防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する

防災評論(第136号)

山口明の防災評論(第136号)【2021年12月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1 大阪ビル火災~危険から逃れる“自助” 

〈解説〉
 2021年の師走に発生した大阪市中心部のビル火災に過去に発生した新宿歌舞伎町雑居ビル火災(2001年)、京都アニメーションビル火災(2019年)に匹敵する大惨事となった。これら三つの火災には多くの共通点がある。まずいずれも放火事案(大阪、京アニ)かまたは放火疑い事案(新宿)であること、犠牲者の多くが一酸化炭素(CO)中毒など有毒ガスによるものであること、さらにガソリンをまいて火をつけていること(新宿は例外)、多くが逃げ場を失って倒れてしまったこと、それと関連するが避難するための階段が一ヵ所しかなかったこと(いわゆる一方向避難の建物であったこと)等である。
 事件後、東京消防庁や大阪市消防局など全国の消防機関は間髪を入れず大阪曽根崎新地被災ビルに類似するいわゆるペンシルビルを衷心に特別査察を行った。当然、建築基準法や消防法に対する違反の摘発は重要であるが、これらの査察や立入検査の徹底のみでは今回のような放火事件を防ぐことはできない。放火犯の事前拘束が何より有効であるが、それには警察のみならず容疑者周辺の住民の異変を見極める力の涵養も不可欠である。  しかし、いざビル火災に出くわした場合、予め“心構え”があって自助力を発揮することができれば難をかわすことも可能であると京アニ火災を経験した京都市消防局は指針を作成している。防災の分野では地震、風水害への備え、自らが実践できる防災活動について防災士教育をはじめ、かなり幅広く知識は広がりと深みをもって知られてきているが、ビル火災については特に逃げるという行動についてはまだまだ普及していない。この指針は今後も偶発すると見込まれるビル火災からの生還のヒントを与えてくれるものと特筆できる。
 指針によれば、(1)2階以上にいるとき火災に巻き込まれた場合、階段での避難を優先する(エレベータは使わない)。階段が二方向にある場合、屋外階段や発火点から遠いところに位置するものを選び、竪穴区画のある屋内階段では、煙を遮断するため階段室の扉を閉める。(2)姿勢を低くして逃げる時少しずつ浅めの呼吸をすること。息を止めて逃げると途中で苦しくなって大呼吸し一気に有毒ガスを体内に取り込むおそれがあるからだ。このほか指針には身の危険を少しでも除去する色々な工夫が登載されている。防災士の皆様にもぜひ一読を勧めたい。





出典:京都市消防局




2、再生エネルギー急増と防災

〈解説〉
 地球温暖化をくい止めるとして国連のCO2(二酸化炭素)削減目標がCOP(気候変動国際会議)で議論され、各国はいやおうなく世界の潮流に取り残されまいと、基礎って再生エネルギー源の増強にひた走っている。再生エネルギーというと風力や潮流その他色々あるが何といっても手っ取り早い電源は太陽光発電である。このため再生エネルギー活用が叫ばれ始めた2000年代初頭から日本でも太陽光発電施設は急増、とりわけ2012年から再生エネルギー発電の固定価格買取制度(FIT)が創設されて以降太陽光発電はその主力として、それまでの都市部の住宅を中心に設置されてきた発電施設が一挙に山林や田畑などいわゆる“平場”に開発の手が伸び、全国の山林等至るところにソーラーパネルが大規模に設置される状況となった。
 再生エネルギーの強化と化石燃料系エネルギーからの転換は地球温暖化防止にとっては有効かもしれないが、他方国土の自然環境に脅威となっている面も無視できない。昨年起きた熱海の土石流災害でも土石流の始点付近に存在する太陽光発電所の影響が議論されたように、太陽光発電所は防災面からも十分留意されなければならない施設に変質しつつある。その際、平場設置の場所として安全確保がより求められる山林であり、かつ、渓流沿いや傾斜地への土砂災害発生への配慮が重要である。
 このように山林における太陽光発電の防災上の監視強化が求められる中、課題となっているのがタテ割り行政の問題である。山林開発の主軸となっているのが林野庁であるが、実際はその行政執行は県庁が担っており、県は押し寄せる太陽光発電開発申請の処理に手いっぱいの状態が続く。それでも林野庁はようやく太陽光発電施設の設置を目的とした開発許可基準に運用細則を定め(2019年12月)、その中で以下のような基準を盛り込んでいる。
(1)太陽光発電所の設置に伴い雨水の涵養機能が喪失するため、土砂流出係数を0.9~1.0という高水準に引き上げる。
(2)太陽光施設の表面流集中を防ぐための分散植生帯を設置させる。
(3)森林開発に際し、残置率を向上させる。
 他方、再生エネルギーを推進する立場の環境省は2022年省令を改正し、「促進地域」から土砂災害の危険地域の除外等を盛り込む方針である。さらに電力事業を所掌する経済産業省も電気事業法の枠内で2021年4月省令強化に踏み出した。問題はこれらの省庁の間で監視の強化も含めた総合的な防災体制、対策が採られていないことである。今後さらに再生エネルギー開発の進展が見込まれる中で政府全体の検討が急がれる。





出典:最近の森林開発許可件数と面積の推移(林野庁)

3、新形コロナウイルス感染下の災害対応

〈解説〉
 2021年7月以降新型コロナウイルス感染症の新規陽性者数が著しく増加、8月には1日あたり25,000人(全国)を超える極めて危機的な状況となった。その後責任を取る形で内閣が総辞職し、10月末の総選を経て政局の安定とともに感染状況も好転、2021年末では一日の新規陽性者数は東京都で多い日でも30名そこそこと小康状態が続きている。しかし、11月には新たな変種オミクロン株が発生、瞬く間にヨーロッパ、米州そしてアジアにも拡がり、12月には遂に日本でも市中感染例が出るに至った。こうしてコロナ危機はまだ収束のきざしは伺えず難しい局面が続く。
 このようななか、内閣府では感染拡大期における災害時の対応んみついて注意を喚起する通知を幾度となく発出し、コロナ禍においても発生しうる防災上の諸問題についての対応を明らかにしている。防災士においても、これらの点のうち特に災害避難時における感染症対策についての指針に関し、関心をもつ必要性がある。内閣府が示す避難所における感染症対策として重要なポイントは次の三つである。
①親戚や友人宅などへの避難の検討(対住民)
“難”を“避ける” ということが避難の根本であるという原点に立ちかえり、災害時に安全な場所にいる人まで避難の必要はないこと、安全は親戚や友人宅などへの避難についても検討すること。
②可能な限り多くの避難所の開放(対市町村、住民)
避難所における「3密」を避けるなどの見地から、災害想定規模にもよるが、あらかじめの指定避難所は可能な限り開設、さらにはそれ以外の避難所も確保し備えること。また各避難所の混雑状況に関する情報を防災無線、電話、配信サービス、HP、メール等で確認できるよう周知徹底を図ること。
③避難者の健康管理への準備やスペースの十分な確保(対市町村)
 避難者の健康管理や避難所の衛生管理のためのスペース利活用について内閣府作成のQ&Aを十分に参考にして準備すること。また感染疑いのある者に対する専用スペースや動線の確保、レイアウト等について参考図示するので対応すること。





出典:内閣府



[防災短信]

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