防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第112号)

山口明の防災評論(第112号)【2019年11月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、防災行政無線の課題と普及<新たな方式と導入>

〈解説〉
 市町村長が発令する避難勧告や避難指示(緊急)などは住民に対する強制力はないものの、住民などは「自分の命は自分で守る」という意識を持ってただちに安全な場所に避難する(避難行動をとる)ことが重要である。したがって市町村は一人一人が適切な避難行動をとることができるように災害時には住民などの主体的な避難行動を促す的確な情報を提供する責務を有している。全国に市町村は1,718あり、全国の世帯数は53,403,000世帯(平成27年)に達する。これら世帯に情報を伝える有力な手段が防災行政無線であるが、大雨などの災害時に「よく聞こえない」、「何を流しているのか分からない」などの不満や苦情がよく聞かれる。これは防災行政無線といえばその主力が同報系と呼ばれるいわゆる野外スピーカーで、その音量は大きいものの、豪雨・豪風時には自然音にかき消され、特に屋内に居る者にとっては殆ど聞き取れないということも往々にしてある。そこで電話受信機のような屋内の戸別受信機の普及が課題となっていたが従来の方式は比較的高価であってなかなか行き渡りにくかった。
 そこで平成27年2月に導入され、同9月に民間標準化された新型方式防災行政無線に期待が集まっている。新たな方式では戸別受信機を含め比較的安価に導入できる。ただ現状ではメーカーごとのフォーマットが異なっており、普及促進のあい路となっている。消防庁では令和元年度中にフォーマットの一本化を図り、防災行政無線相互の接続性確認方法を確立するとしている。最も身近な防災情報を得るための防災行政無線の動向に防災士は今後とも注意を払う必要がある。



2、<台風19号>初の「啓開」代行

〈解説〉
 国土交通省東北地方整備局は「重要物流道路制度」に基づき、台風19号被災の宮城県丸森町の県管理国道で、土砂撤去と通行確保のための「啓開」作業を県に代わって実施した。この制度は2018年3月の道路法改正で創設されたもので、実際の適用事例は初めて。この制度は国土交通省が物流上の重要な輸送路を個別に指定するもの。現在35,000kmがこの重要物流道路とされている。
 今回の啓開代行は丸森町を通る国道349号のうち、台風19号で氾濫した阿武川に沿った区間で、道路脇の斜面崩壊や川の増水による路肩の崩壊などで寸断されていた。「啓開」は本格的な災害復旧事業とは違い、緊急車両などが通れるように土砂などを片付ける程度の作業である。しかし孤立した集落が外部とつながる効果は大きく、応急復旧にとって欠かせない事業である。
 国による復旧工事の代行には2013年制定・施行された「大規模災害復興法」に基づく制度もある。政府は令和元年10月25日の非常災害対策本部会議で、台風19号を同法に基づく「非常災害」に指定した。これにより長野県が適用され、2016年の熊本地震以来2例目となった。



<関連図>

出典:丸森町と国道349号線(丸森町ホームページより引用)


3、<台風15号>加速させるべき無電柱化

〈解説〉
 停電の一因となる電柱の倒壊が最近の台風で相次いでいる。2019年9月に関東地方を直撃した台風15号では千葉県を中心に電柱が次々と倒壊、一時約100万戸が停電した。
 このため電柱を地中に埋める「無電柱化」への関心が高まっている。
 従来型の無電柱化は共同溝方式と呼ばれる。国や自治体が埋設した道路下の共同溝(管路)中に電線を直接埋設する方式である。コストは延長1km当たり平均約3億5000万円と高額であり、この方式で1985年から2017年の約30年以上にわたって無電柱化した道路は約1万kmにとどまる(全国道路法延長の1%未満)。かつてバブル時代といわれてた時期にはNTT株売却益を原資とした無電柱化が日本を代表する街路(新宿通りや内堀通り、堺筋など)で進められたが、そのような特定財源のない今日ではこの方式で無電柱化をドンドン進めるのは困難である。そこで国土交通省は2019年3月に安価に無電柱化できる低コスト法導入を強化した。「低コスト手法」には管路を今までより浅い位置に埋設する方式、管路に代わり小型ボックスを設置する方式などがある。2016年の埋設基準の緩和により導入が可能となった。小型ボックス方式は既に京都市先斗(ぽんと)町などで導入例がある。
 このほか無電柱化事業と完成後10年程度の道路維持管理を一括して民間に任せるPFI方式も導入、2017年度には国土交通省が島根県安来市と松山市で初めて試行した。無電柱化に関する他の事業者としてNTT等通信事業者がいるがこちらは総務省の所管であり、電力を所掌する経済産業省と合わせ関係省庁が一体的に取り組む必要がある。あわせて無電柱化に伴い地上に残置される変圧器が浸水、地震などによって損傷されないよう保全対策も進める必要があり、無電柱化は今後防災・景観両面に寄与する政策として益々重要となってゆく。

<関連図>


出典:東京都 無電柱化推進計画より引用




4、<台風19号>津波堤防の思わぬリスク

〈解説〉
 岩手県山田町では津波対策にと、東日本大震災以降整備された津波堤防が台風19号の襲来による豪雨災害で思わぬ浸水被害を発生させることとなった。山田町の浜地区は東日本大震災で327棟が全壊か大規模半壊、死者・行方不明者は津波により117人にものぼった。その後海側の低地は災害危険区域に指定され、住宅は高台に移転した。市街地の跡地には国の復興交付金を充当して津波防災緑地公園が整備されている(2018年5月施工)。町はこの公園に約85,000㎠の盛土を実施し、海抜16m、延長約400mの堤防を築き、平常時には遊歩道や公園として共用できる緑化堤防として背後にある宅地居住者の利便に供していた。
 しかし、台風19号襲来時この堤防があることにより浸水被害が拡大した。背後の山から流れてきた土砂・立木等が堤防をせき止め、住宅地側で水位が上昇、家屋の2階近くまで泥水が迫る中、当該堤防の一部も決壊した。もちろん町は地形上の特性をみて内水氾濫対策(排水工の設置)も施行していたが、記録的豪雨の中では全く無力であった。
 一つの災害に備えている施設等が逆に他のタイプの災害対策上仇となる例は他にもある。防災士は複合的な災害対応が取られているのか、地域の防災施設の点検を行っていくことも重要であろう。


5、短時間強雨の発生増加<地域温暖化の進行>

〈解説〉
 日本では1時間降水量50㎜以上の短時間強雨の発生回数は増加傾向にあり、2009年~2018年の10年間におけるその発生頻度は過去1976年~1985年に比べ1.4倍に増加した。増加傾向の原因として大気中の水蒸気の増加があり、地球温暖化に伴う気象変動が寄与している可能性があるといわれている。防災士は地域の気象台と連携して各地の降雨動向に一層留意してゆく必要がある。


<関連図>

出典:気象庁 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化より引用




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