防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第94号)

山口明の「防災・安全 ~国・地方の動き~」

防災評論家 山口 明氏の執筆による、「防災・安全 ~国・地方の動き~」を掲載致します。防災対策を中心に、防災士の皆様や防災・安全に関心を持たれている方々のために、最新の国・地方の動きをタイムリーにお知らせすることにより、防災士はじめ防災関係者の方々の自己啓発や業務遂行にお役立てて頂こうとするものです。今後の「防災・安全 ~国・地方の動き~」にご期待下さい。

山口明の防災評論

防災評論(第94号)【平成30年5月号】

【目次】
〔政治行政の動向概観〕
〔個別の動き〕

〔政治行政の動向概観〕

 地球温暖化の影響からか相変わらず日々の天候変動の大きな季節が続いているが、列島は幸い大きな災害に遭遇しない状況が続いている。防災士としてもこのような時期をとらえ、日頃疑問に思っている防災上の諸問題を学習していく姿勢が求められる。特に、近く南海トラフ巨大地震の発生が予想されていると言われる西日本太平洋側地域ではその時に備え、避難をはじめとする住民安全のための実地並びに図上訓練などを重ねていきたいものである。防災士では誰でも知っているように、地震のエネルギーの大きさを示すマグニチュード(M)は、1違うと32倍も増大する。しかし一般人にはこのことはほとんど知られていない。南海トラフ域では有史以来、海溝型の巨大地震が周期的に発生しているが、記録で分かるようにM7~8の大きさの地震しか発生してこなかった。ところが東日本大震災(2011年3月11日)において世界でも稀有なM9級地震が起きたものだから、識者も行政もみなM9対応を念頭に物事を進めており、これが時に誇張したメッセージ、つまり“次の南海トラフ域地震はM9級に違いない”という風評をもたらされることになる。各対象区域においてM8とM9ではどの程度被害認定は異なるのか、このことについて防災士は日頃から住民に周知啓蒙を図るべきであり、必ずしも極端な悲観論(異常性の日常化)に陥らないよう、地域の安心安全の確認に努めるべきである。
 結果的にはM9が襲うかもしれないが、その蓋然性は低いと考えられる。まずM8級に十分耐えられるコミュニティを守ることが、防災士のみならず各自治体に課せられた第一の任務ではないだろうか。

〔個別の動き〕

1、水位計、5,800か所に増設(国土交通省)

 国土交通省は、河川の水位を測定する「水位計」を2020年度までに45道府県で約5,800か所に設置すると発表した。都道府県が管理する中小河川のうち、近くに高齢者施設や病院があり氾濫時に浸水する恐れがある場所に設置する。
 中小河川は水位が急激に上昇しやすい。九州北部豪雨など豪雨災害が近年は相次いでおり、国交省は2017年9月から約2万の中小河川で、氾濫や浸水の恐れがある場所がないかどうか調査してきた。周囲に人家や公共施設がある場所では氾濫時に迅速な避難が必要と判断し、水位計の増設を決めた。
 水位計を設置するのは東京都と兵庫県を除く全国の45道府県にある約5千河川。増設で設置数は現在の約5,200か所から約1万1千か所になる。

2、テロの脅威 現実に(警察庁)

 警察庁は、国内外の治安情勢をまとめた2017年版「治安の回顧と展望」を発表した。主要拠点都市を失うなど中東で劣勢の過激派組織「イスラム国」(IS)について、「外国人戦闘員が自国や第三国に渡航してテロを行うことが懸念される」と指摘。総合的な観点から「我が国に対するテロの脅威は現実のものとなっている」と警戒を高めた。  ISはインターネット上の機関誌で日本や日本人をテロの標的として繰り返し名指し。一方、国内でもネット上でISへの支持を表明する者が存在し、過激思想の影響によるテロが「国内で発生する可能性も否定できない」とした。ISは米国などの軍事介入に対する報復として、ネットを活用したテロの呼び掛けを行っている。
 また、ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮の動向について「わが国の安全に対する、より重大で差し迫った新たな段階の脅威」と警戒を強めている。
 北朝鮮による拉致容疑事件は、これまで13件の19人を被害者と認定し、工作員ら11人の逮捕状を取得。拉致の可能性が排除できず、捜査対象としている失踪者は2017年10月末時点で883人に上る。
 国内では2020年の東京五輪・パラリンピックのほか、2019年に20か国・地域(G20)首脳会議なども控えている。警備については「我が国を標的とするテロ、サイバー攻撃などへの対策を総力を挙げて着実に推進しなければならない」と強調した。

3、災害時 ローンどうする?(内閣府)

 地震や豪雨などの大規模な自然災害で自宅が損害を被った際に、毎月の住宅ローン返済額を保障する特約の付いた住宅ローンが相次いで登場している。被災して自宅再建や生活の立て直しなどで資金が必要なとき、家計の負担を軽減できる利点がある。
火災や地震・津波などの自然災害によって住宅が全壊または大規模半壊と認定されて住めなくなると、6か月を限度にその間の住宅ローン返済額と同じ額の保険金が被災者に支払われ、住宅ローンの返済に充てられる。住宅ローンと仮住まいの家賃を二重に負担する事態を防ぐことができる。
 地震だけではなく、近年はゲリラ豪雨による大規模な住宅被害も相次いでおり、自然災害時に住宅ローンの支払いを一定期間保障する特約付きの住宅ローンを取り扱う金融機関が広がっている。「自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン」などの名称が一般的だ。
 保険期間は最長でも2年程度なので、例えば毎月の住宅ローン返済額が10万円だとしたら、免除される受け取れる総額は最大240万円になる計算だ。
 大規模な自然災害の被災者を対象にした内閣府の「被災者生活再建支援法関連調査」によると、家電や家具、自動車の購入や修理など「自宅以外の生活再建に必要な費用(予定も含む)」として「100万円超300万円以下」との回答が19.9%に達した。食料や日用品の購入や医療費の支払いなど日常の支出にも「10万円超30万円以下」は必要との回答が17.9%あった。
 気をつけたいのは、金融機関によって保障対象とする自然災害の種類が異なる点だ。例えばA銀行では地震や津波、噴火は対象外。B銀行は地震や津波、噴火を保障するタイプとしないタイプの2種類から選べ、金利の上乗せ幅が異なる。
 火災保険や地震保険の加入者が受け取る保険金は非課税だが、この特約で支払われた住宅ローン返済相当額は「雑所得」として扱われるものもある。一方、災害などで損害を受けると雑損控除が適用され、所得税が減税になる可能性がある。いずれも確定申告が必要になる。
 被災時には国や都道府県から最高300万円の給付が受けられる「被災者生活再建支援金」などの公的制度もあることを覚えておこう。

4、突風予測し運転見合わせ(JR東日本)

 JR東日本は、局地的な突風を観測できるドップラーレーダーを実用化すると発表した。鉄道会社で導入するのは初めてという。
山形県庄内町で2005年、突風にあおられJR羽越線の特急列車が脱線し、乗客5人が死亡、運転士を含む33人が重軽傷を負った事故を受けた取り組み。  JR東は事故後、余目駅(庄内町)にドップラーレーダーを設置。データを収集するなど気象庁と突風を探知する手法の研究を進めてきた。2016年には高性能なドップラーレーダーを山形県酒田市の海岸から約2キロメートルの内陸に建設し、より高精度な観測をできるようにした。
 ドップラーレーダーは突風の原因となる渦の発生を探知し追跡。突風が発生しやすい毎年11~3月の間、渦の進路予測範囲が、線路に重なる場合に指令室から運転士に運転の見合わせを指示する。設置場所から半径約30キロメートルがレーダーの観測情報に基づく運行規制の対象になる。

5、配送 災害発生10時間以内(防災支援・ミューチュアル)

 防災支援のミューチュアル・エイド・セオリーは災害時に必要な備蓄品を、発生から10時間以内をメドに配送するサービスを始める。2018年4月にも全国で開始する。主に自治体や企業の購入を想定する。
 食料や生活用品を自宅に備蓄している人は少なくない。だが、地震や津波で自宅が壊滅的な被害を受け、体一つで避難所へ駆け込んだ場合には、食料に事欠く場合がある。
 ミューチュアルは救援物資が行き渡りにくい災害発生後の3日間(72時間)に最低限必要な備蓄品を1箱に詰め込み、届ける。全国約150か所の倉庫で約5万箱を保管する予定。避難所や滞在施設にいる人の数に応じて、保管拠点から備蓄品を送る。
 企業にまとめ買いしてもらい、災害時に自治体へ寄付する取り組みも提案する。箱には社名を明記し、企業の社会的責任(CSR)の実践にもつなげたい考えだ。

6、ぶれる復興費用(復興庁)

 東日本大震災の復興予算について岩手、宮城、福島3県では7割程度を使って残りは翌年度に繰り越すなどしている。年度の途中で足りなくならないように多めに計上するため。ただ、難航する用地交渉に加え、建設会社の人手不足で入札の4件に1件が不成立という地域もあり、結果的に予算が余った状態が続く。
 会計検査院は2015年度までの5年間に計上した全国の震災復興予算33兆円のうち、15%にあたる約5兆円が使われていなかったと指摘。使う見込みのない場合は国庫に返納することを求めている。
 工事完了が遅れるだけでなく、予算が膨れあがるケースもある。現在、開会中の宮城県気仙沼市議会が復興予算を巡って揺れている。土地区画整理事業で市から工事費の大幅な増額が示され、事業を受託した都市再生機構(UR)との契約金額を380億円から172億円増やしたからだ。
 市やURによると、工事資材の単価上昇や建物補償費の増額が主な理由。事前にURが対象の家などを評価する時間が十分になく、追加で詳しく調べた結果、費用が増えたという。迅速な復興を優先したためだが、増額は今回で4回目。議員からは市の見通しについて厳しい声が相次いだ。
 復興工事は通常の都市整備と違い、走りながら詳細を決める。同様の事例はほかにもある。事業規模の大きさに加え、もともと人が住んでおり、交渉など複雑な作業が必要な地域の工事で時間がかかる傾向があるという。

7、建築基準法 改正案を決定(国土交通省)

 政府は、大規模な火災が相次いでいることを踏まえ、防止策を強化した建築基準法改正案を閣議決定した。建物の安全性を確保する「維持保全計画」の作成を工場と倉庫にも義務づける。住宅密集地域で木造建築の建て替えを促すため、建ぺい率の緩和も盛り込んだ。現在開会中の通常国会での成立を目指す。
 2017年2月、埼玉県三芳町で、事務用品通販「アスクル」の倉庫で火災が発生。10日以上にわたって燃え続け、焼失面積は約4万5千平方メートルに達した。物が間に挟まって多くの防火シャッターが正常に閉まらず、火災拡大の一因になった。
 現行法では、倉庫や工場に維持保全計画の作成義務はないが、改正案では防火シャッターなど延焼防止設備が適切に作動するための計画の作成を義務づける。
 2016年12月には新潟県糸魚川市で住宅など約150棟が焼ける大火があった。出火元の周辺地域は「準防火地域」に指定され、一定以上の大きさの建物は窓や壁を防火構造とすることが求められていたが、対象以下の建物ではこうした対策が取られず、延焼の原因になった。
 改正案は準防火地域内で、延焼の防止性能を高めた「耐火建築物」か「準耐火建築物」に建て替えた場合は建ぺい率を10%緩和。古い木造建築の建て替えを促す。

8、緊急地震速報 より広範囲に(気象庁)

 大地震の発生を知らせる緊急地震速報について、気象庁は新たな震度予測の手法を導入し、巨大地震の発生時により広い範囲で速報を出せるようにする。東日本大震災の際、震源から離れた関東地方に緊急地震速報を発表できなかったことを受けた改善策。揺れが襲う地域に速報を出せない「漏れ」を減らし、減災につなげる。
 東日本大震災では三陸沖を震源とするマグニチュード(M)9.0、最大震度7の地震が発生。震度4以上の強い揺れは北海道から東海にまで及んだが、緊急地震速報が発表されたのは東北地方の一部のみだった。震度6強を記録した宇都宮市や茨城県高萩市、5強だった東京都千代田区など、多くの地域が発信先から漏れた。
 海溝型の巨大地震だったため地中のプレートが連続的に割れ、震源域(地下の岩石が割れる範囲)が広がっていったことが原因だ。最終的に震源域は岩手から茨城までの約500キロに及んだ。気象庁のコンピューター解析は追いつかず、震源から遠く離れた地域には一般向けの緊急地震速報を出せなかった。
 新しい予測手法は「PLUM(プラム)法」と呼ばれる。従来の手法は地震計が地震波をとらえた後、震源と規模を推定し、それに基づいて各地域の揺れを予測する。このため震源域が広がっていく地震に対応できなかったが、PLUM法は震源や規模に関係なく、地震計のデータ分析から直接、予測震度をはじき出す。従来の手法との併用で巨大地震が起きた際、震源から遠い地域にも速報を出せるという。
 気象庁は東日本大震災時にPLUM法も使って速報を出していたらどうなったかをシミュレーション。関東の強い揺れを予測できた。緊急地震速報の発表回数は2回から4回に増えたという。
 同庁はこれまでにPLUM法による震度算出手法の構築や南海トラフ地震を想定したシミュレーションを進め、実用化できると判断した。ただ、同法では震源に近い地域の予測震度が大きくなりやすい。今後も精度の向上に努め、迅速に情報提供できるようにさらなる努力が必要である。

9、南海トラフ 事前高台移転申請なし(139市町村)

 東日本大震災を受け、南海トラフ巨大地震で津波被害が想定される関東から九州の139市町村を対象に国が導入した特例を活用し、公共施設と住宅を事前に高台に移す防災集団移転促進事業(防集)の適用を申請した自治体が、まだ1つもないことが内閣府への取材で明らかになった。住民の合意形成が難しいほか、住宅建設の負担が大きいのが主な要因だ。一方、この事業の適用をあきらめ、独自で高台移転を進める住民が出始めている。
 この事業は地震や崖崩れで被災した住民の土地を市町村が買い取る代わりに、安全な場所に宅地を整備し集団で移転してもらうのが目的。10戸以上が対象で、国は自治体による土地の買い取りと宅地造成費に4分の3を補助するほか、住民が自宅を購入する際の利子や引っ越し代も補助する。
 国は2014年、南海トラフ地震対策特別措置法で津波被害が予想される139市町村を「津波避難対策特別強化地域」に指定、特例で移転促進事業の費用の補助を拡充した。自治体が学校や病院なども一緒に移転する場合は、その用地取得費の4分の3を国が補助することなどを盛り込んだ。
 だが、元の居住地一帯は住宅が新築できなくなる災害危険区域に指定されることや、住宅購入への支援も限定的なため、事業の活用は進んでいない。139市町村のうち5市町が事業の申請を検討したが、3市町は一度、断念した。和歌山県の串本町と古座川町は検討中としているが、具体的なめどは立っていない。
 南海トラフ巨大地震で最大10メートルの津波が予想される静岡県沼津市では、約120世帯が暮らす内浦重須地区が一時、高台への集団移転を計画。当初は自治会総会に参加した約90世帯の8割が賛成したが、移転先での住宅建設の費用負担の重さから参加住民は減り、計画は暗礁に乗り上げた。それでも住民が100回以上の集会を重ね、県は高台で進めている農地区画整理の計画を一部変更し、2021年度に7世帯が引っ越す見込みだ。

10、防火水槽整備を支援(消防庁)

 消防庁は、防火水槽の整備に取り組む自治体への財政支援を2018年度から拡充する。国の目標に比べて数が足りず、老朽化も進んでいるため。整備を加速し、消防水利施設の不足を今後20年間で解消したい考えだ。
 消防水利施設は、タンクに水をためる防火水槽、水道管につなぐ消火栓などがあり、市町村が設置、管理する。消防庁は市街地の開発状況などから全国約156万か所に必要としているが、整備率は2015年4月時点で73.5%にとどまる。 消火栓は断水で使えなくなる恐れがあるため、消防庁は防火水槽に重点を置いており、年間の新設数を現在の3倍相当の1万5千基程度に増やす計画だ。
 具体策としては、減少が続いてきた水槽整備に関する自治体への補助金について、2018年度は13億2千万円と前年度から2千万円増額する。自治体が地方債を使い、木造密集地域で揺れに強い水槽を新設したり、古くなった設備を補強して長持ちさせたりする場合に返済を地方交付税で支援する仕組みも導入する。

11、被災自治体 応援自治体 ペア指定で迅速対応(総務省)

 総務省は、大規模な災害を被った市町村に他の自治体から応援を出す仕組みを制度化すると発表した。災害発生時、総務省が調整役となり、応援を出す都道府県・政令市と支援を受ける被災市町村を1対1のペアに指定する。災害対応を指揮できる自治体幹部をあらかじめ総務省に登録して迅速に派遣する制度も創設する。支援ニーズに応じた派遣体制をめざす。
 東日本大震災では応援を出す明確なルールがなく、支援が集まる被災地と不足する自治体が出るなど混乱した。総務省はまず被災地の近隣で人員に余裕のある都道府県・政令市が応援を出し、その後、必要に応じて遠隔地の都道府県・政令市から派遣するのを基本ルールとする。
 災害が発生した場合、総務省は被災地の都道府県に調整会議を設置。被災市町村の災害対策本部と連携して避難所運営や罹災(りさい)証明の発行など業務ごとに必要な人数を割り出し、その人数を出せる都道府県・政令市を近隣から順に選んで支援を要請する。
 被災地では復旧状況に応じて必要な業務が変わり、追加の支援要請が生じやすい。調整会議は最初に支援に当たる近隣の都道府県・政令市から人員の不足状況を聞き、補充が必要な分を総務省が遠隔地の都道府県・政令市に派遣を依頼する。幹部人材は災害対応の経験が豊富な自治体幹部を総務省があらかじめ登録する。

12、津波特別区域を初指定(静岡県)

 静岡県は、南海トラフ巨大地震が起きた際に最大10メートルの津波が来るとされる同県伊豆市土肥地区の沿岸部を津波防災地域づくり法に基づく「津波災害特別警戒区域」に指定した。特別区域指定は全国初で、区域内では防災対策が強化される。
 東日本大震災を踏まえ2012年6月に全面施行された同法は、津波のリスクが高いエリアを「警戒区域」、より甚大な被害が予想されるエリアを「特別警戒区域」に都道府県知事が指定できるとしている。
 県は伊豆市土肥、小土肥、八木沢、小下田の約1.2平方キロメートルを警戒区域とし、このうち約1.0平方キロメートルを特別区域にすると公示した。特別区域の対象地域は、海岸沿いにホテルや旅館、住宅などが立ち並び、南海トラフ地震では最大10メートルの津波が最短6分で到達すると想定される。
 市町村にハザードマップの作成などを義務づける警戒区域には、静岡県の他地域や徳島県などで既に指定されている。特別区域ではさらに、避難が難しい人たちが利用する病院などの新築や増改築が制限される。

13、震度6強で3割倒壊(東京都ほか)

 東京都は、1981年5月以前の旧耐震基準で建てられた建築物の耐震診断結果を公表した。震度6強以上の地震で倒壊する危険性が「高い」建物は156棟に上った。危険性が「ある」建物を含めると、調査対象の3割にあたる251棟で倒壊の恐れがある。近い将来の発生が予測される首都直下地震への備えが急務であることが浮き彫りとなった。
 1981年5月以前の旧耐震基準に基づき建てられた大規模建築物は、都市化が早い時期に進んだ主要自治体に多く集まる。三大都市圏の政令指定都市のうち、大阪市は震度6強から7程度の大地震で倒壊する危険性が「高い」もしくは「ある」物件の比率が21%だった。名古屋市は15%、横浜市が7%となった。大阪市は2017年3月、44棟が倒壊の恐れがあると発表した。
 ただ、耐震補強工事にすぐに動き出せる施設は限定的だ。耐震改修などには費用や時間がかかることもあり、簡単に進まない。
 例えば、2017年3月に公表した横浜市の場合、危険性が「高い」「ある」とされたのは34棟。うち民間施設が9割を占めたが、今年3月時点で対応を終えたのは公共施設の1施設のみ。民間施設で耐震補強工事を終えたり、移転したりした施設はゼロだ。対策をしても賃料や販売価格に上乗せするのは容易ではなく、費用負担が所有者に重くのしかかる。
 2017年3月に公表した名古屋市では、30棟が危険性が「高い」「ある」とされた。その中には名古屋城の大天守も含まれていた。市によると、2018年2月時点では27棟に減った。市は「対応を全く考えていない施設はない」と説明するが、公表から1年を経ても対応を終えた施設は限られている。
 このため、横浜市は従来一括工事のみを対象としてきた補助制度を、4月から段階的な改修工事でも使えるよう適用要件を広げる方針だ。市は支援策を拡充して対応を促す。
 再開発などで建物の価値を高め、費用を吸収しようという動きもある。名古屋市中心部の老舗百貨店は危険性が「高い」と診断された後の2017年12月、今年6月に閉店すると発表。跡地は複合施設として再開発する計画だ。

14、大雪 早めに通行止め(国土交通省)

 国土交通省は大雪が予想されるとき、高速道路や国道をあらかじめ通行止めにする「予防的通行止め」の仕組みを導入する方向で検討に入った。運送会社などに事前に伝え、輸送のルートや日時の変更を促す。大規模な立ち往生が相次いで起きた今冬の教訓を踏まえた。ただ、運送業界からは「荷主への働きかけも必要だ」といった声もあり、幅広い関係者の協力が求められそうだ。
 同省によると、予防的通行止めを実施するのは大雪が予想され、スリップ事故による渋滞などのおそれがある場合。気象情報を分析し、通行止めをする国道や高速道路の区間を決める。なるべく前日までに除雪作業の態勢を整え、当日は除雪車を集中投入して作業を効率的に進める。
 運送会社などにも原則、前日までにメールなどで通行止めにする区間と迂回経路を知らせる。通行止め区間の近くを走らざるをえない場合は、冬用タイヤに加えてチェーンを必ず装着するよう規制を強化する方針。大規模な渋滞につながる大型トラックのスリップ事故の防止につなげる。
 大雨についてはすでに、事前に通行を規制する「雨量規制」が導入されている。過去の災害記録などをもとに、降雨量などの一定の基準を定めて、土砂崩れや落石が起こるおそれのある箇所を通行止めにしている。
 雪の場合、風の強さや気温によって降雪量や降る場所が変わるため、雨に比べ局所的な予測が難しい。同省は今後、高速道路会社などと予防的通行止めを判断する際の基準づくりや具体的な運用方法の調整を進める。早ければ次の冬からの運用を目指す。

15、三大都市圏「広域避難計画」策定へ(中央防災会議)

 政府の中央防災会議の作業部会はこのほど、三大都市圏での大規模水害を想定した広域避難について、市区町村をまたいで住民を避難させる「広域避難計画」の策定を求める報告書をまとめた。これを受け東京、大阪、名古屋の各地域での計画策定が今後、進められることになる。
 報告案では、都府県が主体となり、市区町村や国の機関などが参加する各都市圏の協議会で広域避難計画を検討するよう提案している。さらに、避難者の受け入れ先自治体と事前に災害協定を結ぶことや「広域避難勧告」を複数自治体で共同発令する態勢づくりなども盛り込んでいる。
 また、具体的なモデルケースとして東京都東部での大規模避難について、避難者や避難ルートなどの算出方法を示している。それによれば最悪178万人の避難が求められ、24時間以上前から避難を開始する必要がある、と想定。浸水期間の短い住民には、屋内待機を求めるケースを最小化するための方策について提案している。
 部会では、年度内をめどに報告書をまとめることにしている。作業部会は2016年9月に設置され、三大都市圏に巨大台風などが襲来し、大河川の氾濫や高潮などによる大規模水害の恐れが高まった場合の避難態勢について検討してきた。三大都市圏には、満潮位より低いゼロメートル地帯があり、東京湾では176万人、大阪湾には138万人が居住している。

16、飲食店の面積に関わらず「消火器具」を設置へ(消防庁)

 消防庁は、消防法施行令を改正する。
 これは現在、飲食店などにおいては、延べ面積150平方メートル以上のものに消火器具の設置が義務づけられているが、火を使用する設備または器具(防火上有効な措置として総務省令で定める措置が講じられているものを除く)を設けた飲食店などにおいては、原則として、延べ面積にかかわらず、設置することを義務づけることとする、というものである。
 また、この改正に関連して、消防法施行規則を改正し、防火上有効な措置を規定するとともに、飲食店などにおいて、消火器具を設置する場所などについても規定することにしている。

17、目撃情報でも「噴火速報」を(気象庁)

 草津白根山の本白根山(群馬県草津町)が1月23日に噴火したことを受けて、気象庁は、噴火の目撃情報があれば「噴火速報」を出せるよう、運用を改善する方針を明らかにした。
 今回の噴火では、現地から情報があったが、噴火速報を発表できなかった。気象庁によれば、これまで噴火速報は観測データに加え、火口に設置されたカメラや職員による直接確認などを基に判断していた。草津白根山の噴火では、発生約10分後、町役場や常時観測している東京工業大から目撃情報などが寄せられたが、噴火と判断して情報発信するまで約1時間かかった。観測対象でない火口であったことから、場所が特定できなかった、と説明している。
 噴火速報は、2014年に甚大な被害を出した御嶽山噴火を教訓に導入され、周辺地域の携帯電話など情報端末に、噴火発生を知らせることができる。ただし、2015年8月の運用開始以降、発表されたのは阿蘇山など3回にとどまっている。

[防災短信]

【参考文献】