防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
〈解説〉
不動産、特に土地を購入したりするときは最寄り駅からの距離やスーパー、コンビニなど生活利便施設の存在、学校など教育環境に目が行きがちになる。しかしこれらの要素が満足すべき水準にある不動産であっても、地震・風水害などに襲われ大きな被害を出してしまえば元も子もない。不動産の購入は一般人にとっては一生モノの買物であるので、その取引に当たっては防災的観点をもっと重視する必要がある。
宅地建物取引業法(宅建法)は不動産取引(賃貸借契約を含む。)に絡む消費者保護を目的として宅建業者(不動産業者)に対し「重要事項」の説明を行うことを義務付けている。
これは単に宅建業者の口頭による説明だけではなく、その内容を書面にして交付しなければならない(重要事項の説明)である。この重要事項説明項目は日本が大災害に遭遇するたびに見直しが行われてきた。例えば東日本大震災の教訓を受け、重要事項として「津波災害警戒区域」の説明項目が新設された。
2020年(令和2年)8月からは、この重要事項説明の項目に水防法の規定に基づき作成される「水害ハザードマップにおける対象物件の所在地説明」が追加された。具体的には宅建業者に対し以下の4点が求められる。
(1) 水害(洪水、雨水出水、高潮を指す)のハザードマップ(市町村が作成したもの)を提示し、取引物件の概ねの位置を示すこと
(2) ハザードマップは入手可能な最新のものを使用すること
(3) ハザードマップ上に記載された避難所についてその位置を示すこと(努力義務)
(4) 取引物件が浸水想定区域に該当しないことだけで、その物件に水害リスクは無いと誤って認識しないよう配慮すること。
この規定が発動してから1年近くが経過するが、宅建業者の中には、ハザードマップの入手が困難、ハザードマップ自体の読み取りや解釈が難しい、などとして余り正確に説明していない例や、場合によっては説明しない、説明したこととするといった違法例も見受けられる。また買主も土地の価値が下がるのでは、とか将来安く買いたたかれるという不安から積極的に宅建業者の説明に耳を傾けないという傾向もみられる。
今後この種防災情報と不動産取引上の説明は益々重要性を増す。宅建業界全体の防災意識を高めるためにも防災士の取得を促進してゆく方途も検討されるべきであろう。
(図)ハザードマップポータルサイト
出典:国土交通省
〈解説〉
長崎県島原半島の雲仙普賢岳が大噴火を起こし地域に大きな被害をもたらしてから30年目に今年は当たる。雲仙は温泉も湧出する景勝の地であり、普段から火山活動が活発だったと思われがちであるが、実はこのような大災害を伴う噴火があったのは198年ぶりであった。桜島(鹿児島県)や有珠山(北海道)のようにある程度定期的に爆発を繰り返す他の大型火山と異なり、雲仙普賢岳は約200年ぶりの噴火ということで過去の災害事例に乏しく、したがってその被害予測が非常につきにくかった噴火となった。
特に大火砕流の連続発生は当時の火山・防災研究者の誰もが予想できなかった。この噴火では終息宣言が出るまで約6年もの歳月を要し(1996年)、火砕流は実に900回以上観測された。1991年6月の大火砕流では43人もの命が一挙に失われた。火砕流は溶岩流と混同され、ドロドロとした噴出マグマが山体を下降してくるものと思う人もいるが、それとは全く違う。溶岩流はその速度はせいぜい2~30KM程度であるが、火砕流の速度は軽く100KMを超えることはザラで、したがって山腹に火砕流の発現を目視した者はその瞬間生きて帰れないことを覚悟しなければならないほど恐ろしい現象である。その実体はマグマ(液個体)ではなく超高温の粉体(溶岩片と火山ガスの混合体)であり、本来的に気体といえる。火砕流の通り道にあたった地点ではすべての有体物は焼き払われ、生存はありえない。この噴火では市街地を含む広範なエリアに災害対策基本法に基づく警戒区域が設定され火砕流被害からの避難が徹底されたが、その実態を熟知できない一部報道関係者が火砕流に巻き込まれ即死している。
日本では最近でも2014年に登山客ら63人の犠牲者(行方不明者を含む。)を出した御嶽山の噴火災害があった。火山災害の物理的規模としては雲仙よりはるかに小さかったが、気象庁が警戒レベルを最低の1から引上げられないまま噴火が起きてしまった。これらのことから火山大国でありながら日本では火山行政や研究が外国に比べて依然立ち遅れているのではとの指摘がある。文部科学省によると火山に密着して観測する火山噴火予測研究者は2019年で全国に100人程度とされる。また(表)にみられるように火山行政全体を統括する司令塔もない。地震や風水害など多くの災害に見舞われる日本列島だが、火山に対してももっと公的関与を拡げてゆく必要はあろう。
(表)主な火山国と公的中核機関
出典:内閣府
〈解説〉
京都市のアニメーションスタディオ(京アニ)でガソリンを使った放火殺人事件が発生して早くも2年以上が経過した。犯人はすぐ拘束されたが全身火傷の大怪我を負い、懸命の治療が功奏して存命を果たした。しかし未だに裁判は開けずなぜこのような卑劣な犯行に及んだのか、なお謎は解明されないままになっている。そんな折「第2の京アニ放火」とも称されるガソリン放火事件が本年3月に発生している。それは徳島市にある4階建の雑居ビルで、事件発生後逃亡していた犯人は10日後に逮捕、男(38)は「京アニ事件をまねてやった」と自供した。当時ビル内には約70人の客がいたが、全員迅速に避難し、けが人も居なかった。京アニ事件とこの放火事件との間で防災上大きな差が出た。京アニ事件では1階にまかれた約10リットルのガソリンに放火、またたく間に3階まで燃え広がり、36人もの人が犠牲になった。徳島でも3階エレベーターホールに約15リットルの大量ガソリンがまかれて火が放たれた。この両者の被害差はどこから生じたのか?
答えは両者の建物防火構造の違いにある。徳島のビルは飲食を伴う雑居ビルで不特定多数の者が常時出入りする。これに対し京アニは建物内に多数のアニメーションスタッフが常時勤務していたが、基本的には不特定多数の者の常時出入りを前提としない事務所であった。ここに建築基準法の法令適用について差が生じていたのである。前者にはエレベーターホール、らせん階段など吹抜構造となる部分には法令上「堅穴区画」の設置が義務付けられていたが、後者はその適用がなかった。つまり京アニは「堅穴区画」の構造を取る必要がなかったのである。京アニには問題の“らせん階段”等「堅穴」は存在していたが、「堅穴区画」として防火構造が採られていなかった。その結果吹き抜けのらせん階段が一階の煙と炎を一気に三階まで運んだうえ、他の階段も屋内にあって避難路として機能せず、多くの従業員は施錠されていた屋上への脱出口も使えず無念の死を遂げた。
堅穴区画は床や壁等が準耐火構造以上のものとしなければならないほか、開口部には煙を遮断する防火扉を設置しなければならないとされ徳島の雑居ビルでは法規どおりの構造が採られていた。また、4階に集中していた客は屋外の非常階段を使って迅速に避難できた。
京アニの建物履歴は詳しく調べる必要があろうが、大勢のスタッフを抱え世界に冠たるアニメを制作する現場としては法令上の義務はともかく、いかなる災害があっても適切に対応できる防火防災環境を整えておくべきであったと悔まれる。
※京都アニメーション火災に関する参考情報
http://www2.city.kyoto.lg.jp/shikai/img/iinkai/soumushoubou/R01/data/011223soumusyoubou1.pdf
以下は、最近の報道記事の見出し紹介です。