防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第116号)

山口明の防災評論(第116号)【2020年4月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、避難措置の問題点<指示・勧告の区分あり方>

〈解説〉
 2019年の台風に伴う住民避難のあり方と問題点を検証する中央防災会議作業部会は災害対策基本法に基づき、台風などの災害時に発出する避難措置(行政避難)が避難指示(緊急)と避難勧告とに分かれていることについて見直し議論を開始した(2020年2月)。2018年の西日本豪雨をふまえ、政府は切迫度を分かりやすく示す「警戒レベル」を導入、この中で避難勧告と避難指示(緊急)は切迫度が本来異なるにも係らず同時に「レベル4(全員避難)」に区分され、何のために二つの区分があるのか、住民にとって分かりやすい発令区分なのか改めて疑問や戸惑いの声が上がっている。特にこの二つの措置を運用する市町村からは住民に対する避難行動の呼びかけに分かりにくさがあるとの指摘が相次いでいる。
 特に住民サイドで誤解されやすいのは避難勧告が避難指示(緊急)の前段階で発令されるもので、避難指示(緊急)に“切り替え”られない限り自宅等で待機しておけばいいという考え方だ。防災実務上そのような運用(切り替え)をする例もあるが、大半には勧告だけで完結する場合や、いきなり指示(緊急)を発令する場合もあり、災害の態様によって千差万別となっている。中央防災会議では過去にも勧告と指示の一本化を検討した経緯があるが、伊勢湾台風を契機に制定された災害対策基本法の制定から約60年、これら用語が定着しているとみられることから見送られた経緯がある。
 しかし、現在のわが国防災の実態は当時とは大きく変貌し、地球温暖化の影響もあり特に風水害は巨大化、迅速化している。中央防災会議では特に運用主体である市町村の意見をふまえた制度上の整理に取り組む、としており遅くとも年内には結論を出す予定である。防災士にとっては「避難」という極めて重要な課題の見直しに係る中央防災会議の議論であるだけに大いに関心を持っていただくとともに、パブリックコメントを内閣府が求めるときは、積極的に自らの意見を投稿して議論に反映させていく姿勢が求められる。



<関連図>

出典:内閣府大臣官房政府広報室 暮らしに役立つ情報より引用


2、急傾斜地<行政対応の困難性>

〈解説〉
 2020年2月、神奈川県逗子市の丘に建つ分譲マンションの斜面が崩壊し、前面の市道を通行していた18歳の女子高校生崩れてきた土砂に巻き込まれて死亡した。崩壊した土砂の重さは70トン近くに及び、しかも市道に面する急斜面だった。ただし当該崖は民有地(マンションの一部)でマンション管理組合が管理している。斜面は市道から7メートルまで石積み擁壁で補強してある。しかし、その上部8メートルは土砂のまま草木が繁るに任されていた。県は2011年にこの斜面を土砂災害警戒区域に指定し、また、急傾斜地法(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律)の指定も受けていた(急傾斜地崩壊危険区域)。
 ただし、いずれの法律も当該斜面に対して行政に対する措置を促す規定はない。近隣住民から斜面の危険性についてクレームや申出があればともかく、過去そのような例は全くなかった。また急傾斜地法に基づき公費で整備を肩代わりできるのかは自然斜面でだけであって、おおよそ半分の高さまで擁壁(人工物)で保護されている斜面(人工壁)は地権者(マンション管理組合)の責任で管理すべきものと適用される。(同法第12条)
 この斜面崩落事故は晴天のときに発生し、事故前1週間ほどの間降水もなかった。つまり水が原因ではなく、国土交通省の調査によると基盤である凝灰岩が風化し、内部で深さ1メートルも崩れていた。降雨時(あるいはその前後)だけ注意しておけば事故は防げるというものではない。神奈川県に限らずこのような人口斜面は高台ではよく見受けられる。防災士も普通のパトロールや自主防災活動において他山の石となる参考として理解しておく必要がある。



<関連図>

出典:神奈川県ホームページ「急傾斜地崩壊危険区域について」より引用






3、第24回防災まちづくり大賞

〈解説〉
 新型コロナウイルスの感染拡大の影響はあったが、規模を縮小しつつも第24回防災まちづくり大賞表彰式が2020年2月に挙行された。この大賞は「総務大臣賞、消防庁長官賞」及び「日本防火・防災協会長賞」の3区分に分かれ今回は104団体等からの応募に対し19団体等が受賞した。もともと阪神・淡路大震災を契機に平成8年度に創設されたこの賞であるが、年々地域に根差した団体等、多様な主体においての防災上優れた取り組み(特に防災・減災、住宅防災等)を全国に紹介し、災害に強いまちづくりの一層の推進に資することを目的として実施されている。受賞団体と受賞の対象となった取り組み事例は別表のとおり。



<別表>

出典:総務省






4、サクラエビの不漁<南海トラフ地震の前兆?>

〈解説〉
 日本国内では静岡県駿河湾でのみ水揚げされるサクラエビに異変が起きている。2018年春漁でサクラエビの水揚量は例年の半分にも満たなかった。桜えび漁業組合(静岡)ではこのため同年の秋漁の禁漁措置を断行したが、翌年(2019年)の全漁水揚量175トンほどと、2018年を下回り戦後最低を記録してしまった。禁漁の効果は見られなかったことになる。防災学界の一部では駿河湾中の「駿河トラフ」で起きているある種の異常をサクラエビが感知した結果ではないかと憶測を呼んでいる。
 地震について予知はできないとされているが、昔から洋の東西を問わず生物が地震発生前の異常を発見して行動する(鳴く、叫ぶ、逃げるなど)とする“生物(主として動物)予知”が研究され、中国では一部正統な学問分野として認知されている。震源周辺の地面や大気、海洋に人間の五感では見分けられない弱い音波や電気、電磁波などが発生してそれを人間に先立ち動物が感じることができるという説である。最も著名な動物はナマズであり、日本でも地震と関連付けて浮世絵などで描かれているが、一般には“迷信”と片付けられている。しかし視力が極端に弱いナマズは他の生物が発生する極めて弱い電気を感じてエサを捕獲するということは知られている。
 駿河トラフの深い場所に生息するサクラエビも同じような能力を持っているという学説もある。そしてその能力は人間が測定する電位差よりはるかに優れているとされる。現時点では所詮現象の域を出ない話であるが、南海トラフ地震の前兆とならないよう、今年のサクラエビ漁の復活回復に祈るばかりだ。





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