防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第104号)

山口明の防災評論(第104号)【2019年3月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、コンパクトシティの死角<立地適正化計画と防災>

〈解説〉
 国土交通省の目玉政策の一つであるコンパクトシティ(人口減少社会に対応するため都市機能や住居を一定の区域に集約する試み)を形成するための青写真が対象市町村ごとに策定される「立地適正化計画」である。立地適正化計画は主に人口減少の進む地方都市をコンパクトシティへと誘導する政策の柱となっていたが、2018年の西日本豪雨をきっかけに、計画上の市街地整備が水害・津波・土砂災害などのリスクを必ずしも考慮せずに進められてきたことが浮き彫りになった。
 コンパクトシティ政策の防災への対応を強化するため、国土交通省は立地適正化計画に基いて住居を集約する「居住誘導区域」を指定する市町村(154)を対象に区域内に災害リスクがあるかどうかを調査した。その結果、水害リスクが高いとされる「浸水想定区域」を含んだ誘導区域を持つ市町村は90%以上と極めて高く、土砂災害防止法の「土砂災害警戒区域」を含む割合も30%超となっている。
 国土交通省のコンパクトシティ制度においてはこれらリスク区域の存在と整合性を取るものとなっていないため、今後土地適正化計画の規制強化も併せて検討することとしている。特に危険度が高いとされる「土砂災害特別警戒区域」(レッド・ゾーン)を域内に抱える場合、居住住民自らが行う居住や営業のための開発許可申請(現行法では合法)についても規制強化を検討するほか、危険度の高い住宅地域については、移転を促す施策も検討対象にするとしている。
 少子高齢化に伴いコンパクトシティを志向せざるを得ない自治体は今後益々増加するものと思える。当該構想に関係すると見られる地域に住む防災士をはじめ多くの関係者が、安全確保のためコンパクトシティと防災との関係により関心を示してゆく必要があろう。


<関連図表>



2、災害に強い再生エネルギー<エネルギー基本計画>

〈解説〉
 国の中長期的なエネルギー政策の基本政策の指針となるエネルギー基本計画は3年毎に見直され、最新のものは2018年7月に閣議決定されている。次は2021年を目指しての見直しとなるが、この間再生エネルギーが地震、台風、豪雨などの災害に脆弱なことが明らかになり、今後再生エネルギーを主力電源として伸ばしていくことを目指すうえでは、災害への耐久性を強めなければその信頼性は得られない。東日本大震災による津波で福島第一原子力発電所が破壊され、原子力への依存度の低下は避けられない。再生エネルギーは今後コストや安定性と共に災害対応力の強化もより一層力を入れるべき課題となる。
 昨年被災又はダメージを受けた再生エネルギー施設の主なものは次の通りである。

1)7月の西日本豪雨では岡山や広島を中心に出力50kw以上の大規模太陽光発電所の約20箇所が被害届提出。それ未満の太陽光発電でも推定200件が被災。
2)8月の台風20号により、淡路島に建てられていた風力発電施設(高さ37メートル)が根元から屈折。
3)太陽光パネルは水害や消防放水により感電死などの二次災害を発生させる。昨年も漏電が遮断できず、複数の感電によるショック障害が発生。
4)9月の北海道地震では火力発電所の被災により全道ブラックアウトという史上初の惨事が起きたが、不安定な供給源である太陽光・風力など再生エネルギーは接続バランスへの不安から地震後約一週間立ち上がり困難。これらの事故に対し経済産業省は2018年10月太陽光の規制強化案を打ち出した。風や周辺構造物などの条件により、太陽光パネルに従来の2倍以上の耐風圧性を求めるほか、施工不良や地域住民とのトラブルなどを背景とした不良案件に対し、立ち入り検査の強化や事業認定の取り消しも視野に入れている。

いずれにしても再生エネルギーを化石燃料代替エネルギーの柱として定着させてゆくには行政の監視など規制強化にとどまらず、地域住民による自主的なチェックも欠かせない。この分野でも防災士が活躍する場が今後期待されよう。


<関連図>

出典 経済産業省 第14回 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ資料より

3、三陸鉄道貫通運行開始<第三セクター鉄道の課題>

〈解説〉
 3月23日東日本大震災で被災した岩手県東海岸(陸中海岸)で三陸鉄道(第三セクター)がJR東日本山田線の一部を引き継ぐ形で新区間(宮古―釜石)を開業させた。
 これで陸中海岸162km(久慈―盛)が一本のレールでつながり、単一会社の経営下に入ることとなった。
 三陸鉄道の歴史は複雑である。経営難に陥っていた旧国鉄から北リアス・南リアスの二つの線区の引き継ぎ又は新線建設により開業したのが母体となる第三セクター三陸鉄道であり、この種の形の第三セクター線としては全国初の試みであった。この時盛岡から宮古を経て釜石に至るJR山田線は輸送密度が高いという理由から移管されず、JR線を挟んで南北に第三セクター線があるという変則的な状況がずっと続いていた。この形成を一変させたのが東日本大震災である。震災直後大津波によりこれらすべての線区が壊滅的な被害を受け、一時は全線区廃止も検討された。三鉄もJRも20年以上慢性的な赤字に悩まされてきたからである。
 これに対し「復興=鉄路」という地元住民の期待は大きく、国・県などを動かし2014年には旧三鉄北リアス・南リアス両線が復活した。しかし残る山田線沿岸部についてJR側としては身軽になりたい決意が固く、BRT(バス)を復旧提案した。だが、中間区間がバスのままでは両端の鉄道もますます経営が厳しくなることが予想され、鉄路復旧を望む地元自治体とJRとの協議は難航しつつも鉄道複線で、という合意点にようやく到達、復旧費用はJRが、経営は三鉄がという妥協によりこのたび宮古―釜石間も再開通の運びとなったのである。
 鉄道は本来収益事業であり、公共事業である道路とは採算性への考え方が抜本的に異なる。鉄道は企業単体として儲けを捻出できない限り経営継続は困難な事業である。いつまでも国・県などの支援に頼っていることはできない第三セクター三陸鉄道。地域防災士をはじめ多くの地域住民による乗車運動をはじめとする幅広い応援体制を構築しなければ災害とはまた別の危機がすぐにでも襲ってくる可能性があるのだ。


<関連図>

出典 三陸鉄道ホームページより 路線図

4、浴槽事故死者4,800人超<隠れた災害事故>

〈解説〉
 11月26日は「いい風呂の日」である。消費者庁ではこの時期をとらえ高齢者を中心に入浴に注意を呼びかけている。高齢者に限っても入浴中の事故で死亡した数は2016年に4,812人、最近の高齢者交通死亡事故死が3,061人(2016年)であるからそれをはるかに上回る。殆どは入浴中に意識を失って溺れるなどのケースで日本の災害類型では、地震やその他の自然災害死者などをはるかに凌駕しトップに立つ犠牲者数であるが、その割には注目されない。
 浴槽での死亡事故はその70%ほどが11月から3月の間(冬季)に発生、脱衣場と浴槽との温度差が40度以上にものぼり、血圧が急激に変化することが原因とみられる。寒冷地に発生しがちな災害事故と思われがちだが、温度差に起因するものである以上温暖な地域との間で発生率に顕著な差はない。
 当然注意すべき点として、①脱衣場及び浴槽そのものを温める。②湯温は適温とされる41度又はそれより下とし、長時間漬からない。③浴槽から急に立ち上がることは避ける。④飲食直後や薬物の服用後の入浴は避ける、などが消費者庁としてまとめているものであるが、背後にはわが国における急激な少子高齢化進行という構造問題が横たわっている。なお、殆ど入浴しないとされる欧米では、このような事故例は極めて少なく、日本人独特の「風呂好き」が悪い方向に作用した災害といえる。
 防災士は日頃地域の見守り活動を呼びかけているが、何も災難は地震、風水害など自然災害ばかりではない。ちょっとしたことで防げるこの入浴事故についてもっと予防策を話し合い、独居の要援護者が居る世帯などでは緊急の際どのように近所や消防等行政に知らせるのかいろいろな方策を探っていくことも大切であろう。


<関連図表>

出典 消費者庁 「冬季に多発する入浴中の事故に御注意ください!」より引用

5、「半割れ」で事前避難<中央防災会議報告書>

〈解説〉
 昨年12月11日の南海トラフ地震異常現象に関し、“事前避難”という概念が中央防災会議に盛り込まれた。静岡県駿河湾から紀伊半島、四国沖合を通って九州東海岸まで延びる南海トラフの震源域の半分でM8クラスの巨大地震が起きるケースを「半割れ」と呼び、地震が起きていない残る半分の地域については住民等に対し一週間程度の事前避難を呼びかけるとした。この判断に至った理由として次の2点が挙げられている。
(1)事前避難を要請した場合の一般住民として許容できる避難期間が一週間程度であると各地のアンケート調査で明らかになっていること。
(2)南海トラフ域で起きた最近2回のケースではいずれも東半分の震源域で先に地震が起き、その後西側半分の地域で地震が起きていること(1854年、1914年~1946年)。ただし、“半割れ”がいつも東領域から始まるかどうかは確証はない。
 南海トラフ地震が発生すると151市町村が震度7以上の震れを被り、21市町村では10メートル以上の津波が襲うと想定される。死者は最悪で32万人以上にのぼると推定、これらの被害想定規模は東日本大震災を上回る。このためこういう想定を事前に示すことも大切であるが、自然界の態様は人間の想像を超える。防災士にとっての基本はあくまでも、いつ、どこで、どの位の大きさの地震が来るか分からないという前提に立ってその予防策を徹底することとともに、特にこの地域の防災士にとって津波からの避難態勢にぬかりなく備える気持ちが重要である。南海トラフ地震の発生確率は今後30年に70~80%とされている。


<関連図表>
出典 内閣府 南海トラフ沿いで過去に発生した大規模地震の震源域の時空間分布 「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応のあり方について」報告書より引用

[防災短信]

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