山口明の防災評論(第144号)【2022年8月号】
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
1、被災者支援と法制
〈解説〉
2020年7月の豪雨災害については被災者生活再建支援法(以下「支援法」という。)の適用が決定された。7月末での適用市町村数は甚大な被害が球磨川流域に集中した熊本45のほか、大分3、島根1、岐阜1、鹿児島2と広範囲にわたる。被災家屋の世帯に最大300万円の生活再建支援金が支給されるこの支援法も我が国災害法制の体系にしっかり定着してきた感があるが、まだその歴史は新しい。
支援法は1995年の阪神・淡路大震災が契機となって1998年に制定された。当初は“あと片付け法”の性格が強い法律で煩雑な認定手続が求められたほか肝心の被災住宅の再建については支援対象外とされていた。これでは被災地の生活再建の復旧に不十分であるとの議論が湧き起り、2004年には住宅本体への再建支援が認められるとともに2007年にはいわゆる支援金定額渡し切り方式の導入により、手続面での手間が大幅に減少し、今日のような使い易い法制へと変化を遂げている。
こうして見ていくと支援法とその改正は災害対策の理にかなった素晴らしい制度のように思えるが、実は我が国法体系の中で重大な疑義をはらんでいる。それは違法で保持されている財産権との関係で、違憲ではないかとの論争である。
財産権の保障とは即ち、自分の財産(住宅など)は自力で創設すべきであり、これに公金(支援金など)を投入することは許されないとする理である。確かに家に放火された場合公共からの補償はまったく無いのに地震、台風などの大災害で破損した住宅には公金がでるという理屈は一理ある。政府もこの点に神経質になっており、支援金はあくまで“生活”の再建資金であり、その指標として住宅を使っているに過ぎないとの苦しい解釈をしている。
今回の豪雨災害で政府は支援金の支給対象を広げ、これまで“大規模半壊”としてきた支給範囲を“中規模半壊(新設)”にする検討に入った。当然被災者には喜ばしい措置であろうが、ますます一般の被災との区別を論理的に説明し尽くせるかどうかは問われるだろう。また法改正後には7月豪雨に遡及適用する方針としているが、阪神・淡路大震災の被災者にはこの法律は遡及適用されなかった。この辺の均衡も十分吟味されねばならないだろう。
[防災短信]
以下は、最近の報道記事の見出し紹介です。
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- 2 火山周辺避難計画など遅れ~内閣府 改正活火山法施行後6年経過 60%強の自治体未指定~2022.1.30日経
- 3 南極融解、1000年先まで続く?~国連気象変動政府間パネル(IPCC)海面上昇、東京も浸水リスク~2022.1.30日経
- 4 ホワイトアウト対策を~日本自動車連盟(JAF)ほか、東北道多重事故1年~ 2022.1.31日経(夕)
- 5 10Tで災害の予兆検知~首都圏各自治体 官民連携で実験 ガケ崩れ・冠水など危険回避~2022.2.1日経
- 6 電気ショックできず搬送~東京消防庁 救急隊バッテリー付け忘れ~2022.2.2日経(夕)
- 7 法律以上の防火対策を~建築学会提言 京アニ事件を受け~2022.2.4日経
- 8 所有者不明土地 防災・再エネに~特別措置法閣議決定 国土交通省 公共利用の用途広げる~2022.2.5日経
- 9 江戸初期の慶長奥州地震規模東日本大震災級か?~東北大調査 M9に匹敵?~2022.2.5日経(夕)
- 10 トンガ噴火 気候影響軽微~東大解析 二酸化硫黄(SO2)放出少なく、気温低下ほぼなし~2022.2.7日経
- 11 海外大噴火も「遠地地震情報」で、日本への津波に関する当面の発表方法~気象庁 トンガ海底火山噴火に伴い~2022.2.8時事
- 12 搬送困難6000件超~消防庁 2月14日~20日集計 6週連続最多更新~2022.2.24日経
- 13 簡易トイレ7200個を寄贈~産経新聞大阪府和泉市に~2022.2.24産経
- 14 災害対応力 熊本トップ~消防庁 BCP(業務継続計画)「重要6要素」満たす~2022.3.12日経
- 15 地域の防災教育 担い手を~内閣府 学校と地域をつなぐ調整役(コーディネータ)を任命 防災士など~2022.3.12日経
- 16 大規模災害に備え連携~国立文化財防災センター建築土木関係四団体と協定~2022.3.12日経
- 17 沿岸部、人口流出今も~国勢調査結果分析 被災3県29自治体、10パーセント超減 都市部へ流入目立つ~2022.3.12日経
- 18 気圧変化と海面の波が共鳴か~気象庁 トンガ海底火山噴火の津波で報告書~2022.3.16時事
- 19 臨海空港 浸水リスク悩む~国土交通省 国内25空港が海抜10M以下、関空は地盤沈下と二重苦~2022.3.16日経
- 20 体温奪う厳寒避難所~福島・宮城震度6強 被災者生活再建急ぐ~2022.3.19日経
- 21 「共助」にコロナの制約~福島・宮城震度6強 ボランティア地元限定、感染懸念~2022.3.19日経
- 22 ドクターヘリ配備、全国に~NPOヘムネット「救える命」つなぐ連携カギ~2022.3.21日経
- 23 耐震化未実施の水道管で漏水、長引く断水~福島・宮城震度6強 厚生労働省地震対策費の負担、課題~2022.3.23日経
- 24 広域避難計画の策定指針~東京都・内閣府 ガイドライン自治体向け~2022.3.25日経
- 25 被災3県復興予算縮小~福島・宮城・岩手各県 東日本大震災から11年国からの復興支援ほぼゼロに~2022.3.25日経