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防災評論(第126号)

山口明の防災評論(第126号)【2021年2月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、地球温暖化と日常生活~どう実感できるか?~

〈解説〉
 二酸化炭素(CO2)やメタンなどの気体が大気中に増加すると気温が上昇する現象が発生することは中学生レベルの知識である。これらの気体は熱エネルギーを吸収し、封じ込めてしまうので、熱が宇宙に放出しにくくなり、気温が上昇するのである。これを地球温暖化と呼ぶことは誰でも知っているし、気温上昇により南極の氷などが溶出して海水面を上昇させ、陸地が水没する危険性が増大することは直観的に理解できる。しかしその先、地球温暖化が原因となって異常気象が発生しやすくなって災害発生の危険性がこれまで以上に高まることについて、一般の人が理解し、日常生活にどう備えるかを説明し、理解してゆくことは意外と難しい。中学生レベルから一気に大学院修士課程レベルへとその難易度は上がってしまうのだ。
 地球温暖化をくい止めるため2015年「パリ協定」では産業革命(英、18世紀)以前からの気温上昇を1.5℃~2℃に抑える目標を打ち出して各国が対策を進めようとしている。日本も新政権になってからCO2総排出量の抑制目標を強化、「2050年に実質ゼロ」として“勇断”と評価されたが、一般人にはスゴイことなのだとメディアが騒ぐほどには心に響かないのが実情であろう。パリ協定による気温上昇抑制目標にしても、毎日の気温寒暖差が10度以上にもなる日もある現実を前にすると一体どういうスケールなのかという実感が伴わないのだ。したがって前の米政権のように、パリ協定の理論的裏付けとなっている国連の「気象変動の政府間パネル(IPCC)」の報告書はインチキでデッチ上げであり、経済成長を故意に妨害しようとする陰謀であるとして協定から離脱するという挙に出た国もあった。新政権になって米国は早々とパリ協定復帰を決定したが、地球温暖化とそれに伴う気象変動について世界の人々が身近に実感できる数値を開発することは急務ではないだろうか。  温暖化の影響かと思われるが、2020年は北半球でまたも平均気温が最高を更新、2019年から2年連続して「最も暑い夏」を記録したと世界気象機関(WMO)が調査発表した。北半球は南半球に比べ海洋面積が小さく、温暖化ガスによる気温上昇の影響を強く受ける。(図参照)
米国をはじめ日本でも林野火災の深刻さは増しており、9月に日本の九州等を襲った台風9・10号の勢力が強まったのも北太平洋の海水温が高かったことによるとされる。次元は違うが、新型コロナウイルス感染拡大についても連日分かりやすい数値が発表され、それが緊急事態宣言など具体的な行動に結びついている。日本をはじめ各国の政府や研究機関は、地球温暖化の進行により取り返しの付かない事態に陥る前に誰でもがすぐ理解できる警告指標の開発と共通化に取り組むべきであろう。


<関連図>




出典:全国地球温暖防止活動推進センターホームページより

2、新しいタイプの土砂災害-「土砂・洪水氾濫」-

〈解説〉
 防災士教本でも「土砂災害」といえば、「土石流」、「崖崩れ」そして「地滑り」が基本的な類型として説明される。しかし最近の同時多発的かつ集中的・大規模な豪雨により頻発する新たな土砂災害の類型が注目されている。
 それが第四の類型「土砂・洪水氾濫」である。土砂・洪水氾濫とは主に豪雨によって複数の発生した土石流・崖崩れ等の局所土砂災害による土砂等が増水した河川(本川)に流入し、下流域に運ばれることにより大きく堆積し、その結果本川から土砂や泥水が氾濫する現象といえる。(国土交通省)
この「土砂・洪水氾濫」は従来からの土石流と比較して図のような一般的な差異が認められる。近年では1で述べた気象変動の影響もあり、毎年のように大規模な土砂・洪水氾濫が発生、2017年7月の九州北部豪雨(福岡県朝倉市など)、2016年7月の台風10号では北海道(清水町など)、2018年西日本豪雨(広島県坂町など)、2019年東日本豪雨(宮城県丸森町など)等、それぞれ大きな被害を受けた。さらに土砂・洪水氾濫の大きな問題として堆積土砂が大規模となって河川に残り続けるため、洪水後の復旧・復興に深刻な阻害要因となって、二次被害の原因にもなる点があげられる。2020年7月豪雨で襲われた球磨川、その被災の中心となった球磨村川内川沿いでは、このパターンが発現した。最初の氾濫後一旦市街地の土砂を撤去したにも係らず、その二週間後再び豪雨があり、本川中に残っていた土砂が再度氾濫して洪水を引き起こされる惨事となった。
 土石流を中心とした土石災害対策は着実に進められており、最近一般的には砂防ダム整備、森林土壌の涵養等により突発・小規模な土砂流出は抑制されてきている。しかしその想定を超える豪雨により同時多発的な斜面崩壊が誘発され、大量の土砂等が流出、大規模な土砂・洪水氾濫が発生しやすくなっている。防災士としては土砂災害防止法の地域への適用状況に加え、河川形状や過去の被災例からみた「土砂・洪水災害」への警戒も怠らないよう目配りが必要であろう。

図 「土砂・洪水氾濫」と「土石流」の差異



[防災短信]

以下は、最近の報道記事の見出し紹介です。