防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第108号)

山口明の防災評論(第108号)【2019年7月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、住民一人一人の避難計画作成支援<マイ・タイムラインリーダー認定>

〈解説〉
 関東平野を南北に貫く鬼怒川・小見川沿岸は2015年、鬼怒川決壊に至った関東豪雨など何度も激甚は洪水被害に見舞われている。そこで沿岸の国、自治体などで構成する減災対策協議会は住民一人一人が作成する「マイ・タイムライン」(時系列による避難計画)の普及を図るためのリーダー養成(認定制度)を2018年から始めている。リーダーと認定されるとマイ・タイムライン作成指導のための講習会で講師を務めることができる。
 これまで2015年の関東豪雨の際多くの住民が逃げ遅れたことを教訓にマイ・タイムラインの普及促進に取り組んできた同協議会であるが、より具体的に住民一人一人が自らの住居地域の危険性を認識したうえで避難計画を作成してもらうため、行政サイドからの普及啓発に加え、住民をも巻き込んだ自助・公助の取組みの一環として「リーダー養成」を開始することとしたものである。リーダーは講師またはその補助となる人材を四段階に分けて認定する。四段階に分けたのは、参加者がリーダー認定講座での習熟度合いや実務経験などに応じグレードアップしてゆくためであり、2019年度は100人程度の認定リーダーの育成を目指すとしている。地元防災士はぜひこのリーダー認定講座に参加するとともに、協議会との協力の輪を広げ、防災士資格そのものをリーダーに取得していただくような取組みも進めることが期待される。


<関連図>

出典 国土交通省 関東地方整備局 下館河川事務所「マイ・タイムラインリーダー認定制度について」より引用


2、電柱倒壊被害の軽減に向け<国の無電柱化事業立ち上げ>

〈解説〉
 これまでもNTT株売却益活用や自治体レベルでの助成などで進めてきた街路の無電柱化であるが2016年12月施行の無電柱化促進法により国の施策は前進してきた。新法に基づく推進計画では①防災、②安全・円滑な交通確保、③景観形成・観光振興、④東京オリンピック・パラリンピックの推進分野が示されたが、中でも重点は①防災対策に置かれている。またこれとは別に2018年12月に各議決定された「重要インフラに係る3ヶ年緊急対策」として電柱の倒壊危険が高く災害拠点につながる重要道路約1,000kmを推進計画とは別に進める臨時緊急措置として予算計上している。
 国・地方公共団体が無電柱化を進める背景には災害時に電柱倒壊する例が頻発していることがある。2018年9月の台風21号では近畿地方において想定を超える強風で電柱が広い範囲で倒れ、関電管内では800本以上が倒壊したことにより一時220万戸以上が停電した。さらに倒壊電柱や破損した電線が緊急車両の通行を妨げ、災害復旧の遅れにつながった。
 欧米では殆どの無電柱化しているといわれる街路安全対策について日本は遅ればせながら加速、推進することとされた訳であるが、無電柱化後の共同溝等の管理や地上変圧器の浸水安全対策にも万全を期して取り組みを進めてゆく必要がある。防災士にとっては地元地方公共団体の進める無電柱化計画街路はどこかよく把握したうえ地域の安全対策を考えることが求められる。


<関連図>

〈電線共同溝のイメージ〉


出典 国土交通省 無電柱化の手法より引用


3、代替フロン抑制<地球温暖化への歯止め>

〈解説〉
 代替フロンのハイドロフルオロカーボン(HFC)はエアコンや冷蔵庫の冷媒に主に使われている。もともとはフロンガスが大気中のオゾン層(O3)を破壊し地球環境が太陽光に暴露されることから国際的に使用が禁止され、その代替物として1990年代から普及した。しかしHFCに代表される代替フロンはオゾン層こそ破壊しないが、地球温暖化への影響が極めて大きいことが問題として顕在化してきた。代替フロンの温暖化効果は二酸化炭素(CO2)の最大1万倍あり、大気に放出される量がたとえ小さくてもその悪影響は甚大である。エアコン(家庭用)から1キロ離れた場合、温暖化効果CO2換算で実に2トンとなり、これは平均的な家庭が年間放出するCO2量の半分に相当するのである。
 政府ではフロン排出抑制法により代替フロンの排出抑制を進めてきたが、このたび同法が改正され、フロン類を抜き取って処分するべき業務用冷蔵庫や空調機器に対する罰則が強化される。これまでの法律では回収率は2017年で40%程度に止まり効果に危機感を抱いた環境・経済産業両者は、一度でも違反が認められれば罰則を適用するとした改正法に基づき、都道府県の立ち入り検査を行うほか不法投棄防止のための対象機器の点検記録の長期保管も求める。また機器回収業者にもガスを回収し終えたことが確認できなければその取引を禁止する。両者はこれら対策強化により回収率を2020年に50%、2030年には70%にまで引き上げることを目標とする。
 国内では冷媒用ガスを安価な代替フロンに頼らず、環境にやさしい自然冷媒(炭化水素やアンモニア)に切り替えるところも出ている。このように地球温暖化対策が強化される日本だが、隣国の中国では“安い”ということだけに着目して国際法に違反してフロンや代替フロンを新たに製造・使用していることが判明した。中国にはCO2排出だけでなく(代替)フロンの抑制にももっと力を入れるよう国際社会による監視の目を強める必要がある。いずれにしても防災士は身近な工場・事業場や廃棄物処理場で違法に代替フロンが排出されていないか確認し、必要とあれば警察等に通報する姿勢も求められる。地球温暖化は大災害や大規模気候変動につながる防災上のネックとされている。普段の何気ない監視の目が防災・減災に結びつくのである。


<関連図>

出典 環境省・経済産業省:「フロン排出抑制法の概要~改正法に基づき必要な取組~」より引用


4、極短周期地震<地震の周期と震度>

〈解説〉
 2019年6月18日午後10時30分ごろ発生した山形沖地震では震度(最大)6強を観測したものの死者や家屋の全壊はゼロという予想外の朗報がもたらされた。その原因の一つが今回の地震動が0.5秒以下の「極短周期」分布が非常に卓越したことが挙げられる。短周期の地震動は家具やブロック塀の転倒、屋根瓦の落下という局所的な被害が発生しやすいといわれている。一方、「キラーパルス」といわれている周期1~2秒の地震動は殆ど観測されなかった。これが幸いしたといえよう。防災科学研究所のデータを基に、日本経済新聞社が一定の想定減速度を掛け合わせて行った今回地震のシュミレーションを熊本地震(2016年)のときと比較して表した図によるとその相異が明らかに分かる。気象庁やマスコミにおいては震度とM(マグネチュード)に偏っている地震発表について可能な限り他の指標(例として加速度を同期)にも言及してゆく努力が求められる。今回のように“震度6強”でも家屋被害が殆ど無かったことだけを見て地震被害というのは言われている程には大したことはないとの見誤りを一般人に植え付けるおそれがあるからである。防災士は、したがって、震度とMに頼ることなく各種指標も組み合わせた分析、説明能力を養うことも必要であろう。


5、ガソリンとらせん階段<京都アニメーション参事>

〈解説〉
 2019年7月に突如発生した京都市伏見区の京都アニメーション第1スタジオ火災。本稿執筆の時点で35名もの方が亡くなりさらに33名の方が入院中である。建物規模に対して余りに多い犠牲者数は2001年の新宿歌舞伎町火災(44名死亡)をほうふつとさせる。しかし今回火災では被災建物に目立った消防・建築違反は無かったと推定されている。
 被害を甚大にしたのは何といっても無防備な事務所に大量のガソリンがまき散らされそれに火をつけられたことによる手口だ。ガソリンは建物内に瞬時にまん延、爆発して火災を引き起こし、それが室内の酸素(O2)と反応して一酸化炭素(CO)を多量に生成させ、呼吸の出来なくなった多くの人の命を奪った。おそらく犯人もこの大惨事までは予想していなかったであろう。結果として「未曽有のアニメスタジオ火災」の悲劇となった。
 ただ、今回事件結果を全く防止できなかったのかというとそうでもないようである。一つはガソリン販売方法の在り方である。犯人は給油所でガソリンを買うとき非常電源用に使うと述べたという。法定携行缶を所持する者に対し、現行法ではガソリン販売を拒絶する途はない。また事実露店営業に限らず農林、漁業用、ビル建築などの用途はクルマへの給油以外にも幅広い。事件後消防庁は業界団体に対し連行管所持者に対する用途聞き取りの徹底を求める通達を出したが、やはり法規制しないとその効果は薄い。今後小口販売は給油所で行うのではなく、灯油のように専門取扱所でのみ証票を提示のうえで行うなど抜本的対策も必要かもしれない。また、このスタジオは1階から3階までらせん階段が設置され、吹き抜け構造になっており、これが火勢回りを早めた一因ではないかとして消防と建築当局が調査している。現行法では幹線道路沿いや密集市街地など「防火地域」又は「準防火地域」において3階建以上に当該らせん階段を設ける場合、「竪穴区画」といって壁や扉等で区画し延焼拡大を阻止することが法定されている。しかし防火地域に立地していないこのスタジオではそのような規制はなく、防煙のための垂れ幕が設置されていたのみという。
 いずれにしても火災は地震と並ぶ防災上の脅威である。今回の事件を極く特異なものとして片付けるのではなく、少しでも類似事案の再発を防ぎ住民の安全を守る対策を打ち出すことが重要である。

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