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防災評論(第141号)

山口明の防災評論(第141号)【2022年5月号】

山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。

1、災害と予備費~予算の透明性確保 

〈解説〉
 2022年9月27日に実施予定されている元総理大臣の国葬費として政府は2億円強を予備費から充当する方針である。日本国憲法第87条によると「予見しがたい予算の不足に充てるため予備費を設け、内閣の責任で支出する」ものを予備費というが、国葬に至った経緯を考えればこの支出は予備費の正確に合致するものといえるであろう。こうしてわが国の予算では毎年5000億程度の予備費枠が設定され災害など不測の事態に備えることを通例としてきた。
しかし、新型コロナウイルス感染症が爆発的な広がりを見せた2020年度の補正予算において政府はこれまでの予備費とはケタ違いの9兆6,500億円という膨大な規模の「コロナ対策予備費を計上」、憲法にあるようにこの予備費は内閣(行政)の自由に執行できるためその額の大きさに多少の多少の異論もあったが、コロナ禍という異常事態を前にスンナリと国会を通過、その後2021年度、2022年度の当初予算においてもこのコロナ枠計上が踏襲され、合計20兆円もの規模に達した。
もちろん政府の説明のようにコロナなどの大規模災害に匹敵する危機に際し、柔軟かつ機動的に対応できる予備費は必要であろう。しかし今回のような並はずれた規模が今後も‟既得権”として政府のもとに確保され続けるとなるとそれは大きな懸念材料となる。
 財政は民主主義国家を支える重要な柱であり、その内容はできるだけ詳細かつ具体的に予算として計上され国会の審議を仰ぐのが基本ルールである。
今回のコロナ禍においても予算成立後の金額の変動はあろうが、例えば地方自治体向けの地方創生臨時交付金(予備費から3兆8700億円支出)などは支出としてしっかり予算に計上しておくべき事項であり、地方自治体の支出自体が「予見しがたい」ものであるとする証拠は薄弱である。また、予備費は予算項目と合わせ執行されることが多い(例えばワクチン対策補助金)ので、省庁にとって「第二の財布」として便利に活用される場合もある。もとより予備費の支出は内閣から事後に国会の承諾を得ることとなっているが(憲法§87②)、万一予備費の執行に不手際があって国会の不承諾となるような事態になっても既に行った支出行為は有効とされる。
 金額のみに目を奪われ、その支出根拠はどうでもよいという考えでは防災対策をはじめ各般の施策に国民の十分な監視が行き届かないのである。







2、増勢に転じる電気火災~その対策と盲点

〈解説〉
 災害の中でも最も身近な火災、普段“火の元に注意”という合言葉とともに発火源となる裸火はもちろん、ガス、石油類などの可燃性物質に注意を払っている人は多い。しかし、発火源が電気である場合、電気自体は目に見えて炎が出ているわけではなく異臭もしないため、火災対策としては意外に見逃されている面がある。
しかし電気を出火源とする電気火災は東京消防庁管内だけを見ても毎年千件を超える事故数が報告されており、それによる死者も毎年コンスタントに10人を超える数を記録しており、出火災に占める電気火災の比率は決して低いとはいえない。(表1参照)




そしていざ出火した場合先ほど述べたように、普段余り意識していない状況下で火災となるので火の回りが早く、対策が後手に回るケースが多いのが特徴である。東京消防庁防災専門家がまとめた電気火災の特異な例として次のようなケースが報告されている。
(ア) ゴミ収集車の収納箱内での火災
充電式の電池が可燃ゴミに混ざってゴミとして収集されたが、ゴミ収集車内の収納箱の中で他のゴミの圧力によってその電池が押しつぶされて焼損して出火、それがゴミ収集箱全体に延焼したもの。
(イ) 机脚に踏みつけられたコードからの出火
机の下に不用意にその机脚で踏みつけられたまま長く放置されていたテーブルタップのコードが劣化、配線被覆が損傷したことによりショートし出火したもの。
(ウ) コンセントプラグに異物が接触した火災
差し込んだコンセントプラグには表面にわずかではあるが平面がある。そこにハンガーを掛けておいたところ、プラグのゆるみよりフックが プラグの接触面に入り込みショートした事例。プラグの接触面が溶解するほど発熱した。
(エ) ポータブル電源が起因する火災
ポータブル電源はアウトドアのみならず最近は停電に備えて室内で防災用に利用する人が増えている。しかしその電源はリチウムイオンバッテリーであり、そもそも発火リスクが大きいうえ、暑さがこもる車内や室内では自然発火の危険が更に高まる。(毎年10件内外の事故例が報告)
 このほかトラッキング(湿気などにより差し込みプラグ間に電気回路が形成され出火する現象)も注意すべき出火原因であり、コンセントを定期的に点検・清掃することが必要である。
 電気火災は使用される電源の多様化により2021年度は東京管内で1,400件近くと、ここ5年間で最多を記録した。漏電火災は制御されたが、原因は変化しつつある日常生活に新たな脅威となっている。





[防災短信]

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