防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
〈解説〉
2021年12月に施行された改正被災者生活再建支援法(以下「支援法」)。約20年ぶりの支援対象拡充がその目玉だ。阪神・淡路大震災(1995年)を契機に制定されたこの復興立法だが、当初は被災家屋本体は救済の対象とされなかったもののその後本体への直接支援に踏み込み、現在の形となっている。国、地方から家屋被災した世帯に対して直接金銭給付(最大300万円)するという我が国災害補償制度としては画期的な支援法だが、今回改正法施行前はその支援金支給対象は全壊から大規模半壊までが対象で、その他の半壊は対象外とされていた。
今回の改正支援法ではこの「半壊」についても包括的に支援対象としようという方針が一度示されたものの、この支援金のための資金を拠出する国と都道府県の間でその財政負担をめぐる協議が難航、結局半壊を二つに分割し、新たに「中規模半壊」という概念を創設、具体的には損壊程度30%以上40%未満の家屋被災世帯を救援対象とすることとした。したがってそれ以下の損壊率(20%以上30%未満)の世帯は従来どおり「半壊」と区分され、支援法の支援対象から除外されることとされた。(図参照)
<関連図>被災者生活再建支援法の改正(概念)
この改正を受け、昨年7月に被災した7月豪雨の対象エリアである熊本など6県の該当市町村に遡って法改正が適用された。この支援法の遡及適用については問題がある。支援法は阪神・淡路大震災を契機に制定されたと冒頭述べたが、当時は阪神・淡路大震災の被災世帯には遡及適用されなかった。法学者の間では個人への財産損害補償を税(支援金)で遡及して行うとはいかがかという論点である。刑法で罪刑法定主義という原則があるがそれに類した議論といえる。
ともあれ、改正法により新たに追加支援対象となった世帯は1,378世帯(内閣府)で、旧法により「半壊」と認定されていた4,012世帯(同)の約30%に止まる結果となった。「中規模半壊」と認定された世帯には最大100万円が支給されることとなる。
支援法で中規模半壊程度にまで支援拡大されることは、地域の復興や個別世帯の生活再建をあと押しするプラス面は当然評価できるが、一方で検討しなければならない課題も多い。救済範囲の拡大に伴い一般の災害、例えば一般の火災や小規模な水害、地震との均衡をどう図るか、さらにはその認定事務が自治体に重くのしかかるという行政効率の問題もある。防災士への相談としてもこの種の事後救済の問合せが多いのが実情である。復興支援全体の制度設計を見直すべき時期に来ているのではないだろうか。
〈解説〉
全国の地域防災力を支える消防団、江戸時代の「いろは48組」(町火消)がルーツともいわれる日本独得の防災組織であるが、この伝統・歴史の古さ故の“因習”に絡む事件が最近相次いで岩手県で発覚し問題となっている。
ある市では出初式の際、消防団員が管轄の集落を火災予防点検と称して一戸一戸立ち寄り、その際火災予防に努めていると認められる家には火の用心と印したシールを貼付、その際住民から“祝儀”を受け取っていた。集めた祝儀は消防団員の寄り合いの際の飲食代などに充てていたとされる。この問題について数千円の祝儀を払ったある住民は、取材に対し「祝儀を渡さないと火事になったとき誰も来てくれないのではと不安になり払った。」と心境を語り、一方祝儀を受け取っていたが疑問に感じたある消防団員は「消防団の服(ハッピの事か?)を着て寄付を集めるのは違法ではないか」と陳述、この元団員は退団を決意した。
また別の町では新築した住宅があった場合、消防団が“浄め事”として「水あげ」というイベントを取り行い、住宅の庭から上空に向かって縁起良く放水していた。この際当該住宅の住民は団に対する謝礼として金品を受領していた。
いずれの事件においても両市町を管轄する常備消防は、「消防団は非常勤特別職公務員であり、地域住民の誤解を招かないよう金品を受け取ってはならない」と通知、消防団のこれら行為は厳につつしむべきものとしている。
いずれの行為も消防組織法や地方公務員法に照らすと不適切な行為であることは明らかであり、消防本部の裁定は正しい。しかし冒頭述べたように消防団は現行法制が制定されるはるか以前から地域の消防・防災組織として活躍してきたという経緯をみるとき、また、近年消防団員数の減少に歯止めがかからない現実をみるとき、今の法律や制度そのままに団を維持存続そして発展させることが可能なのか、抜本的に考え直す必要もあるのではないだろうか。そもそも団員を非常勤特別職公務員として位置付けておくことの是非も合わせ検討されなければならないだろう。一般に消防団員になろうとする人は、地域の団体や集落の現状に鑑み、義侠心から参加する場合が殆どで、選抜試験で給与を得ることを目的とした一般公務員とは大きく実態が異なる。またハッキリ言ってその処遇も“公務員”とは言い難い劣弱な状況にある。今回の二つの事件についても“祝儀”などで得た金品は数千円から数万円、清酒2本程度であったと報道されている。団員を選挙運動に巻き込むなどの行為を禁じるのは当然としても、民営化されたいろいろな先例も参考にしたより柔軟な体制づくりへと転換が急務である。
<関連図>全国消防団員の推移
出典:総務省消防庁
〈解説〉
5月20日、折からの梅雨前線の停滞により列島が広く豪雨に見舞われた。梅雨前線絡みの豪雨災害で最も警戒すべき九州でも熊本県を中心に大雨が降った。同日、同県では一時間当たり雨量が50ミリメートルを超えた地域もあり、気象庁と県から土砂災害警戒情報が発令(レベル4に相当)されたこともあり、同県芦北町では約7,000世帯に、津奈木町でも約2,000世帯に避難指示を発令した。最大規模の避難指示を出したのは水俣市で、市全域の約11,500世帯(人口23,500人)にのぼる。また同市では市内8ヵ所に避難所を開設し警戒を呼びかけた。しかし実際に避難所に訪れたのは最大8世帯の11人。幸い、市内に大きな被害はなく、市によると過去の豪雨災害のときと大差はなかった。
5月20日は、今国会で成立した改正災害対策基本法が施行されたまさに初日だった。従来なら避難勧告を出すレベルの災害であったのかも知れない。しかし、レベル4の警戒レベルにおいて市町村が出す避難情報は避難指示に一本化されたので、どの市町村も“指示”で統一したのである。
今後、今回の避難指示一本化に伴う発令とその効果についてはできる限りの調査・分析を行い今後来たるべき大災害の際の発令行動に備えるべきであろう。報道では「一本化されて分かりやすくなった」と語る人があった一方で、「これまでも避難勧告と避難指示の違いが分かりずらかった。今回指示が出ても危機感が伝わりにくい」と感想を述べる人もいた。また市では避難措置が一本化されたことを周知する間がなく、一般の住民が発令の意味を理解することができなかったとも分析している。一つの課題は見直し前と後とで同じ「避難指示」という用語を踏襲したことであろう。これでは以前の「指示」と新しい「指示」ではどう違うのか切迫性も含め実感しにくい。防災士にとっても最も大切な避難に係る事柄である。行政や専門家だけが納得しても一般住民がチンプンカンプンでは防災上の意味は薄い。今回幸い死傷者が出なかったがそれが指示への一本化の成果なのか、逆に単なる幸運だったのか、より住民にとって分かり易い検討と評価が必要であろう。
<関連図>市町村の発令する避難情報(改正部分)
以下は、最近の報道記事の見出し紹介です。