山口明の防災評論(第146号)【2022年10月号】
山口明氏による最新の防災動向の解説です。
〈解説〉とあるのは山口氏執筆による解説文、〈関連記事〉はそのテーマに関連する新聞記事の紹介です(出典は文末に記載)。防災士の皆様が、引用、活用される場合はご留意の上、出典を明示するようお願いします。
1進められるか ため池の防災保全
〈解説〉
日本は「みずほの国」とも称されるように温帯モンスーン地帯のアジア東端に位置し、季節風の卓越が顕著であるため四季を通じ降雨に恵まれている。それが毎年のように豪雨災害を被る元凶ともなっているのだが、降雨、降雪、すなわち水が豊富という風土は砂漠や半砂漠に位置する大陸部の多くの地域より、人間の生存条件としてはるかに優位にあることは疑いない。ある開発途上国のように児童が遠方への水汲み仕事に動員され学校にも通えないという事態は今の日本には存在しない。
しかし、その降雨量については日本列島均一ということはない。このため古来から渇水期に備えため池を造成するという知恵を働かせて生活が営まれてきた。その主たる用途は飲用というよりはむしろ農業生産用水利施設であり、したがって全国にあるため池はほぼすべてが農業用ため池であり、昨年12月末での農水省調査によるとその総数は約154,000箇所に及んでいる。このように農業と切っても切れないため池だが、近代日本においてはダムをはじめとする大規模利水事業が推し進められ、次第に江戸期以前に大半が造成されたため池の価値は低減してきているのが実情である。中には平安期の弘法大師によって造築されたと伝えられる満濃池(香川県)や狭山池(大阪府)なども現存するなど、その殆どが近代的な防災技術基準に基づかない設計となっている。
したがって従来からため池に絡む災害は数多く報告されてきた。しかし何といっても平成30年(2018年)7月の豪雨災害(西日本豪雨)では1都10県に大雨特別警報が発令されるなどかつてない大雨に見舞われ、結果2府4県で計32カ所の農業用ため池が決壊し、ため池周辺のみならず下流域に大きな被害が発生した。また、豪雨が去ったあとも変状を呈したため池からの決壊・流出が懸念されたため、長い期間にわたって下流域に避難指示が出し続けられるなど大きな社会不安を与え、ため池問題の抜本的解決が政治問題化することとなった。
このため現在では2本の法律が相次いで制定、施行され、ため池に係る防災対策の柱とされている。一本目は平成31年(2019年)のいわゆる「ため池管理保全法」であり、もう一本は令和2年(2020年)に登場した通称「ため池工事特措法」である。実はため池災害の危険に直面する地方公共団体や農林団体から「保全法」では総花的で不十分であり、より強い危険性のあるため池(防災重点農業用ため池、全国で約55,000カ所指定)にもっと集中的に対応・投資すべきという声が高まり、「特措法」は議員立法により急遽あつらえられたという経緯がある。「特措法」の要諦は”重点ため池”の評価と改修が必要なものの計画的実施、さらには今後不要と見込まれたため池の廃止工事(除去)である。
「特措法」が制定されてから2年が過ぎた。西日本豪雨のような大規模なため池災害はその後報告されていないが、今こそ計画や工事の前進を図り、ため池災害の未然防止を図る大切な時期に来ている。
(図)農業用ため池の分布(令和3年12月末現在)
出典:農林水産省
[防災短信]
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