防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
〈解説〉
本年4月八王子市(東京都)のアパートで、屋外に設置されていた階段の一部が崩落してそのアパートに居住していた女性が死亡した事故。原因は屋外木造階段の腐食が原因だった。国土交通省は全国の老朽化した共同住宅や事業所に多数の木造家屋に屋外階段が設置されていると見て、このような事故の再発を防ぐため腐食防止のための指針を示した。この事故では階段と踊り場の接続部に致命的な腐食があった。もともと屋外木造階段を含む外部階段については建築基準法で腐食を防ぐための措置を採らなければならないと規定してはいたが、その規定の内容が抽象的であって、どのような措置を採れば有効であるのか専門家の間でも様々な意見があった。
国土交通省が示した方針は、具体的には屋外木造階段の木材が腐食しないよう有効な薬剤を散布すること、さらに危険性の高い部位については防水シートなどを敷いて処理すべきこととしている。また屋外木造階段の所有者や管理者が階段の状況や養生措置について定期的に報告を行うための調査について、木材に腐食や損傷がないか目視点検に加え、実際に触診すること等を調査項目に加えること等を詳細に定めた指針を策定し、2022年1月ごろに示すとともに関係省令を改正するとしている。
今回の死亡事故にみられるように老朽化したり、点検が不十分であることによる危険構築物は身の回りで散在している。普段何気なく見かけるこれらの構築物であるが、防災士としては単に見過すだけでなく、防災・安全の目をもって観察する態度が大切である。今回のような老朽木造階段の腐食は別に国土交通省が省令等を改正しなくとも、ちょっと気を付けておればその危険を察知できる構築物である。大災害への備えも元をたどれば日常使用している施設や設備への不断の安全対策が活きていればこそという観点をもっと重要視する貴重な教訓となった事故であった。
〈解説〉
CO2(二酸化炭素)の排出実質ゼロが世界的に叫ばれる中、自動車業界ではカーボンニュートラルに向けたエネルギー対策の影響をモロに受け、ガソリン車、ディーゼル車など化石燃料にその動力源を頼ってきたビジネスモデルは大転換を迫られている。世界中でEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)など脱炭酸系カーの開発競争が過熱している。
ただでさえ過疎地の人口減少や高齢化でガソリン需要が減っているうえにこの脱炭素の動きが拍車をかけ、ガソリンスタンドの経営難や閉鎖が相次いでいる。さらに昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大による旅行や移動自粛が長い間続き、益々ガソリンスタンドの存続を困難なものにしている。
しかしガソリン等の石油燃料は依然我々の日常生活を支える大動脈であり、これが供給できなくなってしまうことは過疎地域の生活環境の維持や防災上の観点から大きなリスクとなる。そこで消防庁では令和元年度~2年度にわたり、燃料供給インフラの維持に向けた安全対策のあり方に関する検討会を開催して、今後ガソリンスタンドを適正に維持存続してゆくうえでの課題抽出に取り組んできた。消防庁がこの問題に取り組む背景として、一般には余り知られていないがスタンドそのものの設置許認可権が市町村長(消防)にあることがある。
消防法によりガソリンスタンドは「給油取扱所」という危険物取扱施設としてのその設置、変更には市町村長(消防)の許可を受けなければならない。この規制は消防法が生まれた戦後の高度経済成長期にその骨格が形成され、考え方としては過密の進む都市部の住民がガソリンスタンドに滞留する危険物(石油類)の火災・漏洩などの事故から安全を確保することを主眼としている。このためその設置に係る位置、構造、設備の基準や給油取扱の安全水準は諸外国のスタンド規制からみてもかなり厳しく設定されている。しかし、昨今の日本の状況は当時とは様変わりし、これに対応した社会環境により適合したものへと変化させる必要があるとの判断から検討会が設けられ、次のような基準改正等が行われた。
1,セルフ式ガソリンスタンドにおいて、事業所内の固定危機で行うこととされてきた給油チェックをタブレット端末やスマートフォン(可搬式機器)による屋外チェックでも可能とする。(図1)
2,ガソリンスタンドに張り出している屋根(キャノピー)はこれまで敷地の3分の1を超える張出し面積があるとより規制の厳しい屋内型スタンドと分類されてきたが、この張出基準を3分の2まで緩和する。
3,ガソリンスタンドの営業時間外にスペースを活用して販売等他の業務を行うことが大幅に可能となった。これにより、宅配ボックスの無人営業や祭礼、イベントなどの一時利用も可能とする。
これらの規制緩和はいずれも危険物保安と整合性のとれた範囲内で実施されるものであるが、地域によってはそれでもガソリンスタンドとしての存続が危ぶまれる施設が数千あるといわれる。各自治体や地域コミュニティによる今後のガソリンスタンド存続への取組みに対し防災士として有効なアドバイスをすることがもとめられよう。
出典:消防庁
〈解説〉
岸田政権が発足して3カ月が過ぎようとしている。先の総選挙(10月31日)では事前予測に反して与党が安定過半数を握り、引き続き数字の上では安定した政治運営の基盤が確保された。しかし国民生活は、というと長引く新型コロナウイルス禍の影響は大きく、政府は総合的なコロナ対策を推進し、いわゆる“成長と分配の好循環”を実現すべく、11月19日に大型の総合経済対策等を決定、その規模は56兆円と経済対策としては戦後最大規模となる。これを実現するため、政府は12月6日召集の臨時国会に一般会計総額約36兆円の補正予算を提出、年内に成立させて疲弊した国民生活と経済を立て直すとしている。
経済対策と関連補正予算については、その一翼として「防災・減災、国土強靭化の推進など安全・安心の確保」も盛り込まれ、地球温暖化、インフラの老朽化、国家安全保障の確保などの分野における関連施策を推進するとしている。次表は公表された経済対策の当該部分の内容であり、防災士としても国民の安全・安心の確保のため国家として当面何を志向しているのか、また各省庁の施策項目はどうなっているのか、これらを知るうえで参考になるものと思われる。
コロナ克服・新時代開拓のための経済対策
(令和3年11月19日閣議決定)(抄)
(下線は引用者)
Ⅳ.防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保
1.防災・減災、国土強靱化の推進
気候変動の影響により激甚化・頻発化する風水害や、切迫する大規模地震・津波災害、火山災害等から国民の生命・財産・暮らしを守るため、防災・減災、国土強靱化の取組を強化していくことは喫緊の課題である。また、高度経済成長期以降に集中的に整備された我が国のインフラは、国民の安全・安心な社会経済活動の基盤でもあり、将来にわたってその役割を果たすべく、大胆な老朽化対策を講じる必要がある。
引き続き、災害に屈しない強靱な国土づくりを進めるため、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づき、あらゆる関係者が協働して流域全体で治水対策に取り組む「流域治水」等の人命・財産の被害を防止・最小化するための対策や、災害に強い交通ネットワーク・ライフラインの構築等の経済・国民生活を支えるための対策を講ずるとともに、予防保全の考え方に基づく老朽化対策に取り組む。また、インフラ部門のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や、線状降水帯の早期の予測開始に向けた整備の前倒し・観測体制の強化、災害関連情報の収集・集積・伝達の高度化といった防災技術の向上等、国土強靱化を円滑・効率的に進めるための取組を加速する。これらの対策に加え、本年7月及び8月に発生した大雨による浸水災害・土砂災害等を踏まえ、新たに取り組む必要が生じた対策も推進する。
・気候変動を見据えた府省庁・官民連携による「流域治水」の推進(河川、下水、砂防、海岸、森林・治山、農業水利施設等の整備、水田の貯留機能向上、ダムの事前放流・堆砂対策の実施等)(農林水産省、国土交通省)
・南海トラフ地震、首都直下地震等を見据えた住宅・建築物、学校施設、医療施設、社会福祉施設、矯正施設、公共施設等の耐災害性の強化(法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省)
・装備資機材の整備等による警察の災害対応力の強化(警察庁)
・消防防災力強化に必要な資機材整備・デジタル化等の推進(総務省)
・自衛隊の災害への対処能力やインフラ基盤の強化(防衛省)
・災害時情報伝達手段の多重化・高度化(デジタル庁、総務省、国土交通省)
・個別避難計画の作成など災害対応のデジタル化の推進(内閣府)
・被災後速やかな通行を可能とする高規格道路のミッシングリンク解消、4車線化、直轄国道等の防災対策<財政投融資を含む>(国土交通省)
・無電柱化を含む道路インフラの局所対策(国土交通省)
・陸海空ネットワーク(鉄道、港湾・航路、空港等)の耐災害性の強化(国土交通省)
・情報通信、エネルギー、上下水道等のライフラインの耐災害性の強化(総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、環境省)
・廃棄物処理施設の耐災害性の強化(環境省)
・河川・ダム、道路、都市公園、鉄道、空港、港湾・漁港、ため池、農業水利施設、学校施設等の重要インフラに係る老朽化対策(文部科学省、農林水産省、国土交通省)
・3次元モデル、カメラ画像等を活用したインフラの整備、管理などデジタル化の推進(国土交通省)
・安定した地殻変動監視のための電子基準点網の耐災害性の強化(国土交通省)
・線状降水帯、台風等による大雨等の予測精度向上等の防災気象情報の高度化対策(国土交通省)
・盛土による災害の防止(農林水産省、国土交通省、環境省)
・条件不利地域における地方活性化(豪雪地帯)(国土交通省)【再掲】
・海岸漂着物等に関する対策(環境省)
・放射線監視体制の機能維持(環境省) 等
2.自然災害からの復旧・復興の加速
東日本大震災等からの復興について、引き続き全力で取り組む。原子力災害からの復興を目指す福島については、東京電力福島第一原発の廃炉及び環境再生を安全かつ着実に進める。加えて、ALPS処理水の海洋放出による風評影響を最大限抑制すべく、対策に万全を期す。
また、本年2月に発生した福島県沖を震源とする地震、7月及び8月に発生した大雨等の自然災害による被災者の生活・生業の再建や復旧・復興、8月の海底火山噴火に伴う軽石漂着による被害への迅速かつ多面的な対応についても、全力で取り組む。公営住宅の再建・補修等により被災者の生活再建を後押しするとともに、新型コロナウイルス感染症による影響もある中で、引き続き厳しい状況に置かれている中小・小規模事業者等に対する施設復旧のための補助金等による生業の再建に向けた支援を行う。また、被災したインフラや病院・学校等の公共施設等について、速やかに本格的な復旧を図る。
(重点事業)
ALPS処理水:多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System)等により、トリチウム以外の放射性物質について、環境放出の際の安全に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化した水。
・ALPS処理水の海洋放出に伴う需要減対策(経済産業省)
・公営住宅の災害復旧(国土交通省)
・なりわい再建支援事業(経済産業省)
・河川、道路、鉄道等の災害復旧(国土交通省)
・農林水産業施設の災害復旧(農林水産省)
・水道施設、医療施設、社会福祉施設等の災害復旧(厚生労働省)
・学校施設等や文化財の災害復旧(文部科学省)
・北海道赤潮対策緊急支援事業(農林水産省) 等
3.国家の安全保障の確保を含む国民の安全・安心
周辺国の軍事力強化を含め、我が国周辺の安全保障環境がこれまでにない速度で厳しさを増す中、変化する国際情勢に迅速に対応し、国家の安全保障をしっかりと確保するため、研究開発の強化も考慮しつつ、ミサイル防衛能力や南西地域の島嶼(とうしょ)部の防衛等に必要な防衛力強化を加速する。また、領海警備体制の強化など戦略的な海上保安体制の構築に努める。加えて、在外邦人の保護体制強化や重要土地等調査法の円滑な執行を進める。
上記以外の様々な分野においても、特定石綿被害者等への給付金の支給や、企業が安心して海外展開するための人権尊重を含む責任ある企業行動の促進など、国民の安全・安心を確保するための取組を着実に進める。
(重点事業)
・自衛隊の変化する国際情勢への即応的な対応(防衛省)
・自衛隊の安定的な運用態勢等の確保(防衛省)
・戦略的海上保安体制の構築等の推進(国土交通省)
・外国漁船の違法操業等により影響を受ける漁業者への支援(農林水産省)
・危機管理強化に資する情報収集衛星の開発等(内閣官房)
・在外公館における邦人保護体制強化のための緊急対策(外務省)
・重要土地等調査法の円滑な執行(内閣府、デジタル庁)【再掲】
・特定石綿被害建設業務労働者等給付金の支給等(厚生労働省)
・特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等支給業務費交付金(厚生労働省)
・子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の化学物質分析加速化事業(環境省)
・地域の鉄道の安全確保や、鉄道駅のバリアフリー化・ホームドアの整備推進等(国土交通省)
・自動車事故による被害者救済対策の充実(国土交通省)
・原子力発電所周辺地域における防災対策の強化(内閣府)
・日本企業進出先国等における責任ある企業行動の促進(外務省、経済産業省)
【再掲】
等