防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第114号)

山口明の防災評論(第114号)【2020年2月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、歴史的資料の保存<さらなる取り組みの必要性>

〈解説〉
 災害時には人命救助や被災者の生活再建が優先されなければならないのは当然であるが、そのような混乱の中でも地域の歩みや伝統、さらには、防災対策を伝える歴史的資料の数々を自然災害から守り、後世に伝えてゆくという視点は忘れられてはならない。各地の博物館や図書館に収蔵してある多くの歴史的資料や古文書などを水害などの自然災害から守るために普段から当該施設の防災体制に万全を期した取り組みが求められることは行政に課された一つの大きな使命である。
 ところが、昨年の台風19号のもたらした水害で川崎市においては、多摩川沿いにある「市民ミュージアム」の地下収蔵庫9室すべてが完全浸水し、約26万点もの地域の古文書を中心とした資料が水につかってしまった。この「ミュージアム」は、1988年に開館したが、今世紀に入り市の地域防災計画に示されたハザートマップで浸水規定地域として既に指定されていた。まさに市の地域防災計画にある通りの被害を被ったのだが、この間、収蔵物を安全な場所に移すなどの措置を市は講じてこなかった。
 こうした事例を防ぐために自然発生的に各地に生まれたのが、俗にいう“歴史資料ネットワーク”だ。各地の研究者や学芸員らで組織されたもので、1995年の阪神・淡路大震災で初めて創設されたのが由来とされている。こうした“ネットワーク”は、その後も各地で活動し、2016年の熊本地震では、地元大学が中核となっている“ネットワーク”が、多くの収蔵物を被災地から回収した。昨年の水害においても各地の“ネットワーク”が保全のための呼びかけをしている。
 ただ、これら自主的な“ネットワーク”の活動だけでは歴史的資料を保全し、後世に伝えてゆくための体制としては、組織的、財政的にも様々な課題がある。先に述べたように防災対策としても重要な歴史的資料保全のため、行政やNPO(防災士など)が連携して、維持活動ができるよう、より充実した体制づくりのための取り組み強化が必要であろう。



<関連図>



出典:川崎市市民ミュージアム・アクセス図(同ミュージアムのホームページ)より引用


2、盛土造成地の安全確保<第二段階の地盤調査へ>

〈解説〉
 都市の大半が河川下流域に堆積した沖積平野に位置する日本では、軟弱化地盤への対応が極めて重要であり、通常の土木工事においても構造物をしっかり支えるためには、杭打ちや地盤の改良など土地の性状に応じた適切な基礎工事が、不可欠であることは論を待たない。加えて地震大国でもある日本においては、多発する液状化現象への対策もあわせて必要である。2016年熊本地震では、大規模盛土造成地で大量の土砂流出や液状化による宅地被害が発生、さらに2018年の北海道胆振東部地震では札幌市など道内15カ所で液状化が発生し、造成盛土内部で液状化した土砂が低地に向け大量に流出し、堆積してしまった。2019年の山形県沖地震でもJR鶴岡駅前で駐車場(約3000㎡)から水が噴出し、広範囲なぬかるみが発生している。
 このような状況を踏まえ、国土交通省では、2018年に実施した重要インフラ緊急点検の結果に基づき、2019年度には「大規模盛土造成地マップ」の作成・公表を全国の地表自治体に促している。2019年9月時点でこのマップを公表している自治体の数は、76.2%(該当なし、を含む。)となっている。
 大規模盛土造成地が存在する市区町村に対し、国交省は、“第二段階”としてその安全性を確認するための「造成年代調査」を2020年度末までに実施する予定である(フロー図参照)。しかし、各自治体からは、当該調査の進め方について、特に重点調査対象箇所の絞り込みのための基準作成などを国に要望する動きとなっており、本格的な調査はこれからといったところだ。国では、「大規模盛土造成地防災対策検討会」でこれら課題を検討してゆくとしている。液状化など軟弱地盤災害はどこででも起こる可能性があり、地域の防災士も地元自治体の動きやその成果に十分目配りしてゆく必要があろう。



<関連図>

出典:国土交通省(全国の盛土造成地の安全性把握状況の公表)より引用