防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第97号)

山口明の「防災・安全 ~国・地方の動き~」

防災評論家 山口 明氏の執筆による、「防災・安全 ~国・地方の動き~」を掲載致します。防災対策を中心に、防災士の皆様や防災・安全に関心を持たれている方々のために、最新の国・地方の動きをタイムリーにお知らせすることにより、防災士はじめ防災関係者の方々の自己啓発や業務遂行にお役立てて頂こうとするものです。今後の「防災・安全 ~国・地方の動き~」にご期待下さい。

山口明の防災評論

防災評論(第97号)【2018年8月号】

【目次】
〔政治行政の動向概観〕
〔個別の動き〕

〔政治行政の動向概観〕

 ジャカルタでは、2020年東京五輪の前哨戦となるアジア大会が開催され、日本は3位以上入賞者数つまりメダル獲得総数でも、また優勝すなわち金メダル獲得数でも韓国に大きく水をあけ、アジア2位となった。人口においても国の支援という意味からも圧倒的な中国の後塵を拝したが、これまで数回のアジア大会に見られたように「韓国に次いで3位」という汚名はそそぐことが出来た。中国とは逆に、韓国は人口でも国家経済規模でも日本の半分程度である。この逆転現象を克服した背景には2020年東京五輪に向け政府、行政挙げてアスリート強化策に取り組んできた成果がある。スポーツ界では幅広い支援強化が実績に結びつくことが実証された一方、防災では西日本豪雨を中心として、これまでの防災対策の実効性がほとんど示されない年となっている。このまま南海トラフ地震など“五輪級”の巨大地震に立ち向かえるのか心もとない。スポーツでも防災でも一番重要なことはインフラではなく人である。人材づくりにもっと力点を置かないと、いつまで経っても人的被害は軽減できない。
 西日本豪雨を受け、政府は来年度予算において防災対策に力を入れるようだが、相変わらず堤防や砂防ダムの建設などハード面に偏った政策発想が見られる。その何分の一かでも「人材づくり」にまわす努力と見識が問われている。
 なお、9月に入り再び風水害と地震が列島を襲い、関西を中心に台風21号が、北海道では最大震度6強の大地震が観測された。今年は地震と大規模な風水害が相次いで発生するパターンが2度繰り返され、近年稀に見る災害年の様相を呈している。詳細についてはこれから判明していくだろうが、関西空港が高潮で使用不能となるなど、国民経済にとっても大きな影響が出ている。

〔個別の動き〕

1、スプリンクラー 民泊に設置免除(消防庁)

 消防庁は、一般住宅に旅行者らを泊める「民泊」にマンションを使う場合、壁が耐火構造になっているなど一定の条件を満たせばスプリンクラーの設置義務を免除する改正省令を公布、施行した。設置費用など家主側の負担軽減を図る。民泊を解禁する住宅宿泊事業法(民泊新法)は6月15日に施行された。
 高層マンションなどの共同住宅では、11階以上の階にスプリンクラーを設置することが義務づけられている。ただ階数を問わず、一部でも民泊など住居以外の目的に使用すると、10階以下にも設置が必要となっていた。

2、大阪で震度6弱 政府、初動対応に細心(各省庁・地方公共団体)

 震災直後の政府の対応は早かった。午前7時58分ごろに地震が発生すると、政府は8時に首相官邸の危機管理センターに官邸対策室を設置。首相は発生直後の8時3分に①早急な被害状況の把握②被災者の救命・救助③正確な情報の国民への伝達――の3点を指示した。
 防衛省は8時20分ごろから、大阪府八尾市の陸上自衛隊中部方面航空隊が映像伝送機能を持つヘリコプター「UH1」2機などを派遣し、情報収集に当たった。8時半ごろには撮影した映像を首相官邸や東京・市ケ谷の防衛省の本省に送った。
 政府が腐心したのが、あらかじめ十分な支援を講じて、手遅れにならないようにすることだ。  こうした対応は、阪神大震災の教訓が生かされている。当時は現地からリアルタイムで情報が届かず、初動が遅れた。対応の遅れが被害状況の拡大を招き、人災の側面があったとの批判を浴びた。
 政府は阪神大震災を機に、大災害時の初動マニュアルを策定している。今回はそれに沿って発生から2分後に官邸に対策室を設けた。
 自衛隊のヘリ派遣などは自衛隊法83条に基づく災害派遣の「自主派遣」だった。自衛隊は都道府県知事から出動要請を受ける前から自主派遣の形で実質的な活動ができる。これも阪神大震災の初動の遅れを踏まえ、運用を見直したことで可能になった対応だ。
 大阪府知事から災害派遣要請があったのは正午だった。給水支援の要請を受け、防衛省は国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)などに給水車を含む約20両、約70人を派遣した。
 防衛省は被災地からの要請を待たずに出動・輸送する「プッシュ型支援」を実施する考えを示した。
 経済産業省は大阪ガスに速やかな情報収集や2次被害の拡大防止などの対応を指示。日本ガス協会にも他地域のガス会社からの応援も加えて早期復旧を目指すよう指示した。
 中小企業庁は中小企業を支援する。大阪府が同日、大阪市や高槻市など12市1町に災害救助法の適用を決めたため、被災した中小企業は政府系金融機関から復旧に必要な融資を受けられる。民間金融機関からの貸し付けも信用保証協会が100%保証する。
 厚生労働省は災害対策本部を設置。水道や医療機関、福祉施設などの被害状況の把握を進めた。被災者を直接支援する災害派遣医療チーム(DMAT)も活動を開始。各地で断水などの被害も起きており、日本水道協会に応急復旧・給水の支援を要請した。
 国土交通省は災害対策本部会議を開催し、被災地の要望を聞き取るための連絡員を5府県に派遣した。2人の死者を出す原因となったブロック塀について今後、建築基準法の改正などが焦点となる可能性がある。
 災害発生時の避難所設置や炊き出しなどは基本的に各市町村が担う。ただ災害救助法が適用されるような大きな災害では都道府県が業務を担当し、国も費用の一定割合を負担する。
 災害救助法では、都道府県に災害時に備えた基金の積み立ても義務づけている。大阪府は2017年度時点で約62億円超を積み立てており、大阪府はこの資金を活用する。
 熊本地震の際には九州を訪れる外国人客が実質4割減った。今回は「約30万人が関西を避ける可能性がある」という。内閣府は訪日客の動向も含め経済への影響を注視する。

3、大阪北部地震 「罹災証明」求め窓口に列(大阪府・茨木市ほか)

 大阪府北部で震度6弱を観測した地震で、家屋の被害調査を求める住民らが自治体の窓口に長い列を作っている。「罹災(りさい)証明」の発行に必要なだけでなく、余震が続くなか倒壊を免れてもひびや亀裂が入った自宅での暮らしに不安が強いという。自治体の人員は限られ調査は長期化する可能性がある。
震度6弱を観測した大阪府茨木市役所の2階。調査の申請を受け付ける資産税課の窓口には22日、約30人が列をなしていた。市によると申請は既に2千件以上に上り、順次対応するため時間がかかるという。
 高槻市でも18日の受け付け開始から1千件を超える申請があった。
 今回の地震による大阪府内の住宅被害は6月23日午前7時半時点の判明分で全壊1棟、半壊34棟、一部損壊3,129棟。住宅の耐震化が進み大半の家屋が倒壊などを免れた。しかし、調査が終わる前に修繕すると正確な判定が難しくなり修理費についての公的支援を受けられなくなる恐れがある。
 調査は内閣府の判定基準などに基づき、研修を受けた市町村の職員が担う。茨木市では家屋評価を担当する市職員12人が3人1組で6月19日から現地調査を始めたが、3日間で90件。高槻市でも22日正午時点で調査を終えたのは21件にとどまる。
 同市は2016年の熊本地震を経験した熊本市に応援を要請。同市から派遣された職員2人から、効率的な調査方法や必要な機材についての助言を受けるなど、調査のスピードアップを目指す。

4、ブロック塀撤去 補助制度導入へ(大阪市)

 大阪市は、地震により倒壊の恐れがある民家などのブロック塀の撤去を促すための補助制度を設ける方針を示した。市内の通学路を中心に点検し、危険があれば行政指導する。所有者が希望すれば、撤去や補強工事に補助金を支給する。
 震度6弱を観測した6月18日の地震で、同市東淀川区の民家のブロック塀が地震で倒壊し、下敷きになった80代の男性が死亡した。男性が歩いていた道は通学路だった。
 また、国に対しても撤去促進のための制度を創設するよう要望した。

5、自治体、SNS活用 大阪北部地震1週間(地方公共団体・大阪府警)

 大阪府北部で震度6弱を観測した地震で、被災した自治体や首長は災害や生活支援に関する情報を交流サイト(SNS)で発信。電話がつながらず、ホームページも閲覧しにくい災害時にSNSは有力な伝達手段だが、苦情や混乱を招いたケースも。過去の地震と同様にデマの投稿もみられた。
 大阪府警サイバー犯罪対策課は地震後、扇動やデマの情報が流れていないかネット上のパトロールを実施。目立った混乱はなく、過去の大規模災害のデマを教訓に、惑わされた人は少なかった。

6、首都直下地震の対策拡充(東京都)

 政府の地震調査委員会が26日に発表した最新の地震予測で、30年以内に震度6弱以上の地震が起こる確率が首都圏でも依然高いことが分かった。首都直下地震や南海トラフ地震に備え、各自治体は対策を強化する。
 主要企業の本社が集中する東京都内は帰宅困難者対策が急務となる。都は92万人分の「一時滞在施設」が必要になると試算。だが、2018年1月時点で確保したのは約34万1,000人分にとどまっている。
 帰宅困難者を受け入れる施設を拡大するため、都は備蓄品の倉庫について固定資産税を減免している。現在は初めて備蓄品を購入する事業者を減免対象としているが、今後は備蓄品を更新する事業者も加える方針だ。

7、30年以内に震度6弱以上の確率公表(文部科学省)

 政府の地震調査委員会は、今後30年以内に震度6弱以上の大地震に遭う確率を示す「全国地震動予測地図」の2018年版を公表した。沖合で新たに超巨大地震が想定された北海道南東部で大幅に上昇した。首都直下地震や南海トラフ地震の影響を受ける太平洋側の確率が高い。6月18日に最大震度6弱の地震が起きた大阪府北部の確率は2017年版と変わらなかった。
 震度6弱は古い木造家屋やブロック塀などが壊れる目安とされる。日本周辺の海溝や内陸の活断層で起こる大地震について、2018年1月1日時点の評価をもとに求めた。
 2017年版と比べると、北海道釧路市が22ポイント増の69%、根室市が15ポイント増の78%になった。2017年末に太平洋側の千島海溝で起きる巨大地震の確率を見直したため。札幌市は震源域から離れており、1.6%と前回の0.92%から小幅の上昇にとどまった。
 都道府県庁の所在地では、首都直下地震が懸念される関東南部の千葉市が85%で最も高く、横浜市が82%と高確率になった。南海トラフ地震の影響を受ける高知市は75%、徳島市73%、静岡市70%。三大都市圏では、東京都48%、名古屋市46%、大阪市は56%だった。
 大阪北部地震の震源に近い高槻市(市役所付近)で22.7%。地震発生を反映しても確率はほぼ変化しない見通しだ。

8、中小河川にも避難基準(中央防災会議)

 政府の中央防災会議は、2017年7月の九州北部豪雨などを踏まえて国の防災基本計画を修正した。従来は避難勧告の発令基準のなかった中小河川についても、氾濫の恐れがある場合はあらかじめ住民に水害リスク情報を伝え、避難勧告の発令基準を定めることなどを明記した。
 各自治体は今後、この基本計画に沿って地域防災計画を見直す。
 修正した計画では、土砂や流木による被害の可能性が大きい中小河川や山林について流木をせき止める堤防、治山ダムを設置するなどの対策強化を求めた。九州北部豪雨では中小河川の氾濫で大きな被害が発生。死者・行方不明者は福岡、大分両県で計41人に上った。堤防の決壊や流木、土砂の流入によって約3千棟の家屋被害があった。
 2018年1~2月の日本海側を中心とした記録的な大雪を踏まえ、車両の渋滞や立ち往生が懸念される道路で、予防的な通行規制や除雪機材の事前配備、集中除雪などを実施するように促した。除雪事業者の高齢化をにらみ、国や地方自治体は契約方式の見直しなどによって、地域の除雪態勢を整えるとした。
 集中的な大雪が予測される場合は「国民一人ひとりが非常時であることを理解して不要・不急の道路利用を控える」ほか、運転者にスコップや飲食料、毛布などを車内に準備することを求めた。
 災害救助法や水防法などの法改正を踏まえた修正も盛り込んだ。国土交通省が災害時に支援物資の配送や緊急車両の通行などを行う道路を「重要物流道路」に指定し、構造強化や重点支援を実施することを明記。浸水が想定される地域の社会福祉施設や学校、医療施設などに避難計画の作成や訓練実施を義務づけた。

9、「災害弱者」名簿作ったものの… 大阪北部地震活用は一握り(地方自治体)

 大阪府北部で最大震度6弱を観測した地震は、自力で逃げることが困難な要支援者の安否確認の課題を浮き彫りにした。国は要支援者の名簿作成を市町村に義務づけているが、名簿を活用できたのは一握りだった。名簿をもとに要支援者の見回りをする民生委員などをあらかじめ決める「個別計画」の策定も、担い手不足で進まない現状が改めて明らかになった。
 地震で2人が亡くなり、40人が負傷した高槻市は、高齢や障害で災害時に支援が必要な「避難行動要支援者」(2万2,392人分)の名簿を作成している。だが市職員が電話で安否確認を始めたのは地震発生から3日後の21日だ。
 多くの災害弱者が犠牲になった東日本大震災を契機に、国は2013年に災害対策基本法を改正。市町村に要支援者名簿を作成することを義務づけた。
 国の指針では、災害時には対象者の合意を得なくても名簿を地域防災組織などに提供できる。ただ対象となる災害の規模など基準は曖昧で、個人情報の活用に慎重になる自治体もある。高槻市は地震後に検討を重ねた結果、合意を得ていない名簿は提供しなかった。
 災害救助法が適用された13市町のうち、大阪市や茨木市など8市町が地震発生後から名簿を基に安否確認を始めたが、自治体の判断で非同意分の名簿を民生委員らに提供したのは豊中市と守口市だけだった。
 国は要支援者名簿に基づき、一人ひとりを担当する支援者や避難場所、経路などを盛り込んだ対象者ごとの個別計画も求めている。ただ今回の地震で災害救助法が適用された府内の被災13市町の全てでほぼ未策定だ。
 消防庁の調査では、個別計画を策定済みの自治体は2017年6月現在で全国で約4割にとどまっている。
 個別計画がなくても、日ごろの見回り活動が奏功して迅速に対応できた自治体もある。茨木市では要支援者名簿とは別に、単身の高齢者に限った約1万3千人分の名簿を作成しており、両方を民生委員らに提供してきた。市によると、地震発生から3日で8割以上が確認できた。
 茨木市の民生委員の地区長は単身高齢者宅30世帯を回り、発生初日で全員の無事を確認した。普段から災害弱者の住所をまとめた「災害マップ」も作成しており、「支援が必要な人がどこに住んでいるか把握できていた。日ごろの見回り活動が生かされた」と話した。

10、災害情報 地図・多言語で(総務省)

 総務省は地震や豪雨などの災害情報を地域住民に知らせるシステム「Lアラート」の機能を充実させる。カーナビやスマートフォン(スマホ)を念頭に、文字情報だけでなく地図データも提供して位置確認をしやすくする。訪日外国人や外国人住民の増加を踏まえ、英語など多言語での情報提供も検討する。2018年度中に実証実験し、2019年度の導入を目指す。
 Lアラートは地方自治体や、通信・ガス・電力などライフラインを扱う企業から災害情報を集約し、テレビやラジオ、インターネットなどの事業者に伝える情報共有システムで、これらの媒体を通じて住民に瞬時に情報提供する。
 避難所のデータ、土砂災害警報、震度速報、河川水位、津波など災害に関する幅広い情報を扱う。
 いまは日本語の文字データをやり取りし、テレビのデータ放送やラジオの緊急放送、スマホへの緊急速報メールなどに活用されている。検討会では、より視覚的で実用的にするため、地図情報の提供などの方法を詰める。
 カーナビなどで地図として表示できれば、土地勘のない観光客らが避難勧告の発令地域をすぐに把握できる。
 外国人観光客が被災した場合や、日本語の不得意な外国人住民を想定し、災害情報を英語や中国語など多言語化して提供することなども検討する。
 新たな制度設計に着手するのは、システムの導入が進んだためだ。ライフラインの被害情報などを提供する企業や、住民に情報を伝達するメディアなどの事業者の合計数は、3月末時点で1,200を超えている。自治体も、この1年ほどの間に群馬、奈良、山口、鹿児島の4県が加入。2018年度中に福岡県が加わり、全都道府県で運用体制が整う予定だ。

11、火山警戒地域の避難計画 策定68市町村どまり(内閣府)

 火山の警戒地域に指定されている23都道県の延べ155市町村のうち、住民や登山者向けの具体的な避難計画を策定したのは3月末時点で68市町村にとどまることが、内閣府の調査で判明した。1年前の調査から28増えたが、半数超が依然として策定途上で、長期間噴火のない火山で検討が長期化していることが浮き彫りとなった。
 内閣府は自治体からの要請に応じ、職員や火山の専門家らを派遣するなどして、計画策定を加速させる考えだ。
 2014年9月の御嶽山(長野、岐阜両県)の噴火を教訓に、活動火山対策特別措置法が改正。全国49の活火山周辺にある自治体に対して噴火警戒レベルに応じ、住民らへの情報伝達方法や避難ルートなどの対策を地域防災計画に盛り込むよう義務づけた。
 活火山のうち、周辺の全市町村で避難計画が策定されたのは蔵王山(山形、宮城両県)や阿蘇山(熊本県)など18で、1年前の調査からは10増えた。

12、西日本豪雨 背景に偏西風蛇行(気象庁)

 西日本の豪雨は太平洋高気圧の縁を回るように暖かく湿った空気が入り込み梅雨前線が活発化したのが原因だ。今回は広い範囲で大雨が降りやすい状況が何日も続き、総雨量が増え数十年に一度の現象となった。背景に上空の偏西風の蛇行がある。
台風7号の「置き土産」といえる大量の水蒸気を伴う暖気により広い範囲で雲が発達した。台風が東へ抜けると梅雨前線が南下し、そこへ暖かく湿った風が南から吹き込み豪雨になった。
 関東地方が梅雨明けとなった6月29日時点では梅雨前線は北上したまま弱まり、他地域の梅雨明けも近いとみられていた。気象庁は「(前線が再び南下する)戻り梅雨はない」としていたが、太平洋高気圧の張り出しが中途半端で見通しははずれた。
 最大の理由が高・低気圧を動かす上空の偏西風の蛇行だ。日本の西側で北へ湾曲し大気の流れがよどみ、北のオホーツク海高気圧と南の太平洋高気圧との間で、梅雨前線が横たわり続けた。7月7日には上空の寒気が西から近づき、大気の状態が一層不安定になった。
 最近は数十年に一度の豪雨が頻発した印象があるが、毎回同じ地点で発生しているわけではなく異なる場所で起きている。ただ西日本には暖かく湿った空気がぶつかり、雲が発達しやすい南に面した斜面など豪雨になりやすい場所がある。梅雨末期の集中豪雨は九州や中国、四国などで発生するケースが目立つ。
 地球温暖化により気温が上がると大気中の水蒸気量が増え、猛暑や豪雨など極端な気象の発生頻度が増えると多くの専門家は指摘する。

13、瀬戸内7府県にため池6割集中(農林水産省)

 農業用水を確保するために造られた「ため池」は全国に約19万7千か所。年間降水量が比較的少ない岡山県や広島県など瀬戸内地方の7府県に約6割が集中する。多くが江戸時代以前に造られ、のり面が陥没するなど老朽化したため池は危険性が高い。
 農林水産省によると、2017年3月末時点で、住宅や公共施設の近くで被害の恐れがある「防災重点ため池」は1万1,362か所。このうち自治体が豪雨時の危険性を調べたのは約3割にとどまる。調査の結果、危険性があると判断された1,399か所で、そのうち補修などの対策を完了したのは半数という。
 防災重点ため池のうち、決壊による浸水想定区域などを定めたハザードマップを作製・公表しているのは4割弱の4,030か所。農水省は、ため池ののり面が膨らんだり亀裂や漏水が見つかったりした場合は、自治体などに連絡して対策を取る必要があるとしている。

14、健康管理チーム初派遣(厚生労働省)

 西日本豪雨で甚大な被害があった岡山県倉敷市で、大規模災害時に被災者の健康管理などを支援する「災害時健康危機管理支援チーム」(DHEAT)が活動を始めた。被災地の医療情報を収集したり避難所の衛生管理を助言したりする。厚生労働省によると、DHEATの派遣は全国で初めて。
 DHEATは東日本大震災や熊本地震で保健所が被災して支援物資を素早く分配できなかった経験がきっかけとなり、厚労省が2016年度からDHEATの候補者向け研修を開始。2018年3月から運用を始めた。チームは医師や管理栄養士らで構成され、被災地の保健所などで感染症の拡大防止や各地から集まった医療チームの指揮にあたった。

15、行方不明者 確定に時間(岡山県)

 深刻な浸水被害で、自治体による行方不明者数の確定にも時間がかかった。岡山県は豪雨発生から数日が経過した7月11日、行方不明者の公表数を大幅に増やした。災害現場で行方不明者数や人定を素早く把握して公表することは捜索活動に重要だ。情報が錯綜(さくそう)するなか、行方不明者を確定し公表する難しさが浮き彫りになった。
 同県は11日午前、県内の行方不明者をそれまで発表していた5人から32人とした。増えた27人の大半は浸水被害が深刻だった倉敷市真備町地区の住民で、警察や消防には「連絡が取れない」との情報が寄せられていたが、家屋が浸水したため戸別訪問による所在確認ができないとして公表を差し控えていた。
 11日までに県内の水がほぼ引き、捜索活動で各人の自宅を訪れて不在を確認、行方不明者として計上したという。

16、広域豪雨 リスク露呈(国土交通省・気象庁・地方公共団体)

 200人超が犠牲となった西日本を襲った記録的豪雨、梅雨前線の停滞など悪条件が重なったことが異例の広域被害を引き起こし、専門家は今後も同規模水害が起こるリスクを指摘する。国や自治体は、事前の避難で被害を最小化する「ソフト防災」を掲げるが、気象庁の「大雨特別警報」は浸透していなかったことが判明し、住民への情報伝達に課題を残した。
梅雨前線の停滞、太平洋高気圧の位置、大量の水蒸気を含んだ空気の流入――。こうした複合的な要因が重なり、今回の豪雨を深刻なものにした。
 梅雨前線は日本の北側にある冷たいオホーツク海高気圧と、南側の暖かくて湿った太平洋高気圧がぶつかって生じる。暖かく湿った空気が持ち上げられて上昇気流が生じ、水蒸気が雲になって雨が降る。
 豪雨の要因の1つは太平洋高気圧が本州の東にあり、空気の通り道が広かったことだ。そこに南や南西からの風が吹き、大量の水蒸気を含んだ暖かく湿った空気が次々と西日本に流れ込んだ。
 水蒸気の量は2017年の九州北部豪雨より10~20%多かったという。その状況が長時間続き、通常は30~60分しか持たない積乱雲が次々と発達して列をなす「線状降水帯」が西日本の広い範囲で何度も発生した。
 今後も同様の豪雨は起きるのか。気象庁のデータによると、1時間降水量が50ミリ以上の豪雨は全国で増加傾向にあり、2008~2017年の10年間の平均年間発生回数(約238回)は、1976~1985年(約174回)の約1.4倍となっている。
 深刻化する水害に対応するため、国土交通省は2017年に水防法を改正。「施設で防ぎきれない大洪水は必ず発生する」との前提に立ち、ソフトによる対策強化を打ち出した。ハザードマップの作成や早期の避難などで、人的被害を最小限にすることが狙いだ。
 ソフト強化を推し進める背景には、ハードの整備が財政的に難しいという事情もある。2018年度の治水事業費は約8千億円。1997年度の約1兆4千億円から4割以上減っている。
 ソフト防災の前提となるのが、住民への速やかな災害情報の伝達だ。気象庁は2013年から「大雨特別警報」の運用を開始。数十年に1度の大雨によって「重大な危険が差し迫った異常な状況」にあると判断した場合に発表され、2015年の関東・東北豪雨や2017年の九州北部豪雨などで出された。
 今回も気象庁は6~8日にかけて、計11府県もの広域に大雨特別警報を出し、警報と前後して、各自治体も住民に避難を呼びかけた。
 地域の3割が水没した岡山県倉敷市真備町地区では、市が6日午後10時に避難勧告を出し、メールや防災無線で住民に伝えた。40分後にこの地域が大雨特別警報の対象となると、市は7日未明までに緊急性の高い避難指示に切り替えた。
 だが、大雨特別警報が迅速な避難など最大級の警戒を呼びかけていることを、知らない人も少なくなかった。
豪雨で防災無線が聞き取れなかったり、単独での避難が難しい高齢者が避難所や自宅2階に逃げられず、1階で被害に遭ったりする例もあった。警報が出たのが夜だったため、避難をためらう人もいた。
 大雨特別警報を確実に住民らに届け、高齢世帯も含め避難に結びつけられるよう、政府は伝達方法の見直しを進める方針。ハザードマップなどで自分に降りかかる危険を普段から認識し、警報や避難勧告の前に避難することも大切だ。

17、特定非常災害に指定、西日本豪雨(内閣府)

 政府は、西日本豪雨を「特定非常災害」に指定すると決定した。阪神大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震に続き5件目で、豪雨での適用は初めてだ。
特定非常災害に指定すると、被災で行政手続きができなくなった住民を救済するための特例が適用される。自動車運転免許の更新ができない方の有効期間の延長などが可能になる。飲食店の営業許可の延長などが想定される。
 特定非常災害に指定することで、役所や住民が生活再建や復旧・復興に集中しやすくする狙いがある。対象地域は被災状況を考慮して国が選定する。対象となる手続きは、各省庁が今後決める。
 さらに、仮設住宅への入居や被災者生活再建支援金の受け取りに必要な罹災証明書を迅速に発行できるよう、被災自治体への応援職員の派遣を増強する方針も示した。被災者が無料法律相談を受けられる「法テラス」の適用も可能にする。

18、西日本豪雨 被災地応援職員が奮闘(内閣府)

 西日本を襲った記録的豪雨の被害を受けた自治体で、全国から派遣された応援職員が奮闘している。災害対応経験のあるベテラン職員が首長に対策を助言するほか、被災自治体と支援自治体をペアで組み合わせ、人手不足の災害業務を手助けする。いずれも国の新しい制度を初めて活用し、早期の復旧復興に向けて協力している。

19、特別警報は「最後通告」(気象庁長官)

 気象庁は、西日本豪雨で過去最多の11府県に大雨特別警報を出したことについて「特別警報は最後通告のようなもの。警報や土砂災害警戒情報が出たら、気象庁のホームページで土砂災害や浸水の危険度マップを閲覧し、住んでいる地域の状況を確認してほしい」と呼び掛けた。
その上で「お年寄りの多い地域ではインターネットへのアクセスが難しい場合もある。コミュニティーのリーダーに情報の見方を知ってもらうようにしたい」と述べた。
 西日本豪雨では本州付近に停滞した梅雨前線に太平洋や東シナ海から大量の水蒸気が流れ込み、各地で記録的な大雨になった。気象庁は6~8日、長崎、佐賀、福岡、岡山、広島、鳥取、兵庫、京都、岐阜、愛媛、高知の11府県に大雨の特別警報を出した。
気象庁は、西日本豪雨で過去最多の11府県に大雨特別警報を出したことについて「特別警報は最後通告のようなもの。警報や土砂災害警戒情報が出たら、気象庁のホームページで土砂災害や浸水の危険度マップを閲覧し、住んでいる地域の状況を確認してほしい」と呼び掛けた。
その上で「お年寄りの多い地域ではインターネットへのアクセスが難しい場合もある。コミュニティーのリーダーに情報の見方を知ってもらうようにしたい」と述べた。
 西日本豪雨では本州付近に停滞した梅雨前線に太平洋や東シナ海から大量の水蒸気が流れ込み、各地で記録的な大雨になった。気象庁は6~8日、長崎、佐賀、福岡、岡山、広島、鳥取、兵庫、京都、岐阜、愛媛、高知の11府県に大雨の特別警報を出した。

20、4割ダムで「洪水調節」(国土交通省)

 国土交通省によると、西日本豪雨では治水機能のある全国558ダムの約4割に当たる213ダムで、下流に流れる水量を調節する「洪水調節」が行われた。このうち愛媛など6府県の8ダムで、緊急的に流入量とほぼ同量を放流する「異常洪水時防災操作」が実施された。
 河川法に定められたこの操作は、県や市など関係機関と合意した操作規則に基づいて実施する。同省によると、2017年までの10年間に40回実施されたが、同時期に広範囲の8か所で行われるのは珍しい。

21、倉敷大雨「100年に1度」(防災科研)

 西日本豪雨で大きな被害が出た岡山県倉敷市周辺の24時間当たりの最大雨量は約200ミリで、100年に1回程度の非常にまれな大雨だったとの分析を、防災科学技術研究所(茨城県)がまとめた。
6月28日~7月8日の総雨量を見ると、被害が甚大だった広島県や岡山県は他地域よりも少なめで、被害の度合いとは必ずしも一致しなかった。高知県は24時間の最大雨量が広島、岡山よりも多い300ミリ超だったが、もともとまとまった雨が多い地域で、今回の豪雨は3~4年に1回程度の雨だった。
 防災科研は「地盤など特性を考慮して対策を考えるべき」と話している。

22、災害SNS、理想は二刀流(内閣官房)

 西日本を襲った記録的豪雨で犠牲者が出た岡山、広島、愛媛各県の計24市町で、災害情報の発信に交流サイト(SNS)のツイッターとフェイスブックの両方を利用している自治体は11市町にとどまることが分かった。どちらか1つが9、いずれも使わない自治体も4あった。国は「複数のSNSを確保するのが理想」としており、自治体間でばらつきがある実態が浮き彫りになった。
真備町地区が広範囲で浸水した岡山県倉敷市は、災害対策本部設置を手始めに、ツイッターで相次いで情報を発信。義援金詐欺への注意なども呼び掛けた。広島県呉市はフェイスブックで給水や仮設住宅などの情報を被災者に届けた。
 情報を伝える手段として主流だった防災メールは事前にアドレスを登録した住民にしか届かず、防災行政無線は聞き逃す恐れがある。ホームページも、住民からアクセスしないと最新情報を入手できない。
 対照的にSNSは、情報を瞬時に拡散することができ、知人に情報を知らせることも簡単にできるため、自治体のアカウントを知らない人にも情報が行き渡りやすいといった利点がある。このため、各地の自治体ではSNS導入が進んでいる。
 内閣官房情報通信技術総合戦略室が2017年に実施した調査では、全国の1,741自治体のうちSNSを災害対応に利用・利用予定の自治体数は2014年には672だったが、2017年になると941に増加。これらの自治体の人口を合計すると総人口の約86%になる。
 同戦略室は自治体向けに災害対応のSNS活用ガイドブックを作成し、導入を推奨している。災害情報発信では複数のSNSを確保しておくのが望ましい。SNSを活用し、災害対応の強化につなげてもらえればとしている。
災害情報の発信ではツイッターやフェイスブック以外の手段で工夫を凝らす自治体がある。
 広島県尾道市はツイッターやフェイスブックではなく、LINE(ライン)を採用した。避難所や給水、入浴支援といった被災者向けの情報を小まめに発信している。
 ラインは、新着情報が届いたことがスマートフォン(スマホ)の画面ですぐ分かるのが特徴。若年層が使う割合がフェイスブックより高いとされ、行政になじみの薄い若者も親しみやすい。
 約8千人だった尾道市のライン登録者数は豪雨後、1万8千人超に急増した。

[防災短信]

【参考文献】