防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第91号)

山口明の「防災・安全 ~国・地方の動き~」

防災評論家 山口 明氏の執筆による、「防災・安全 ~国・地方の動き~」を掲載致します。防災対策を中心に、防災士の皆様や防災・安全に関心を持たれている方々のために、最新の国・地方の動きをタイムリーにお知らせすることにより、防災士はじめ防災関係者の方々の自己啓発や業務遂行にお役立てて頂こうとするものです。今後の「防災・安全 ~国・地方の動き~」にご期待下さい。

山口明の防災評論

防災評論(第91号)【平成30年2月号】

【目次】 〔政治行政の動向概観〕 〔個別の動き〕

〔政治行政の動向概観〕

 「働き方改革国会」と銘打って鳴り物入りで開かれた通常国会であったが、関連法案が審議入りする前に早くも馬脚を現す羽目に陥った。予定法案の重要な一翼を担っていた裁量労働制(対象者との合意があれば労働時間規制に縛られない働き方)の業種拡大を狙う政府は、「労働時間撤廃=働き過ぎ」の批判を免れようとしたのか、裁量労働のほうが一般労働より労働時間が短いという誰が考えても奇妙なデータを基に、その成立を図ろうとしたが、案の定そのような事実は認められず、データそのものが欠陥であったことが判明し、早々と当該部分の法案上程を断念せざるを得なくなった。
 事実に基づく政治行政の運営は理想だが、言うは易く行うは難し。自らの狙う政策目標を達成するために有利と思われるデータや統計をついつい強調しがちな傾向はどうしても避けることはできない。しかし、最近の政治運営を見るとこの問題以外にも例えば「モリ・カケ騒動」の裏にある不自然な情報把握など枚挙にいとまがなくなってきており、今後、事態の推移には目が離せない状況がある。
 情報過多時代と言われ、いろいろなデータや噂が飛び交う現在、より正確な事実を見抜く力はますます必要になっている。防災の分野でも一見合理的に見えてもその根拠があやふやなケースは“東海地震予知”の例を指すまでもなく散見される。防災士は自らの学習と研鑽を通じて正しい防災知見を持ち、住民や社会のニーズに応えるべく努力していくべきであろう。

〔個別の動き〕

1、消防団・防災訓練 参加者、進む高齢化(消防庁・東京都)

 火災の初期消火や救助活動を担う消防団の高齢化に歯止めがかからない。消防庁によると、消防団は一般的には18歳以上であれば入団が可能で、1970年の全国の消防団員の平均年齢は32.5歳だったが、2016年には40.5歳と8歳上昇した。高齢化に伴って団員数は2016年は85万人と1970年に比べて3割減り、活動継続が困難になる消防団も出てきた。
 防災訓練の参加者も高齢化が進んでいる。東京都火災予防審議会の調査で、「5年以内に地域の防災訓練に参加したことがある」と答えた人の割合は60代以上が48%だったのに対し、20~30代は25%にとどまった。
 都は「地域の訓練は町会や自治会が主体となって行われることが多い。自治会活動への参加経験が少ない若者をどう呼び込むかが課題になっている」と話す。

2、Jアラート受けた住民「対応わからない」21%(内閣府・消防庁)

 政府は2017年8月29日と9月15日の北朝鮮による弾道ミサイル発射時の住民の避難行動に関するアンケート調査の結果を公表した。政府から全国瞬時警報システム「Jアラート」を伝えられても「何をしたらよいか分からなかった」と答えた人は9月の発射後は21.5%だった。8月の発射後の31.5%からは減ったが、多くの人がJアラートへの対応に依然戸惑っていることが浮き彫りとなった。
 政府はこれを踏まえ、ミサイル発射時の住民避難に関する周知・広報が不十分だったと判断。内閣官房のホームページで、ミサイル発射時に住民がとるべき行動を写真付きで示すようにした。動画やマンガによる説明資料も載せた。
 調査はミサイル発射をJアラートで伝えた12道県の住民約1,650人を対象に、8月の発射、9月の発射について、それぞれ9月中旬、同月下旬に実施した。

3、大宮4人死亡火災 2階ゴミ置き場火元か(さいたま市消防局)

 男女4人が死亡したさいたま市大宮区の風俗店火災で、2階南側のごみ置き場付近が火元だった可能性があることが分かった。埼玉県警と消防は同日、現場検証を実施。関係者から事情を聴くなどして、たばこの吸い殻などの不始末がなかったか、詳しい状況を調べる。
 店の出入り口は1か所しかなかった。煙が充満して逃げられないとの119番が相次いでおり、逃げ遅れにつながった可能性がある。
 消防によると、3階建て延べ約170平方メートルが全焼。1、2階に接客用の部屋が計10部屋、3階には客の待合室などがある。屋内階段は南北に2か所あったが、出入り口は1階北側だけだった。2階南側にごみ置き場があり、2階と3階の南側が激しく燃えていた。

4、M6.8以上 四国全域9~15%(文部科学省)

 政府の地震調査委員会は、四国地域の主な活断層が起こす地震の長期評価を発表した。今後30年以内にマグニチュード(M)6.8以上の地震が発生する確率は四国全域で9~15%とした。活断層による地震のリスクを地域ごとに発表するのは、九州、関東、中国に続き4例目。
 確率は、四国地域にある5つの活断層の規模や活動例、M5以上の地震の数などをもとに計算した。活断層が中央に集中し地震活動が低調なことから、四国全域で評価した。  一方、近畿から西に延びる中央構造線断層帯について再評価し、四国を横切って大分県に達するとした。中央構造線断層帯は長さを360キロメートルから444キロメートルに見直した。

5、M9級超巨大地震 北海道沖30年以内7~40%

 政府の地震調査委員会は、北海道東部の十勝沖から択捉島沖の太平洋に横たわる千島海溝で、マグニチュード(M)9級の超巨大地震が今後30年以内に7~40%の確率で起きるとの予測を公表した。平均340~380年の間隔で繰り返してきたとみており、前回の発生から約400年が過ぎていることから「切迫している可能性が高い」とした。
東日本大震災(M9.0)や南海トラフ巨大地震に加え、北海道でも海溝型地震の大きなリスクの可能性が出てきた。
 千島海溝では陸側のプレート(岩板)に海側のプレートが沈み込み、ひずみがたまると地震を起こす。調査委は2004年の長期評価で、千島海溝に沿う十勝沖や根室沖、色丹島、択捉島沖で巨大地震を想定してきた。
 それぞれの発生確率を十勝沖など3つに分けて見直す中、東日本大震災のような大津波を伴う超巨大地震を検討。3つのうち複数の震源域が連動して広がるなどの条件から超巨大地震(M8.8程度以上)の可能性が浮かんだ。
 東日本大震災のような大きな地震が北海道でも起こり、津波が発生する可能性があるということだ。
 ただ、地震の時期や規模を巡っては情報が十分ではない。南海トラフ巨大地震の長期評価ではM8~9級が30年以内に60~70%の確率で起きると予測されている。  今回の北海道東部沖では発生間隔が100~800年とばらつき、30年以内の発生確率は7~40%と幅がある。津波の高さなどは分析を続けている。
 調査委は北海道大学などが内陸の堆積物を調べた研究から、北海道東部の太平洋側で約400年前に沿岸から4キロメートルの内陸まで大津波が押し寄せたと推定した。津波は海抜20メートル超に達したとみられる。津波の大きさなどから超巨大地震があったと考えられると結論づけた。
調査委は一回り小さい巨大地震が30年以内に発生する確率も発表した。十勝沖ではM8~8.6程度が7%、根室沖ではM7.8~8.5程度が70%程度、色丹島および択捉島沖ではM7.7~8.5前後が60%程度とした。
地震調査委員会が千島海溝沿いの地震活動の長期評価を改定し、マグニチュード(M)9級の超巨大地震が起こる可能性を指摘したのは、2011年の東日本大震災が教訓になっている。
 調査委は今回、内陸の堆積物を調べた研究をもとに、北海道東部の太平洋岸で大津波が押し寄せたと推定した。東日本大震災を契機に堆積物による評価の重要性が見直された。  日本列島は世界でも地震が集中する地域の1つだ。千島海溝以外の地域も超巨大地震が起こる確率は高くなる。
 ただ海溝型の地震では、最大規模の推定は複数の震源域がすべて連動する場合だ。過去に起きた地震は、連動せずに1つの震源域だけで起きたものもある。活断層の起こす地震は、海溝型のような周期性が乏しく、さらに評価が難しい。
 最悪の場合を想定することは大切だが、高い確率の数字だけを見て、むやみに恐れて日常生活に支障が出るようでは逆効果になる。
 一方、2度の震度7を記録した熊本地震では発生前に、震源の布田川断層について30年以内に最大0.9%と活断層としては高い確率予測がされ、研究者は警戒していたが一般の関心は低かった。評価の内容をよく理解して、適切に備えることが重要だ。

6、新築「倒壊」見せて安心感(国土技術総合研究所)

 これから建てる戸建てのマイホームは地震にどれだけ強いのか。地震で倒壊する自宅のシミュレーション映像を、あえて客に見せる住宅メーカーがじわりと増えている。マイホームを建てる消費者にとって自宅の耐震性能は重要な関心事。難しい構造設計が分からない一般の人にも、耐震性能を「見える化」しようという試みだ。
大地震が起きた時に、マイホームがどの程度損傷するのかを知ってもらうというのが動画の目的だ。地震の強さは建物の耐震性能に注目が集まった阪神大震災級を想定。この地震を基準に1.25倍、1.5倍などの強さの地震が起きた時に、自宅がどのように損傷し、最終的には倒壊してしまうのかをシミュレーションする。
木造住宅の場合、壁や柱の数や強さ、バランスのよい配置などが耐震性を決める要素となる。ただ、各社がPRする耐震性能は独自基準に基づいていることも多いため、各社の住宅性能を横並びに比較するのは難しい。熊本地震では1981年に導入された「新耐震基準」の住宅でも、一部が倒壊・損傷するケースがみられた。
 住宅メーカー各社が倒壊シミュレーションの提示に取り組む背景には、家が損傷する過程を「見える化」し、地震発生の前後で対策を打ちやすくするという狙いがある。
 首都圏地盤の住宅メーカーも地震後の住宅のダメージを解析するソフトを提供する。家の構造に関するデータを入力すると3次元の立体画像で住宅を表し、地震が起きたときに建物がどのように揺れ動くのかを動画で確認できる。荷重が集中する箇所を赤色で表示する。
 倒壊シミュレーションが本格化したのは、国土技術政策総合研究所が「ウォールスタット」という木造住宅向けの解析ソフトを開発し、住宅メーカーなどに無償で公開したことがきっかけだ。2010年の公開以降、ダウンロード数は約1万3,000件に上る。
 もっとも、解析をすれば耐震性能が高い住宅が造れるというわけではない。倒壊シミュレーションで得られたデータを、住宅建築に反映させられるだけの腕をもつ職人や建築士らが不可欠なのはいうまでもない。一般の人には理解が難しい複雑な設計情報を、住宅メーカーが分かりやすく顧客に開示、説明する努力も大切だろう。

7、救急出動 最多620万件(消防庁)

 消防庁は、2017年版の消防白書を公表した。2016年の救急車の出動件数は前の年に比べ2.6%増えて620万9,964件となり、過去最多。高齢化に伴って増加傾向にあり、10年間で約2割増えた。119番を受けてから病院に収容するまでの平均時間は微減の39.3分。横ばい傾向が続くが、10年間では約7分延びている。
 救急車の出動は5.1秒に1回のペースだった。実際に搬送された562万1,218人のうち、65歳以上の高齢者が占める割合は57.2%で、10年間で12.1ポイント上昇した。重症化すると受け入れ先の病院が限られ、病院に収容するまでの時間が延びがちだ。消防庁は電話による救急相談窓口を全国に広げ、緊急性の低い出動を減らしたり、重症化する前に病院に行ってもらったりする取り組みを進める。

8、2018年度予算 自然災害に備え(財務省)

 2018年度予算案では、水害など自然災害への備えや虐待・いじめから子供を守る支援体制の強化などが盛り込まれた。
 2017年は九州北部豪雨など豪雨災害が相次いだ。国土交通省は水害対策で前年度比3%増の3,927億円を計上。河川堤防のかさ上げを全国で進めるほか、2020年までに低コストの水位計を設置する費用を盛り込んだ。
 気象や自然災害の観測・予測も10%増の55億円を計上。次世代型の気象レーダーで予測の精度を高めたり、緊急速報メールを使った洪水情報の対象となる河川を増やしたりする。
 福岡県や大分県では、九州北部豪雨で大量の土砂が流れ込んだ住宅地や田んぼの復旧作業が続く。福岡県は「堤防整備も大事だが、一刻も早く住民を避難させるには国・自治体の情報共有の強化が必要」と訴えた。

9、原発耐震評価見直し(原子力規制委)

 原子力規制委員会は、原子力発電所の安全審査で耐震性の評価法を見直す。未知の活断層がずれて想定していない地震が起きた場合について、原発を襲う最大の揺れの算定法を厳格にする。2018年1月にも専門家による検討会を設け、2019年春の改定を目指す。
敷地や周辺に活断層が見つかっていない原発で耐震補強などの追加対策が求められる可能性がある。
国内にある16原発40基のうち見直しの影響を受けるのは、敷地内やその近くで大きな活断層が見つかっていない九州電力川内(鹿児島県)と玄海(佐賀県)の2原発5基とみられる。うち玄海2号機を除く4基が規制委の審査に合格している。揺れが大幅に増えて安全対策の再評価が必要になれば、運転コストの上昇を招く恐れもある。
 新規制基準では、断層調査などから原発ごとに最大の地震を想定し、電力会社に対策を求めている。敷地や周辺に活断層が見つからない場合は、地震が原発の近くで起きたと仮定する。
現在は2004年に北海道留萌地方で起きたマグニチュード(M)6.1の地震のデータで揺れを評価している。
 今回の見直しは最近の地震研究の知見を反映し、複数の発生パターンを想定する。多数の地震データをもとに揺れの算定法を作り、全国の原発で使えるようにする。算定の精度向上につなげる狙いがある。

10、ドローン規制 高度応じ(国土交通省)

 消国土交通省はイベント会場など多数の人が集まる場所でドローンを飛ばす際、運航者に半径30メートル以上の立ち入り禁止区域を設けるよう義務づける。航空法に基づく通達を改正し、2018年1月中に施行する。ドローンの利用が広がるのに伴い、事故やトラブルも目立つようになっている。同省などは安全な活用に向けた対策を急ぐ。
ドローンはイベント会場や人口密集地などで飛ばすには国の許可が必要となる。ただ、これまで観客や住民の安全確保策には明確な基準がなかった。現行の通達は観客との距離について「適切な距離を置いて飛ばす」と記載するだけだ。
 新たに設定される禁止区域はドローンの飛行高度に応じて決まる。高度が20メートル未満の場合は飛行範囲から半径30メートル、50メートル未満の場合は同40メートル、100メートル未満の場合は同60メートルとした。
 人に接触した際の被害を防ぐため、プロペラにカバーを着けることも義務づけるほか、イベント会場の上空で飛行する場合は原則として風速5メートル以下の気象条件に限ることとする。
 ドローンが飛行するエリアをネットで囲むなど、観客に被害が及ばないよう事前に対策が取られている場合は規制の対象とならない。
 今回の規制は11月に岐阜県大垣市のイベント会場で飛行中のドローンが約10メートルの高さから落下し、男女6人がケガをする事故が発生したことを受けた。会場で飛ばしていたドローンは国から許可を得ていたものとは別の機体だったことも判明し、同省大阪航空局は運航会社を厳重注意した。
 ドローンによる事故は各地で発生。国がトラブルの報告を求めるようになった2015年12月以降、100件以上の報告があった。大半が個人や空撮事業者による撮影中の落下事故だった。
 2015年4月に首相官邸の屋上で放射性物質を積んだドローンが見つかった問題を受け、国交省は人口密集地などでの飛行を規制。また操縦者の技能向上のために民間団体が行う講習の公認制度を導入するなど安全対策を進めてきた。

11、土砂災害 2017年1,467件(国土交通省)

 国土交通省は、2017年に全国で起きた崖崩れや地滑りなど土砂災害の件数は1,467件で、過去10年間で2番目に多かったとの速報値を発表した。7月の九州北部の豪雨災害や、10月に本州に上陸した台風21号が影響した。
 過去10年間の最多は、熊本地震が起きた2016年の1,492件だった。
 土砂災害の内訳は、崖崩れが997件、土石流が305件、地滑りが165件。
 死者・行方不明者は24人に上り、全半壊や一部損壊を含む住宅被害は694戸だった。  原因となった災害別にみると、台風21号が370件、九州北部の豪雨が307件で、合わせて件数全体の46%を占めた。
 都道府県別では、福岡の235件が最も多く、新潟193件、神奈川129件などが続いた。

12、飲食店地震時マニュアル(東商新宿)

 首都直下地震などに備え、東京商工会議所新宿支部は、主に飲食店向けの「地震時初動対応マニュアル」を3,000部作成した。雑居ビルに多くの店舗が入る新宿区で、従業員や客、言葉の通じない訪日外国人らの安全を確保し、円滑な避難につなげる狙いがある。
 地震発生時、雑居ビルや店舗にいた場合に想定される「近隣や地下から出火した火災が迫ってくる」「非常口や非常階段にお客様が殺到し、将棋倒しなどの混乱が生じる」など17のリスクを挙げ、チェックリストを付けた。その上で被害を最小限にとどめるため、「非常口付近に妨げになる物を置かない」「消化器の設置場所や使用方法を確認する」といった平素の備えをイラストを使って分かりやすく紹介している。
 また、地震発生時の「責任者」「お客様避難誘導」「初期消火」といった役割リストも付け、事前に分担を決めておくことを勧めている。外国人向けに、案内用の図記号「ピクトグラム」と日本語、英語、中国語、韓国語の4か国語を併記し、指さしで意思疎通ができるコミュニケーションシートも付けた。
 マニュアルとシートは同支部で配布しているほか、ホームページ(http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=110805)からダウンロードできる。

13、防災ヘリ操縦士「2人乗り」後押し(消防庁)

 消防庁は自治体が運航する消防防災ヘリコプターの安全対策を強化するため、2人の操縦士が乗る「ダブルパイロット制」の導入を後押しする方針だ。長野県松本市で2017年3月、操縦士が1人の県防災ヘリが墜落した事故を受け、2020年度から財政面で支援できるよう調整を進める。将来はすべての防災ヘリで実現を目指すが操縦士の養成など課題もある。
 防災ヘリは佐賀、沖縄を除く45都道府県に計75機が配備。山林火災の消火、山岳遭難や災害救助に当たっている。
 2人制は、機長とは別の操縦士が計器のチェックや周囲の警戒を担当。機長の体調が悪化した時には、操縦を代わることもある。
 2人制でも防災ヘリの事故は起きているが、操縦に起因する事故は1人制より少ない。長野県も運航再開に向け、2人制の導入を決めている。
 防災ヘリが配備されている自治体や消防計55団体のうち、2人制の採用は4割にとどまる。操縦士が増えると経費がかさむためだ。
 また防災ヘリは自治体による直接運航と民間への委託があるが、年齢層の偏りから今後、ベテランの大量退職が見込まれ、操縦士不足が心配されており、消防庁は人材養成の強化策も検討する。
 ただ2人制は機体の変更も必要。消防庁は全ての防災ヘリで2人制が定着するまでには10年以上かかるとみている。

14、災害保険金支払い早く(損保大手)

 損害保険大手は地震など自然災害が発生した際の保険金支払いを迅速にする。損害保険ジャパン日本興亜はスマートフォン(スマホ)だけで保険金を請求できるサービスを開始。三井住友海上火災保険は調査員を素早く被災地に派遣するシステムを始めた。損害調査や煩雑な請求手続きを効率化して保険金支払いまでの日数を短縮し、生活再建や企業の資金繰りを支える。
損保ジャパンは1月から火災保険の契約者向けに新サービスを開始した。自然災害で家屋が損壊した際に損害物をスマホで撮影し、画像データを同社に送信する。従来は必要だった写真や請求書を郵送する手間を省く。これにより支払いまでの所要日数が1週間短縮される見込みで、請求者は保険金を迅速に受け取ることができる。
 まずは東京や大阪など国内4か所で実施する。同社は火災保険の請求件数のうち約3割がスマホ請求に移行すると見込んでいる。夏以降は傷害保険や自動車保険などに対象を広げる。
 MS&ADインシュアランスグループホールディングス傘下の三井住友海上とあいおいニッセイ同和損害保険は広域災害の損害調査を迅速にするシステムを共同開発し、1月から運用を始めた。全国42拠点の調査員のスケジュールや経験などを一元管理し、最適な人員を被災地に送る。
 熊本地震のケースでは4万~5万件の被害物件に200人程度の調査員を派遣した。新システムを使えば、同規模の災害の場合、調査から支払いまでの所要日数は従来より約3割短い30日になる見通し。現場向けに訪問先の最短ルートを示した地図も示す。手際よく訪問して担当者1人あたりの調査物件数を増やす。
 東京海上日動火災保険は昨年11月に海外の自然災害の損害調査で遠隔映像配信システムを導入した。被災地で調査員がカメラやスマホで撮影した動画を日本の本社に送信。査定専門家がリアルタイムで分析し、保険金の見積もりを即座に出す。
 損害調査や請求の業務を効率化して保険金支払いが迅速になれば、契約者の利点は大きい。個人は損壊した家屋や家財の修復だけでなく、保険金を当面の生活費に充てることができる。中小企業は生産設備の復旧や資金繰りが経営を大きく左右する。損保ジャパンの調査では、保険金の支払い所要日数が10日以内の顧客満足度は20~30日のケースより1割程度高く、早期支払いを求める声は多いという。
 損保各社の新システムやサービスは契約者の利便性を高めるだけでなく、社内の業務プロセス改革にもつながる。各社は今後もIT(情報技術)を駆使しながら業務量を減らすなどして構造改革を加速させる。

15、女性に役立つ防災グッズ配布(東京都)

 東京都は、女性の視点を盛り込んだ新たな防災ブック「東京くらし防災」を3月1日から配布する。まず100万部を用意し、都内の郵便局や百貨店などに置く。
 新たな防災ブックはB6判で全164ページ。避難所での授乳の仕方や着替えのノウハウなどがイラスト付きで説明されている。家具の固定方法やレイアウトのアドバイスなど、自宅で日常的に取り組めることも盛り込んでいる。
 都は2015年に防災ブック「東京防災」を作成。よりきめ細かい対策を進めるため女性の視点や発想を生かそうと、2017年5月から女性有識者による委員会を開き、年度内に新たな防災ブックを発行することを目指していた。

16、数千万円の核シェルター 売り上げ50倍に(自由民主党)

 北朝鮮のミサイル発射や核実験が相次いでいることを受け、「万が一の事態」に備えた市民の動きが活発だ。
 核シェルターや有害物質を除去する空気清浄機を販売する会社によると、例年の売り上げは年間100人程度の収容分だが、今年度は約50倍の約5千人分が売れた。
 核シェルターの価格は数千万円。富裕層が家庭用に購入したり、企業経営者が社員向けに建設したりするという。
 自民党が2017年10月の衆院選で「地下シェルターの整備」を公約に盛り込むなど避難場所の確保への関心は高い。高額のため、以前は関心があっても購入する人は少なかった。シェルターに入れば安全という意識が出てきたと思える。
 防災グッズの購入も広がる。地震などの災害を想定した防災グッズセットの製造販売を手掛ける会社では2017年、ミサイル発射のニュースが流れた日の売り上げは通常の1.5~2倍に増えた。家族を持つ人の購入が目立つ。ミサイル落下でライフラインが途切れることへの備えを進めている。

[防災短信]

 

【参考文献】