防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する
山口明氏による最新の防災動向に関する評論です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。
防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
〈解説〉
だいぶん前の話になるが、2017年10月の台風接近時に大阪の南海電鉄の電車が大阪府阪南市の男里(おのさと)川にかかる橋梁で脱線、乗客5人が負傷した。この電車は時速約70キロで走行、橋梁を渡りはじめた途端に線路が沈み込み上流側に湾曲しはじめたのを運転手が目撃している。急ブレーキをかけたが間に合わず脱線事故が発生した。鉄道が増水した河川にかかる鉄橋上で沈下脱線するのは極めて珍しい。南海電鉄が事故発生4ヶ月前の6月に行っていた通常全般検査では全ての点検項目で異常なしとされていた。ではなぜ橋梁は沈下し、電車は脱線したのだろうか。
運輸安全委員会の調査によると破壊された第5番目の橋脚の”根固め工“が防護機能低下し、それが台風接近による増水で洗掘されたものと判明した。男里川は橋が架けられた1935年ごろから流状を変化させ、第5番目の橋脚付近が極めて侵食されやすい流れになっていた。運輸安全委員会では洗掘による災害防止のためには根固め工も橋梁の一部を構成するものと認識し、その調査もふまえ橋の健全性・安全性を判定すべきと指摘した。鉄道で発生したこの事故は一般に河川の流状変化に常に気を配り、異常現象が発生していないか注意することについて防災士にとっても教訓となる案件である。
<関連図表>
出典 平成31年1月31日運輸安全委員会
〈解説〉
きっかけとなったのは2016年の熊本地震だった。大規模地震に備え、高速道路や国道など緊急輸送道路の橋梁を対象とした対策にドライブがかかることとなった。緊急輸送道路については熊本地震では「速やかに機能回復を可能とする構造」を目標としてきた国だが、実に12の橋でそれが達成できなかった。高速道路では一部の跨線橋が落下して道路を塞いだほか、高架橋についても甚大な被害が出た。
元々、2015年策定の社会整備重点計画では目標を2020年までに81%達成としていたが、新たな計画では、震度6以上の揺れの発生確率26%以上の地域(30年レンジ)では2021年度までに耐震目標を達成させ、その他全国の緊急輸送道路については2026年度までに完成させるとした。
一方、熊本地震で問題となったのは「ロッキング橋脚」と呼ばれる特殊な構造の跨線橋である。この橋は水平に支持できる機能が備わっていないので大地震で落橋しやすい。
実は2018年現在このロッキング橋脚を採用している箇所は430もある。国はこれらの橋脚を水平力からも自立できる構造に2019年度までに改良することを目指す。
防災士としては普段何気なく通行している高速道路にも注目し、熊本地震などの被害状況を参考にしてどのような橋が危険性が高いのか、判別できる眼力を養いたい。
<関連データ>
○緊急輸送道路上の橋梁の耐震補強進捗率(H30.3月末時点)
出典 国土交通省ホームページ「道路における震災対策」
〈解説〉
東京の日本橋は1603年江戸幕府開府とともに建造され、日本史でも学ぶように旧五街道(東海道、中山道、奥州街道、日光街道、甲州街道)の起点となった。現在の橋は明治44年(1911年)に建造された20代目にあたる。1963年前回のオリンピックのとき突貫工事で首都高速を作る計画が優先され、日本橋の上空には巨大な高速道路が日本橋側に沿って跨ることになった。
それから30年が経過し、“日本橋に青空を取り戻す”運動が起こり、政府等への嘆願署名は45万人にも達した。そして2017年7月には国土交通大臣と東京都知事が首都高速の地下化に向けて取り組む旨の合意発表が行われ、2020年オリンピック終了後から現在の首都高速道路撤去にかかるとされている。
一見国民がこぞって期待する“国家的プロジェクト”のように見えるこの事業だが防災対策を進めるうえではいろいろ課題もある。まず10年越しといわれるこの事業推進中は都心部の首都高速道路が寸断され、地下を通る8本もの鉄道にも影響が及び、いざというときの防災対策とりわけ輸送対策に重大な懸念が出ることだ。時あたかも首都直下地震への備えが叫ばれていることとの整合性をどう図るのだろうか。次にこのプロジェクトに投入される資金である。もちろん全てが税金で賄われるわけでもないが、単に日本橋の上空に青空を取り戻すだけで5,000億から7,000億円もの資金が必要とされる。今後東京高速道路線など関連アクセスの改修も必至とみられ、その場合工事費は一兆円を超える恐れもある。マスコミもこの問題には異常な寛容さを見せるが、日本国土全体の強靭化が緊急の課題といわれる中、優先プロジェクトとして本当に問題はないのか? このプロジェクトで潤う日本橋周辺の商店が多額の寄付集めの計画があるとも聞かない。今一度ふり返ってみてもいいのではないだろうか。
参考サイト
日本橋(Googleストリートビュー)
〈解説〉
都道府県がデータベースで把握しているため池の総数は約9万箇所(2013~15年調査)で、実際には全国で20万箇所あるといわれる数の半分にも満たない。そこで農林水産省ではデータベースに登録するため池数の拡大やため池の所有者による維持管理の努力義務などを盛り込んだ新法の制定をめざしている。
新法で目指すとしている内容は次のとおり。
(1)ため池の所有者や管理者に堤高や貯水量などのデータ提出
(2)全てのため池の情報をデータベースで一元化、防災計画の作成に利用。
(3)降雨時の決壊につながらないよう土砂の撤去や堤体法面の除草等維持管理を所有者、管理者の努力義務とする。
(4)所有者等不明なため池や維持管理の困難なものについて市町村に管理の引き継ぎ
(5)堤体の耐震機能や高さ不足のため池に対する知事の行政代執行(緊急の場合などに限る)
(6)全国11,000箇所にある「防災重点ため池」について補強やハザードマップ作成を
優先して推進。
なお、「防災重点ため池」についての指定基準は昨年11月に見直された。その要件は
次のとおりであり、再指定が終了する2019年5月末までは対象ため池は50,000箇所以上になるとみられる。
(1)100m未満の浸水区域内に家屋の存在
(2)貯水1,000立方メートル以上~浸水区域内100~500メートル以内に家屋存在
(3)貯水量5,000立方メートル以上~浸水区域内500メートル以上に家屋存在
西日本を中心にため池のあるエリアに居する防災士も多い。日頃からため池の防災安全に留意するとともに、新法の動きにも目を光らせよう。
<関連図表>
出典 農林水産省ホームページ 「ため池」
以下は、最近の報道記事の見出し紹介です。