日本海側でも降雪は少なく、特に西日本では記録的な少雪だった。しかし前期(2017年11月~2018年3月)は福井県と新潟県を中心に記録的豪雪となり、人的被害は死者で116人、重傷者は624名にのぼった。国道8号(福井県)では1500台もの車両が一時立ち往生したほか、首都高速道路などでも道路障害が発生した。この教訓を踏まえ、このたび防災基本計画が修正された。(併せて2017年1月九州豪雨に関する問題点と対策について修正。)そのポイントは二点である。
(1)地方自治体の豪雪応援協定
 これまでも多くの自治体間で豪雪時に相当応援する協定が結ばれてきたが、今回豪雪ではそれがあまり効果的に機能しなかった。そのため応援協定の実効性確保の重要性が理念として明確化された。これにより各自治体は基本計画の趣旨に沿って各自の応援協定を見直すこととなる。
(2)道路ネットワーク機能の被害最小化への取組み
 道路網が豪雪により寸断され地域の生活・物流にダメージを与えることは応急対策や復旧に深刻な後遺症をもたらす。このため今回の基本計画修正では道路ネットワーク機能の予防的維持保全の重要性と対策が協調されている。具体的には
①国、地方自治体の責務として、地域の実情に応じて道路の拡幅や待機所等の整備を行うこと
②各道路管理者は、豪雪による車両の渋滞発生前にリスク箇所を把握し、関係機関と調整のうえ予防的な道路規制を行い、集中的な除雪作業に努めること
③熟練した除雪オペレーターの高齢化や減少に対応するために、国、地方自治体は委託契約の見直し検討を行うなのど担い手となる地域建設業者の健全な存続に努めること
などの記述が追加された。このため国はICT等新技術の活用検討をより一層進めることも求めている。
積雪時対策は突然には出来ない。平常時を含めた長・中期視点での冬期道路交通確保に向けに着実な取り組みが必要である。少子高齢化が進むなか、地方自治体は管内建設業者とその不足要員に防災士資格取得を促すなど防災力強化に向けた地域ぐるみの対策強化が急がれている。



出典 国土交通省 近畿地方整備局「国道8号の機能強化等に係る調査について」より引用


5、マイ・タイムライン<自助と公助のコンビネーション>

〈解説〉
 今年1月茨城県常総市で全国初めてとなる「マイ・タイムライン」リーダー養成講座が開かれた。2015年の関東・東北豪雨の際鬼怒川が決壊するなど大被害を受けて災害時の円滑な避難を進めるために、地元の「鬼怒川・小見川上流域大規模氾濫に関する減災対策協議会」(注)が開催主体となった。マイ・タイムラインとは一人ひとりがまず市町村公表のハザードマップなどを見て、洪水の際自分の家がどの位の深さで浸水するのか、そしてその浸水が何時間ほど続くのか等をチェックする。次に台風などの豪雨時に発表される気象情報、河川水位情報、避難情報などにより、とのような準備をし、どんな行動をとるのか考えていく。自分の家の家族構成(要支援者がいるかどうか等)、避難所との位置関係は、持ち物の準備、着替えに至るまでどのような避難行動をとるべきなのか判断できるようにするのが目的だ。
 マイ・タイムラインはそれ自体は自助の取組みを促すものであるが、その前提として行政から発せられる様々な予警報や指示、情報などの正確な提供は欠かせない。またそれらは行政が日頃から住民に対し「見える化」して公表し、周知してゆくことが求められる。
 その意味からマイ・タイムラインは自助と公助とがコンビネーション化された新たな取組であり、防災士の重要な任務として今後積極的に関与してゆく必要があろう。
(注)鬼怒川流域の地方自治体と気象台など国関係機関が構成員



みんなでタイムラインプロジェクト

出典 国土交通省関東地方整備局 下館河川事務所ホームページより引用


[防災短信]

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