防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
〈解説〉
災害対策基本法は伊勢湾台風(1959年)において統一的な防災体制、災害対策を講じることができなかった反省から1961年に制定され、その第60条において市町村長の避難の指示等の規程が置かれている。
この条項ができる前は水防法、警察官職務執行法等個々の行政法規においてバラバラに、かつ、限定的にしか避難の指示措置ができなかったことに鑑み、どのような態様の災害に対しても、防災に第一次的な責任を持つ市町村長に避難指示等の権限を与えたのである。
その第一項において「避難のための立退の勧告」(避難勧告)と「避難のための立退の指示」(避難指示<緊急>)の二段階の権限を付与している。避難指示<緊急>は「急を要すると認める場合」に限定的に発令されるものとして、一般的な災害拡大防止の観点からは避難勧告が原則的な発令とされてきた。
この制度は今日まで不変であったが、一方最近の豪雨災害の激甚化に伴い、住民に危機の警戒レベルをより分かりやすく知らせるために5段階警戒レベルが導入された。避難勧告と避難指示(緊急)とはこの区分において共に「レベル4」とされ、せっかく分かりやすく分類したはずの予警報や避難措置であったにも係わらずその狙いにそぐわない状態となっていた。このため60年ぶりに両発令を一本化、今のところ避難指示に統一するとしている。
国は2019年の台風19号の際、人的被害のあった住民約3,000人を対象にこの二つの発令の違いを理解しているかどうか調査したが、両方正しく把握・理解していた者は17%ほどに止まり、二つの発令を区分している意義が国民の間に殆ど浸透していない実態が明らかになった。よく聞く誤解は二つの区分を設けているのだから法的効力に差があると思っている場合で、勧告には強制力はないが、指示には強制力がある(直接強制の対象になる)というものである。またこれに関連するが避難を開始すべきタイミングは本来勧告の段階で生じるにも係らず、指示に「切り替わって」ようやく生じるという誤った思い込みをしている人も多い。
つまりはキメ細かい行政作用を確認する目的で創設された「避難勧告」と「避難指示(緊急)」が混同誤解され、かえって住民の適正な避難行動を阻害するおそれがあるということである。本年の7月災害にみられるように災害が地域を襲うスピード(切迫度)はますます早まっている。
時宜にかなった法改正(21年度通常国会予定)であるが、避難指示に一本化する場合、更なる混乱と行動の遅れを招かないよう十分な周知期間の設定を含め実効ある応急対策となるような配慮が政府、自治体に求められる。
<関連図>
出典:内閣府 防災情報のページ
〈解説〉
本年の骨太の方針は、7月17日に閣議決定されたが、とりまとめに入った7月に熊本県を中心とした令和2年7月豪雨がまたも列島を襲い多数の犠牲者が出た。これを受けて、頻発する自然災害への備えを目的とする国土強靭化の取り組みを急遽追記強化されたうえ、骨太の方針は発表された。「国民の命と暮らしを守ることは国の重大な責務」と明記されているが、この趣旨は新型コロナウイルス災害からの防疫のみならず、水害・地震・火山など自然災害への防災を含めて国政の重要課題であるということを確認することにある。しかし「新型コロナウイルス感染症下での危機克服と新しい未来(骨太の方針第1章)一色であった原案にあわてて色彩りを与えられた防災・国土強靭化という側面が強く、コロナ禍があろうがなかろうが、一貫して防災の強力推進に取り組むという姿勢が元々無かったことは寂しい現実であると言わざるを得ない。
骨太の方針で具体的に謳われている主な防災上の項目は次の通りである。
(1)2018年の西日本豪雨を契機にスタートした国土強靭化緊急対策(総事業7兆円強)は2020年に期限を迎えるが、これを期限をもって収束させるのではなく、今後も必要かつ十分な予算を確保する。
(2)ダム・堤防などハード面の整備だけでなく、国、地方自治体が一体となって浸水リスク情報の充実強化などのためのデジタル化・スマート化等ソフト対策に取り組む。
(3)水害対策において、高齢者、傷病者などの避難に特別に配慮しなければならない者への必要な対応、予報制度の向上のため気象情報の高度化を図る。
(4)新型コロナウイルス感染症の流行を阻止するためにも避難所の環境改善を図る。
(5)多目的ダム・治水ダム以外の利水専用ダム(農業用ダムや発電専用ダム)についても非常時には治水への活用を推進する。
(6)この他、森林整備の必要性(治山対策を含む。)、老朽インフラの更新見直し促進、燃料供給拠点の機能強化などに取り組む。
骨太の方針は来年度予算へ重点的取り組み事項を絞り込むために作成されてきた。来年度は引き続きコロナ禍の動向が見渡せない状況下、予算編成作成は不透明感が強まるが、その中でも防災関連事業はしっかりと計上してゆく姿勢を骨太の方針は一応示したものと評価できる。
〈解説〉
大阪ベイエリア(湾岸地域)で、大阪府や関係市町村、企業など官民が広域連携し、大型台風が襲来する事前に取るべき行動を時系列で示すタイムライン(事前防災行動指針)が初めて策定された。また大阪府は同時に台風襲来による高潮の浸水想定区域を細かく表わすハザードマップもあわせて公表した。大阪湾では2018年9月の台風21号被害で、関西国際空港(関空)が高潮により浸水し、電源が消失し内外の旅客が多数空港島内に取り残された。またタンカーが連絡橋に衝突座礁して島外との交通網が遮断され最大8,000人以上が一時孤立した。
このような惨事を二度と繰り返さないよう、また、2025年万博を控えコロナ後の内外観光客に心配を与えないよう、このタイムラインの策定が急がれた。高潮は台風襲来に伴い低気圧により海面が上昇する現象で単なる高波にはない甚大な被害を及ぼす。大阪湾では四国方面から襲来する大型台風に何回も苦しめられているが、今回のタイムラインは1934年に来襲した「室戸台風」(死者3,000人強)級の再来を想定したものとなっている。広域タイムラインで関空(関西エアポート株式会社)、JR西日本、関西電力、NTT西日本などが大阪府及び管下地方自治体とタッグを組んで同じタイミングで行動を起こすことで、関係者への情報提供もスムーズに運び、避難の遅れなどの被害を最小限に防げるものと期待される。
高潮対策として大阪湾や東京湾では防波堤の嵩上げ、水門の増設など幾多のハード対策を採ってきており、その結果今では“台風が来たら浸水”という事態は免れるに至っている。しかし大阪府が今回公表した浸水ハザードマップでは大阪府全体の10%強が浸水するおそれがあることが分かり、依然として大型台風による高潮被害の脅威は去っていない。
浸水域21,000haというマップの想定は国が示す南海トラフ地震による津波被害想定の倍に達している。ハード対策だけでは究極の巨大災害への万全の備えはできない。さらに官民一体となってより具体的な避難計画を詰めてゆくなど今後継続的努力が求められる。
<関連図>
出典:大阪湾沿岸(泉州)高潮広域タイムライン(案)より
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