防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第128号)

山口明の防災評論(第128号)【2021年4月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、都会の盲点~CO2消火設備事故~

〈解説〉
 ビルやマンションにある駐車場で二酸化炭素(CO2)消火設備による誤作動が原因の死亡事故などが相次いでいる。直近では4月に新宿区下落合のマンション地下駐車場で壁工事をしていた作業員が何らかの接触で誤って設置されていたCO2消火設備のスイッチを動かし、CO2が駐車場内に充満、逃げ遅れで4人もの作業員の命が奪われた。
 この事故のほか、CO2消火設備に絡む事故例は別表のとおり、毎年数件コンスタントに発生している状況にある。
 これら一連の事故の背景を理解するためには、なぜ駐車場にCO2消火設備が広く普及しているのか、またCO2の科学特性はどういうものかを理解する必要がある。  いうまでもなく火災を起こす燃焼現象には“3要素”がある。その三つの要素が揃わない限り燃焼は起きないし、逆に一つでも欠ければ燃焼をくい止めることができる(消火できる)。三要素とは「熱」、「可燃物」、そして「空気(酸素)」であるが、消火設備はこのいずれかを除くことを目的として設計製造されている。消火器やスプリンクラー設備は熱源を冷却することを狙った消火設備だ。これに対しCO2消火設備を始めとするガス系消火設備は大気中の酸素濃度を下げることにより消火しようとする設備である。
 CO2のような不活性ガスを原料とする消火設備はチッ素(N2)ほか種々あるが安価で設置ボンベ本数が比較的少なくて消火能力があることから無人が原則の駐車場では都会を中心に広く使われている。
 ただ盲点がある。それはCO2の毒性について余り知られていないことだ。地球温暖化で懸念されるCO2排水量の抑制はいわれるが、その毒性について全く記載されていないのが現状である。一酸化炭素(CO)に比べるとはるかに弱いとはいえ炭・酸素化合物のCO2にはそれ自体に毒性がある。CO2消火設備で死に至るのは決して窒息が原因ではなく、この毒性が主因である。今回の下落合の事故でも消防等の発表では空気中のCO2濃度は20%に達していたとされる。CO2は大気中濃度が10%を超えると数分で、30%を超えると数呼吸しただけで致死量となる。このためCO2消火設備がスイッチオン後数分間はCO2が放出されない仕組みにしているのである。ここが無毒性のN2とは違うCO2の恐ろしさである。大気中に常時存在するCO2はもともと“毒”という感覚が一般人には無い。防災士も今回の事故例を参考に都会に幅広く設置されているCO2消火設備の特性と注意点を周知していくことが重要であろう。

<関連図>CO2消火設備に関する最近の事故例












出典:日本防災危機管理協会

2、避難措置60年ぶりの改正~避難勧告の“廃止”~

〈解説〉
災害時に最も大切な住民避難…その基となる行政の避難に関する発令が60年ぶりに改正された。伊勢湾台風を契機として成立した災害対策基本法(災対法)が運用されてから避難措置の仕組みが法改正という形をとって改正されるのは同法制定以来初めてである。具体的には本評論でも既報のとおり現行の避難勧告と避難指示(緊急)の2本立てを改め、避難勧告を廃止、「指示」に一本化する。なお、「指示」に付随していた「(緊急)」という文言も削除し、「避難指示」に名称自体も改める。内閣府では3年ごしで検討してきたこの制度根幹の見直しを今国会に上提、無事可決成立にこぎ付けた。
 制度大改正の背景には2つの要素があると考える。一つは災対法が制度当時はまだ日本が再建途上にあり、行政避難を的確に出すだけの情報収集能力と体制が整っていなかったため、いきなり避難指示を出せるだけの確信性に乏しく、いわば中間的な措置として避難勧告が創設されたが、その後の防災気象情報の精度向上の努力により果断なく行政が指示を出したほうが、人命を守るためにより有効と判断される状況になったことである。2つ目には「勧告」と「指示(緊急)」の違いが住民に分かりにくく、誤解を呼んでいたことがある。特に、「勧告」が「指示(緊急)」の前段階の措置であると思い込まれ(現行法上も決して両者はそのような関係には無い各々独立の構造である。)、「勧告」が「指示(緊急)」に“切り替わる”まではあえて避難を急ぐ必要はないとする行動をとる住民が多かった弊害が生じていたことである。  なお、これに合わせ内閣府では数年前から運用している5段階の警戒レベルも見直す方針である。これまでは「指示(緊急)」と「勧告」とも同じレベル4としてあり、これも誤解と混同を招く一因となっていた。
 改正災対法は来年から施工されることとなる。行政はもとより防災士も今回の改正の内容と趣旨を明確に把握し、適正な運用と住民誘導が行われるよう指導、啓発活動を行っていくことが求められる。


<関連図>警戒レベルの見直し案



出典:内閣府

3、非常持ち出し袋のチェック~“新たな日常”の中での防災の備え

〈解説〉
 2月には再び宮城・福島両県域で震度6強を観測した地震が発生するなど東日本大震災から10年を経過した今、改めて震災をはじめとする防災意識の強化が叫ばれている。更に昨今の国難は新型コロナウイルス(変異株を含む。)への対応(新たな日常)にも即した防災への備えにも留意しなければならなくなった。
 「人と防災未来センター」(神戸市)では、作成した減災チェックリストを基に非常持ち出し品をリストアップしている。一般にいわれている防災袋(非常用持ち出し袋<バッグ>)本体に収納しておくべきものとして、同センターでは表の品目を推奨している。
 これらを「第一次の備え」と位置付けるとともに、同センターでは(表1)の中でも携帯が常時できるものを「第0次の備え」、ライフラインが途絶したりして孤立した場合でも何日間かしのぐための自室、職場での「第二次の備え」も意識しておく必要があるとしている。(「第0次の備え」については(表2)、「第二次の備え」は(表3)参照)。さらに、「“新しい日常”への備え」として避難時の感染症対策が必須となっている。(表4)特に(表4)に掲げた品目は他と異なり“必ず”自分で確保し他と共有しないことが条件となる。コロナ禍がなかなか収束しない中、不幸にも大災害発生の場合避難は益々困難が予想される。防災士は自らはもちろん、近隣の住民の皆さんにもこのリストの存在とその浸透を働きかけていくことが求められる。

(表1)バッグ(非常持出し袋本体)に収納する品目(第一次の備え)

【飲食物】
・1人あたり1.5L程度の飲料水
・チョコやキャンディーなどの携帯食
・乾パンなどの非常食

【装備品】
・ヘルメットや防災頭巾など頭を保護するもの
・作業用手袋
・運動靴
・懐中電灯 (予備の電池・電源も)

【道具類】
・万能ナイフ
・10m程度のロープ

【情報関連】
・携帯ラジオ (予備の電池も)
・連絡メモ
・筆記用具(油性ペン)
・身分証明書のコピー
・10円硬貨を含む現金

【救急用品】
・救急用品セット
・毛抜き
・持病薬や常備薬

【衛生用品】
・マスク
・簡易トイレ
・ティッシュペーパーやトイレットペーパー
・ウェットティッシュ

【防寒具】
・使い捨てカイロ
・サバイバルブランケット

【汎用品】
・タオル
・安全ピン
・ポリ袋
・レジャーシートやブルーシートなどのビニールシート類
・ライター(マッチでも)
・布ガムテープ

【その他生活用品】
・ポンチョや雨合羽などの雨具
・インスタント食品や缶詰などの保存食類
・ふろしき
・予備電池(バッテリー)
・新聞紙や段ボール

(表2)
・ホイッスル
・携帯電話(充電器やバッテリーも)
・大判のハンカチや手ぬぐい
※このほか水筒、メモなども必携が望ましい

(表3)
非常食・飲料水(3日分)のほか
・衣類
・紙製の食器
・ラップやアルミホイル
・カセットコンロ
・石けん
・ろうそく
・地図

(表4)
・アルコール消毒薬や除菌シート
・ペーパータオルや液体せっけん
・体温計
・筆記用具
・ゴミ袋やビニール袋
・上履きやスリッパなど

出典:人と防災未来センター「減災グッズチェックリスト」より作成

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