防災士の認証と防災士制度の推進で地域社会の防災力向上に寄与する
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
〈解説〉
消防団は一般の人がよく誤解しているようだが、防災ボランティアではない。防災ボランティアというのは自らの意思に基づいて被災地等に出向き、被災者等の生活支援や復旧、復興に協力したりする人々を指し、あくまでもその資格は一般市民であって公務員ではない。したがってそもそも俸給や公的負担を受けるものではない。これに対し消防団は消防組織法に定めのある公務員からなる組織(行政機関)であって、その使命、任務は法令により明示され、活動に対して団員報酬や手当、さらには公務員災害補償の支給等の待遇が保障されている。ただその構成員である団員は一般の公務員のように常勤として採用されておらず、専ら志願によって自らの主たる日常業務の合間を割いて消防防災活動に従事するのが原則であるところから、ボランティアのように見られがちである。
しかし消防団員は公務員であり消防という秩序維持行政の一翼を担う存在であるから法令上も各種公権力の行使が認められている。公権力の行使は国民主権に基づき国家の利害と秩序保持のために発動されるものであり、その行為が国民や外国人らの権利を制約する場合もあるところから、これら公権力行使をすることができる公務員は日本人(日本国籍を有する者)でなければならないとするのが法理・判例である。このため消防団員に外国人が登用されることは難しいとされてきたが、消防団の持つ公権力行使機能に直接従事しない分野において外国人を充てることは可能であり、最近そのような考えに沿った動きは一定の市町村において現実化している。
このたび第26回「防災まちづくり大賞」受賞団体の決定に際しては滋賀県草津市における外国人留学生等による消防団員の取組みが総務大臣表彰を受けたが、このような外国人登用の流れが公に顕彰された画期的な事例となった。背景には草津市では外国人住民は増加しているにもかかわらず、防災教育の不足や地域の日本人との交流機会が少ない、災害時のコミュニケーションにも課題があったこと、市内に大学が数多く立地し、その30%を占める外国人留学生が防災への関心を強めていたこと等がある。このような状況を抱えている自治体は全国各地にあり、今回の草津市での受賞は他自治体にも大きな影響を与えると思われる。今回のケースでは機能別消防団の活動分野に限定した外国人消防団員が対象とされた。さらにこの動きが拡充していくためには制度面の整備も必要となるかもしれない。
出典:総務省消防庁
〈解説〉
約20年前に44名もの人が狭い飲食店で犠牲になった新宿歌舞伎町ビル火災、その後も京都アニメーション火災や大阪心療クリニック火災などビル火災は度々発生して世間を騒がせているが、その犠牲者数においては依然として歌舞伎町ビル火災の右に出る災害はない。それだけこの火災はインパクトが強かった。この時総務省消防庁は30年ぶりといわれる消防法の改正を断行。建築基準法に準じる「防災対象物定期点検制度」など多くの新たな規制が導入され、またこれらの規定に違反した者に対しては最高額1億円に罰則が引き上げられた。この大改正の中でも特筆できるのは消防吏員による避難障害除去命令の創設であろう。
消防は警察や労働基準監督署と並んで広義の警察権をもともと持っているが、警察官単独が「警察官職務執行法」(警職法)という強い即時権限を行使できるのに対し、消防吏員単独にはそれに相応する権限は少なかった。どちらかというと対象者の人権上、生活上の配慮などを重視する消防としてその権限行使は制約的であった。しかし歌舞伎町ビル火災の甚大な被害を目の当たりにして急迫の違反除去に対応することがどうしても必要となり、平成14年(2002年)10月から改正消防法により消防吏員に即時除去命令という強い権限が与えられることとなったのである。この改革により、それまでは違反留置物を確認してもいったん消防署に持ち帰って除去指導をしなければならなかった手続きを、指導に従わない場合や指導を待つ暇がない場合、吏員は現場で即時に当該物を除去するよう命令することができるようになった。(消防法第5条の2)
歌舞伎町ビル火災では多くの犠牲者が迫りくる有毒ガスの煙に巻き込まれて命を落とした。その原因を階段一箇所しか避難路がなかったこととする指摘があったが不正確である。確かに階段は一箇所であったがより重要なことはそこに大量の物が置かれていて、その階段自体が避難路として使えなかったことがより致命傷となった。雑居ビルに二方向避難路を設置することが難しい現状をみると、この吏員による除去命令は非常に重要な意味を持つことがわかる。
東京消防庁では令和3年末までにこの命令を2,500件以上発動して、直ちに置かれている物の除去を強力に推進している。防災士も雑居ビルに立ち寄った場合、階段など避難路付近に荷物が山積みになっていないか普段から関心を持って行動しよう。
(表)階段・廊下のチェックポイント
・火災時の避難経路となる階段・廊下の管理状況を日頃から確認していますか?
・避難経路である階段・廊下に物が置かれていませんか?
・防火戸や防火シャッターの近くに作動の障害になる物はありませんか?
・消火器や誘導灯など消防用設備の近くに使用の障害となる物がありませんか?
(出典:セイフティライフ東京 2022年第21号)
〈解説〉
防災士に求められる知識と実践のうち、特に災害発生後の復旧・復興段階において自らの家庭(住宅が中心)やその他財産を無くしたり棄損した人からどのような公的助成制度が自分の場合使えるのか、という問い合わせにある程度的確に対応できる能力を養ってゆくことは意外と重要である。被災者にとって最も切実な期待であり、それにある程度応えられてこそ一級の防災士と言えるのである。そのため防災士資格を取得したあとも日本防災士機構や日本防災士会と接触を保ち、より深い防災知識を涵養することが非常に大切であるが、そのための知識取得上の要点とは以下のとおりである。
(1)公的助成。公的支援制度は毎年少しずつではあるが変化してゆくのが通例である。このため政府の防災白書などの刊行物や公的情報入手手段により日々アップ・トゥ・デートな知識水準を確保してゆくこと。
(2)各地域や自治体・都道府県により公的助成・公的支援制度は異なる。国の制度は最低限のレベルと考え、プラスアルファの支援・助成は自らの地域がど うなっているのか地域防災計画のチェックをはじめ自治体担当者との交流や研修会の開催など情報入手手段を多様化しておくこと等をまず心がけたい。
次により基礎的に知っておきたいこととして支援・助成制度の適用にあたってはどの制度にも共通であるが、「災害の種類・規模」と「個人の損害程度」の二つのベクトルが関数となるマトリックスの中で判定してゆく仕組みが前提であるということを忘れてはならない。すなわち個人の損害がどれほど甚大であっても制度の適用される災害の規模等が小さい(適用外である)ときは支援制度を受けられない。逆に個人の損害が軽微であっても巨大災害に遭遇した場合期待以上の支援、助成を受けられることがある。このタテとヨコの組み合わせだけでは被災者救済上不公平、不平等という意見もあるが行政の公平、効率な執行ということも残念ながら事実である。
公的支援の代表選手のように言われる被災者生活再建支援法も1998年の制定以来多くの議論と改正により現在の姿に至っている。この間二つの要素で対象となる「災害の種類・規模」も「個人の損害程度」も大きく変化してきた。全般的には救済拡充の方向であるが、現実には制度の複雑化に伴い、救済されるか否かより微妙な状況も生まれている。災害救助法も同様であるが、防災士には正確な制度把握と現状認識さらには行政に正しく訴えていく力が求められる。
以下は、最近の報道記事の見出し紹介です。