防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
〈解説〉
新型コロナウイルス騒ぎで他の防災対策は殆ど霞んでいるが、それでもいつ被害が襲うか分からない災害列島に住む我々としては国土の保全や日頃の防災対策を怠ることができない。政府が防災対策の重要な一躍と位置付ける「国土強靭化」対策の推進もその一つである。国土強靭化計画は基本計画を2018年2月に政府が策定、3年以内に7兆円にのぼる事業規模が決定されてから1年以上が過ぎた。時系列的にいうと2018年度の補正予算から始まっているので、今の基本計画は2020年度に最終年度となる。2019年度の補正と2020年度当初では財政支出として13兆円となる経済対策が決定されている。
このように規模的には順調に進んでいるかのように見えるが、問題は地方自治体側の動きだ。国土強靭化法ではこの法律に基づく地域計画の作成は地方自治体の仕事となっている。47都道府県は既に作成済みだが、市町村の作成率は10%に満たず、現在鋭意作成中としている市町村でも予定を合わせ50%に過ぎない。(図)
国土強靭化に関する政府連絡会議は2019年8月にこの状況を前進させることも目的として、作成された地域計画に基づく実施事業には重点的に補助金や交付金を配分する方針を示している。これによりインセンティブが増大し、市町村においても国土強靭化作成への機運が盛り上がることが期待される。災害対策基本法による「地区計画」などへの作成関与と合わせ、防災士がこの計画分野においても力を発揮してゆくことが期待される。
<関連図>
出典:内閣官房ホームページより
〈解説〉
大阪市は老朽化した水道排水管の更新をPFIで民間に委託するとする計画をまとめ、市議会に提案した。関連条例を2月議会に提出、2022年度の事業開始を目指す。PFIによる水道管の更新は全国初の試みとなる。PFIとは民間資金を活用した社会資本整備の略称。要は、民間資金を活用して公共投資を行うということで、関連する法制度もあるが、日本では余り進んでいない。その理由としては①民間は投下資金が回収できなければ投資できずそのような適切な事業が少ない。②いわゆる“お上意識”の強い日本では本来公共のやるべき仕事を民間に委ねカネもうけの道具にすることへの抵抗が強い。③未曾有の低金利政策の中、公共事業の財政負担が軽減され、いちいち民間に委ねるだけの手続きを踏む必要がない、などが挙げられる。歴史的にも「民活事業」などの名称で同じ試みは繰り返されてきたが、民活事業の代表格である関西空港が昨年の台風で大被害にあい、その際の民間運営会社の対応の稚拙さから、再び民への信頼が揺らいでいるのが現状だ。
そのような中、大阪市が水道管の後延長は5200キロ以上、そのうち大半が法定耐用年数である40年を超えており政令市ではその割合が最も高い。水道管の更新はこのような情勢で火急を要しており、公共よりも自由に動ける民間事業者による更新促進を市は選択した。
計画によると2037年度までの16年間に1800㎞の配水管を更新、民間の水道事業者はその見返りとして市民の払う水道料金収入を受取る。更新後の水道管は市の保有のまま、維持管理は引き続き大阪市(合併後は大阪府)が担う。ここが完全民営型の水道事業とは異なる。
大阪市には過去に失敗例がある。2014年4月市は民営水道会社を設立して、給水までを担う民営化条例を議会に提出したが、水道管は防火に限らず日常生活の端々に及ぶ基幹インフラである。料金の高騰や水道の強化を懸念するか相次ぎ2017年3月にこの案は廃案となった。その後より弾力的な民間参入をも認める水道法が改正・成立(2018年12月)。自治体(大阪市)が水道給水責任を持ったまま運営できることとなった。
ただ、民間の一部参入とはいっても工事費の高騰や工期の遅れなどで事業計画が膨れ上がり、それが料金に跳ね返るなどのことも依然として懸念される。政令市では全国初のケースでもあり、防災士としても同事業の進捗に関心を払いつつ「命の水」を守る努力が必要である。
<関連図>
出典:大阪市の資料をもとに作成