防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第118号)

山口明の防災評論(第118号)【2020年6月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、国土強靭化計画、見直し進む都道府県、遅れる市町村

〈解説〉
 国土強靭化基本法は議員立法により、2013(平成25)年12月に成立し、同月11日公布・施行された。
 この法律は東日本大震災を契機に、「長期間にわたって持続可能な国家機能・日本社会の構築を図る」ことを目的とし、「大規模自然災害等に備えるには、事前防災・減災と迅速な復旧・復興に資する施策の総合的、計画的な実施が重要であり、国際競争力向上に資する」ことを理念としている。
 基本方針は次の4項目があげられている。
1 大規模自然災害等に際して人命の保護が最大限図られる
2 国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持される
3 国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化
4 迅速な復旧復興
   ※この他、ハード・ソフト連携した推進体制の整備、施策の重点化 等
(以上、総務省ホームページより要約)

 この法律に基づいて国は「国土強靭化基本計画」を策定し、都道府県・市町村は法に基づいて「国土強靭化地域計画」を策定することとなっている。
 国は2018年度に基本計画を改定し、昨年6月には「国土強靭化年次計画2019」を作成。2020年度までに防災のための重要インフラ等の機能維持、国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持のために7兆円に及ぶ緊急対策を行うこととしている。都道府県においても地域計画の策定は終わっており、日経XTECH(2020.6.8)によれば国土強靭化年次計画2019を踏まえた災害対策の見直しについては約8割が積極的な姿勢を示しているという。
 参照:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00095/052900002/
 ところが、市町村で地域計画策定には課題があり、令和元年9月現在、計画を策定したところは115市区町村にとどまっている。市区町村における防災人材、マンパワーの不足はかねてから指摘されているところだが、地域計画の策定が進展することを期待したい。
 また、防災士は自治体との連携を進め、計画未整備の自治体には計画策定を促すこととしたい。とくに防災士資格を有する地方議員に働きかけることは計画策定促進に効果が期待されるのではないだろうか。



<関連図>

出典:総務省資料より引用


2、豪雨時のダム放流に新指針

〈解説〉
 一昨年の西日本豪雨、昨年の台風19号に際してダムの貯水量が限界に近付いたために流入量とほぼ同規模の貯水を放流する緊急放流によって下流域に被害が生じたという指摘がなされた。
 これを受けて国土交通省では今年4月「事前放流ガイドライン」を公表し、事前放流の基準やその後の対応について方針を示した。
 ガイドラインでは事前放流について次のように記している。
 事前放流は、治水の計画規模や河川(河道)・ダム等の施設能力を上回る洪水※の発生時におけるダム下流河川の沿川における洪水被害の防止・軽減を目的とする。
 ※洪水は、一般に、降雨により河川の水量が平常よりも増加すること、また、河川から氾濫することであるが、本ガイドラインでは、河川の水量が平常よりも増加することをいう。
そして事前放流を実施する判断については次のように示す。
 事前放流の実施を判断する条件は、次のとおりとすることを原則とする。 気象庁から配信される降雨予測に基づくダムごとの上流域の予測降雨量が、ダムごとに設定された基準降雨量以上であるとき。 基準降雨量は、ダム下流の河川で洪水による氾濫等の被害を生じさせるおそれのある規模の降雨の継続時間を考慮したダム上流域の流域平均の雨量とする。

なお、事前放流した後、降雨量が予測よりも少なかった場合には、水不足が生じる可能性が生じる。そのため、ガイドラインでは「必要な水量が確保できず、利水者に特別の負担が生じた場合にあっては以下の損失の補填制度を充てることができるものとする」として、発電、水道、工業用水、かんがいの部門について、利水事業者の申し出に基づき、国土交通省地方整備局等と利水事業者が協議の上、「必要な費用を堰堤維持費又は水資源開発事業交付金により負担する」としている。

以下、詳しくは省略するが、こうした基準を明確にすることは豪雨等の異常事態においてダム管理を担う職員等、流域に係る自治体、住民にとって一歩前進と言えるだろう。
 ガイドラインでは「事前放流実施にあたっての留意事項」も示している。河川管理者、ダム管理者、関係利水者及び関係地方公共団体の間で、事前放流を実施する態勢に入る場合には、下流の河川水位や避難勧告、避難指示等の発令状況等に関して情報共有することも記している。
 居住地の河川上流にダムが存在する地域では、国土交通省、地方自治体、住民の間で事前放流について認識を共有し、被害を防止することが望まれる。 とくに防災士は、行政と住民をつなぐ役割が期待されるところであり、事前放流について適切な情報を住民に啓発していく必要がある。

ガイドラインは以下を参照。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/pdf/jizenhouryu_guideline2.pdf




3、エアコン火災に注意

〈解説〉
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE))が6月25日発表したところによれば、エアコンの事故は2015年度から2019年度の5年間に合計263件発生し、うち火災が244件、死亡事故が6件(7名)になっているという。とくに今後心配されるのが、新型コロナウイルス感染症を意識して空気を清浄に保つために、自分でエアコンを洗浄しようとして事故につながることである。洗浄液や消毒用アルコール、次亜塩素酸ナトリウムなどを使った内部の電気部品の清掃は火災の原因になることを知る必要がある。
 神戸市消防局は次のように呼びかけている。

 洗浄には高度な知識と経験が必要
 一般的なエアコン洗浄は、洗浄機や洗浄スプレーで洗浄することが多く、洗浄液や汚れが電気部品に飛び散らないよう内部に養生する必要があります。
 エアコンは、メーカーごと機種ごとによって内部構造も異なるため、洗浄知識だけでなく、エアコン自体の専門性も必要となり、適切な洗浄方法が要求されてきます。
 また、電気部品に洗浄液等がかかったからといってすぐに発火事故に至るわけではなく、数週間から1年程度かけて徐々に浸食され、異常や故障に至り、最悪の場合に発火・発煙事故につながっていきます。

 エアコンの洗浄は、製品・メーカーを確認し、専門業者に依頼すべきであり、防災士は周囲の人々に注意を呼びかけたい。





4、通天閣、免震改修の効果実証

〈解説〉
 大阪のシンボルとも言える通天閣は1956年に竣工したが、2015年に免震改修が行われた。2018年に大阪府北部地震(M6.1 最大震度6弱)が発生したが、この時通天閣は耐震改修の効果で、最大の揺れが5分の1以下に抑えられていたことが、大阪大学・宮本裕司教授(地震工学)らの研究で判明した。
通天閣は8階の黄金展望台が高さ87.5m、展望パラダイスと呼ばれる特別展望台等は94.5mある。もしも2015年までに耐震改修を実施していなかったならば大阪北部地震での揺れははるかに大きく、被害も出たものと推察される。
入場者の多い建築物は耐震改修が必須であることが改めて認識されたところである。



<関連図>

ライトアップされた通天閣(写真:PAKUTASO)






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