防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第122号)

山口明の防災評論(第122号)【2020年10月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、災害廃棄物対策に関する新たな視点

〈解説〉
 令和2年も既に7月豪雨という大災害を経験し、最近は風水害を中心とする被災が次々に襲う状況が当たり前のように続いている。
 令和元年も台風被害を中心に大きな風水害に何度も見舞われたことは記憶に新しい。9月の台風15号では千葉県を中心に74,000棟を超える住家被害が発生、さらに千葉県を中心に最大時約93万5,000戸の大規模停電が発生した。また翌月に発生した台風19号は規模・大きさとしては15号を凌ぎ、多くの地点で降水量の記録史上最悪を更新する大雨をもたらした。この台風による死者は104名、住家被害は101,000棟以上となる甚大な被害が出た。この二つの台風において出た災害廃棄物(災害ゴミ)の量も半端ではない。環境省によると令和2年2月時点でまとめられた推計量は約200万トンにのぼる。数え方にもよるが地震を除く災害でのゴミ排出量としては史上最悪ではないかと見込まれる。このため被災自治体においては災害廃棄物処理実行計画などの方針を定め処理に奔走している。また、環境省も自治体や県をまたいだ広域処理を促進するための調整を進め、長野、富山、三重、宮城、神奈川などの県が連携し、海上輸送、鉄道輸送も含めた大がかりな広域連携が実施されている。
 また、消防や警察などの先例を参考に、災害廃棄物処理を経験し実績を積んだ地方団体職員を「災害廃棄物処理支援員(人材バンク)」として事前に登録しておき、発災時に被災地支援に赴く制度を今年中に発足させることとしている。
 このように、東日本大震災も含め多くの災害で大量の災害廃棄物処理に直面してきた経験をふまえ、公共部門においては徐々に体制が整備されつつあるが、見落としてならないのは「出し手」である住民側の対策である。大量購入・消費社会の中、わが国では各世帯での家具・家電を含む備品、調度品は大量に存在しており、正確な統計はないが日本の家具等日用品の量は最貧国一世帯当たりのそれと比べて50~100倍あるといわれる。そこで災害廃棄物対策として今後検討すべき重要テーマは、これら家庭内用品を事前に計画的に整理・廃棄して災害に備えるという事前防災的発想である。もとより住宅や塀など大規模な廃棄物については難しい面もあるが、動産を中心とした身の回りの品々を予め片付け、廃棄し地域の総量として潜在廃棄物の量を減らしておく試みである。災害が発生してから膨大な災害ゴミと格闘する労力を軽減する予防措置としても有効と思われるこの対策はしかし、個人の所有権に係る問題が絡み、「自助・共助」の力に俟つところが大きい。防災士としても事前防災啓発の一環としてゴミ予備軍ともいえる不用品の廃棄を地域ぐるみで推進するなどの運動を展開する余地はあるのではないだろうか。その際の公的支援の検討も必要であろう。防災上も「断捨離」は必要なのである。




<関連図>台風15・19号 長野県・宮城県からの広域処理

以上出典:環境省



2、新型コロナウイルスと避難のありかた

〈解説〉
 令和2年は4月に新型コロナウイルス感染症等緊急事態宣言が発令され、そのあと同宣言が解除されたが、以後も感染拡大の収束が見通せない状況が続き、国民は経済活性化と安全対策の両者に板ばさみになったまま年を越そうとしている。このような中住民避難を伴う大災害が発生した場合、避難所や避難場所が被災者であふれ返る「3密」状態が発生しかねない危険な環境となる。政府ではこれまでも「避難所運営ガイドライン」(平成28年)などを通じ必要な感染症対策を講じるよう、地方団体等に対して周知を行ってきたが、新型コロナの場合従来策定されていたインフルエンザ等の感染症とは一段階次元の違う大型かつ危急の感染症として新たな対策が迫られる様相となっている。
内閣府の掲げる新型コロナウイルス下の避難対策としては
①親戚や友人宅等への避難(縁故避難)の検討
②可能な限り多くの避難所の開設
③避難者の健康管理関連対策(医療の提供を含む。)
④避難所内の十分なスペースや発熱・セキの症状者用専用スペースの確保
が、挙げられている。このうち①については現状に鑑み、濃厚接触の危険性もあることから、余り勧められるべき対策ではないといえる。やはり決め手は②と④であり、コロナ感染拡大中は緊急避難的に臨機応変の手を打っていくことが求められる。避難所運営に係る④については内閣府と厚生労働省から図1、図2のようなマニュアルが示されており、実際の運営において多少のトラブルはあっても“身の安全”を互いに確保するうえからも避難所開設者と被災者双方が尊守徹底してゆくべき事項である。②については地方団体は、あらかじめ指定した指定避難所以外にもできるだけ多くの避難所が開設できるよう、平常時から関係者と協議を行い受け入れ体制に万全を期すべきであろう。今年の7月豪雨の際は熊本県において、県旅館ホテル組合との協定に基づき県下全域で受入可能なホテル・旅館を維持する体制が整えられたが、さらに旅館・ホテル自体が被災している場合、応急補修をしてでも避難所として活用する取組みも行われている。このように全国レベルでも旅館やホテル・研修施設などこれまで指定されていない施設を更に掘り起こして展開し、感染症流行下の大災害に備えるべきであり、防災士もその連携・仲介に努めていくことが望まれる。


<関連図1>受付時健康状態チェックリスト(例)


出典:内閣府



<関連図2>滞在スペースと区画の振り分けについて(例)

出典:内閣府

3、台風観測の盲点(強度のブレ)

〈解説〉
 誰でも知っているように台風は規模範囲と強さの二つの要素で表される。「大型で強い台風」などと報道されるように、「大型」とは風速15km以上の風が吹く半径が500kmから800kmまでに広がっていることを指す。また「強い」は日本では最大風速で表わす(表1)。
 台風の予測は昔と比べるとずいぶん進歩した。よく「地震は予知できないが、台風は予測可能」といわれるのはこの事実を指している。しかし進歩したと評価される台風予測だが非常に遅れている分野が残っているが、それが「強さ」である。
 今年の台風10号は9月に発生し、当初大変な騒ぎをもって報道された。気象庁はこの台風の予報において「特別警報級」のスーパーと予告し、しかもそれを繰り返し発表した。特別警報の仕組みは2013年にはじまった。“数十年に一度しかないような非常に危険な状況”を指し、ただちに命を守るための行動を求めるものとされている。台風の場合、伊勢湾台風(1959年5,000人超死亡・行方不明)級の中心気圧(予測)930ヘクトパスカル以下、最大風速50m以上を基準としている。上陸が想定された鹿児島で特別警報が発表されれば本土(沖縄以外)では初のこととして大いに注目されたが、予報より実際の勢力がはるかに弱り、特別警報は発令されなかった。気象庁によると直前に九州の西を進んだ台風9号により海水がかくはんされ、台風勢力の源となる水蒸気の供給が想定より非常に少なくなったと説明されている。
 このように実際に襲来した際の強さを正確に予測することは極めて難しい。実は1980年代後半までは在日米軍が果敢にも台風の中心に直接航空機で突入させ観測していたが、危険が伴う行動であったため米軍は当業務から撤収、代わって気象衛星から台風の雲がどのようなパターンとなっているかを観測し、それをもとに推測する方法(ドボラック法)に切り替えられた。この方法は観測データの蓄積がある中強度の台風まではかなり信頼性があるが、最近特に多い強さを増す台風ではその推定強度と実際との乖離(誤差)が大きくはずれる場合が多い。これは今回のような事案を招くだけではなく、地球温暖化に伴う台風の強度変化を調査研究することにも大きな障害となる。「地球温暖化により台風は強度化するのか」という問いに気象学者が曖昧な回答しかできないのもこの誤差の存在が大きく影響している。安全かつ確実な方法により台風の強さを直接測定できる手段の確立が急がれる。


<関連図>台風の大きさの階級分け

<関連図>台風の強さの階級分け

<関連図>台風進路予想図 以上出典:気象庁

[防災短信]

以下は、最近の報道記事の見出し紹介です。