防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
〈解説〉
東日本大震災などの大規模地震災害や西日本豪雨などの広域的風水害の菜、必ず問題となるのは災害廃棄物である。マスコミ報道では「〇〇地震に際し発生した廃棄物が山積みされ、復旧の妨げになっている」とか、「避難所にゴミがあふれ、使えなくなったトイレから悪臭!」とか廃棄物に身動きが取れなくなった被災地からのレポートは盛んに行われるが、所詮はゴミの話で片づけが終わり被災地の生活が復旧してくると誰も見向きもしなくなるのが通例だ。地震や土石流の爪跡を丹念に拾い上げ、評論家のコメントを求める報道姿勢に対し、災害廃棄物に対する取り上げ方は淡白さが際立っている。
しかし、近年の自然災害は激甚化の一途をたどり、これまで行政の力で何とかしのいできた災害廃棄物処理については限界も見えてくる。今後30年間のうちに70%を超える確率で発生すると良そうされている南海トラフ巨大地震。この巨大地震発生時には1億トンを超える想像を絶する災害廃棄物が発生すると見込まれる。因みに近年の大地震で発生した廃棄物量は東日本大震災で3,100万トン(うち津波堆積物が1,100万トン)、都市部直撃の阪神・淡路大震災では1,500万トンであった。風水害における災害廃棄物発生量は地震よりかなり少ないが、西日本豪雨(令和元年)では190万トンの廃棄物が出ている。
廃棄物処理は災害発生分であるとした場合でも現行法では一般廃棄物として市町村の責任において行うことが定められ、また、現に対処してきた(原子力災害関連の放射性廃棄物を除く)。このため東日本大震災の時のように一市町村単位(一部、事務組合方式を含む)では処理しきれない大量の災害廃棄物は遠隔地の市町村も含めた広域応援体制採られる一方、仙台市のように比較的財政力のある団体では臨時の廃棄物処理施設を追備するなどの応急的対応が図られた。ともかく3,100万トンという量は日本全体の平年ベースの廃棄物総量4,300万トン(2019年度)と比べるといかに大きいか分かる。しかもその発生が短期間で集中的に起きるのである。
今後の巨大災害の発生危険性をにらむと自助・公助両面にわたって、より総合的な対策を検討すべき段階に来ているのではないだろうか。一つは膨大な量の廃棄物発生を減らす自助の取り組みである。今「断捨離」がブームであるが、防災の観点も加味して、日常から身の回りの品を整理し、一世帯当たりの潜在廃棄物発生量を減らしておくことである。防災士の取り組みとして一つの有効な項目とも言える。さらに市町村が策定する「災害廃棄物処理計画」(表)についてより関心を払い、住民の声をもっとこの計画づくりと実施に反映してゆくことも考えられる。災害発生前の今からの取り組みが急がれる。
出典:環境省ホームページ(データは平成27年)
〈解説〉
日本でも戦争事態(法令では有事、武力攻撃事態という)に備え、民間人の安全を確保するための国民保護法(令和元年制定)などの法制度が整備されているが一般には日本人の中で他国が侵略してくる心構えを持って生活を送っている人はいない。地震、風水害など自然災害への備えについては防災士制度の普及をはじめ官民挙げての取り組みにより浸透しつつあるが、戦争の備えはそれに比べて格段に遠いところにあるのが実情だ。だが、2021年末から2022年にかけウクライナでロシアの侵攻は、そのような考えは空想に近いことを思い知らせる事件となった。
われわれは教訓として、なぜウクライナで戦争が起こったのか、日本では未然に防ぐことは可能なのか真剣に考えるべきである。まず国家の安全保障体制であるが、(複数国による)集団安全保障体制をしっかりと確保しておくことが重要である。
ウクライナはソ連から離脱した後、ヨーロッパの他国との安全保障上の連携を取っていなかった。したがってNATO(北大西洋条約機構)諸国など他国からのけん制や支援が十分抑止力とはなりえなかった。日本は日米安保体制の枠組みを基本政策としているが、今後もこの同盟関係を堅持してゆく必要があろう。さらに国家としての主体性確立と堅固な国民意識を醸成していることはさらに重要である。ウクライナはソ連の一共和国として、またその前はロシア帝国の一部分として長く国家、国民としての主体性を確立できなかった。独立してからわずか30年、それもソ連崩壊という偶然に乗った「タナボタ独立」であった。例えれば日本の一都道府県であった鳥取県が突然“鳥取共和国”となってしまったようなものだ。それまで歴史上も「ウクライナ」という国家が存在していたことは一度もなかった。このように国家、国民意識が希薄なため国内に“親ロシア派”など怪しげな国民が台頭して、外国の侵略を許す素地が出来てしまっていたのである。2014年にロシアが奪取したとされるクリミア半島など実は1959年に思いつきのようにロシア共和国からウクライナへ所属先が変更になった地域であり、ソ連時代「共和国」といっても県並みの扱いだったのである。
ウクライナ侵攻に伴って東アジアでもとりわけ中国による台湾侵攻の具体的危険性がにわかに言われるようになった。台湾は事実上米国との安全保障体制に組み込まれ、国ではないかもしれないがアイデンティティの極めて強い人々から成る。ウクライナのようなスキはないと考えられるが。隣接する日本も対岸の火事ではない。台湾問題をタブーとせずウクライナを他山の石として安全安心を守るシステム強化が求められる。
〈解説〉
様々な先端型電気機器にリチウムイオン電池が多く使用されている。主な機器としてスマートフォンなどの携帯電話、タブレット端末、モバイルバッテリーなどであり、かつてこれらの機器はニッケルカドミウム(ニカド)電池やニッケル水素電池が主流電源であったが、リチウムイオン電池はこれらに比べ大容量、高出力の上に軽量であるという特性があり、今やバッテリー電源として圧倒的なシェアを誇る。しかし、急速なリチウムイオン電池の普及により誤った取扱いに起因する出火事故が急増している(表)。火災に至る誤使用事故として最も多い原因は分別廃棄などのために分割作業をしている際の出火であり、これを「外部衝撃」といって出火原因の約66%を占める。外部衝撃はリチウムイオン電池廃棄の際に起きるものであるが、最近注目されるのがリチウムイオン電池を日常使用している際に起きる火災が激増していることであり、日常使用起因出火原因は外部衝撃以外のほとんどを占め、その内訳は充電方法の誤り(出火原因の約17%)と使用方法誤り(同13%)に大別されるが、特に注意したいのは使用方法の誤りに起因する出火事故である。
「使用方法の誤り」とは製品本体で指定されている種類のバッテリー(純正品)ではなく非純正品バッテリーを安易に使用する(またはそれに充電する)ことを指し、われわれが日頃正しい知識を持ち、家電量販店などのアドバイスに従って使用していれば防げる火災である。安価だから、という理由で非純正品を多用することは電池については人命や身体の危険に直結するという事実を防災士もよく理解して啓発に当たるべきであろう。使用方法の誤りが火災につながった東京消防庁の2つのケースを紹介しよう。
ケース1
電動モップのバッテリーを他社製品の充電器で充電したところ、その充電器の出力電圧が高かったため過電圧状態となり、バッテリー内部がショートして出火した(居住者2人負傷)。このケースの場合、電動モップの入力電圧は7.6Ⅴの定格であったのに対し、他社製充電器の出力は36Ⅴであった。充電器(通称ACアダプター)はどんな機器にも接続できると勘違いしていたものである。
ケース2
コードレス掃除機に装着されていたバッテリーパックの制御基板に故障が発生し、出火した(居住者1名負傷)。この場合、このバッテリーパックは掃除機とは互換性があったものの、非純正品で令和3年8月にリコールを届け出て欠陥製品であった。
いずれにしても機器の取扱い説明書に指定している充電器を使用するという原則を守っていくことが肝要であろう。
製品用途別火災状況(最近5年間)
出典:東京消防庁(データは平成27年)
以下は、最近の報道記事の見出し紹介です。